仕事にトラブルは付き物
リミスに仕事を押し付けられてから次の日。
アルメは今日も変わらず、デスクで仕事に明け暮れていた。
「なんなのこの世界…混沌部は何を考えてるの?」
アルメに任された世界は、文字通り混沌を極めていた。
その世界は、語り始めると止まらない程の重たい過去の魔王により世界が滅亡する寸前であった。魔王の手下により作物も荒らされ、王国は滅亡寸前。しかし国王は優柔不断で対策が遅く、国民は限界まで追い詰められている。
更にこの状況でも救世主は現れず、国民が全てを投げ出す寸前で、この世界に勇者を召喚する事が決まった所だった。
「またややこしい世界を送ってくれたわね……」
とりあえず、アルメはこの世界に派遣する人に必要な特徴を並べ始めた。
「この魔王の過去的に……元気すぎちゃダメね。あと、特に強さが必要で……優しすぎると余計に怒らせちゃうかも」
アルメはキーボードをカタカタと鳴らしながら、この世界に必要な人の条件をリストアップする。
「うーん……これくらいかしら。あとは転生管理部に送って、と……」
転生管理部は混沌に、または救済したい世界に転生・転移させる人を見つけ出し、いつでも転生させられるように下準備を行う部署で、主に混沌部、救済部と深い関わりがある。いわゆる人事部に近しい所だ。
そして、亡くなった人の魂などを管理しているのも転生管理部である。
「その間に次の世界の……あれ、もう見つかったの?」
他の世界に必要な人の条件をリストアップしようとした瞬間、ピコンと通知が鳴る。聞き慣れたその音は、転生管理部から人材が見つかったことを伝えるものだ。
転生管理部に条件を送ってから派遣されるまでは大体数十分かかるのが基本なのだが、なんとものの数秒で見つかってしまった。
かなり珍しい事だが、おかげで仕事を早く進められる。
「どんな人かしら……どれどれ………うん、悪くないわね、この人にしましょう」
リストに載っている人物はトラックに轢かれ亡くなり、転生管理部によって管理されていた魂のようだ。
強さは✩5、優しさ✩3.9、明るさ✩1.7。どれも条件通りだ。さすが転生管理部。
「それじゃあ派遣、っと」
アルメが派遣ボタンを押すと、パソコンの画面には派遣された人材と、右上のパーセンテージ。
このパーセンテージは現在の混沌度を表す…つまり、世界がどれだけ終わりかけているかを表すものだ。ちなみに、今現在は89%となっており、いつ世界が滅亡してもおかしくない。
今から人を派遣して間に合うかはわからないが、上手く行くことを祈るばかり。
(ここからが私の力の見せ所ね……!)
救済部の仕事の基本は、もちろん人を派遣するだけではない。
重要人物にちょっとしたアイテムを渡したり、3回まで伝えられる神の助言をする事で、救済へと導くのだ。
さて、これからこの召喚された勇者は無事魔王を倒せるか……これが倒せずに終わってしまうと、世界が滅亡し上司から怒られてしまうので、気を付けていきたい所である。
『ここは……?僕は死んだはずじゃ』
無事勇者は召喚されたが、まだ戸惑っている様子。正直こちらには時間が無いので出来るだけ早く順応して欲しい。
『本当に成功するとは、勇者様……あなたには、あの悪行の限りを尽くす魔王を討伐してもらいたいのです』
『僕が勇者?魔王を討伐?何言って―』
「えっ?」
勇者のお決まりのセリフを聞いていたら、突然勇者が半透明になってしまった。
長いことこの会社で働くアルメも、初めて見る症例だ。
『ですから、勇者様は魔王を討伐するために召喚されまして―』
突然人が半透明になったと言うのに、勇者を召喚した人物は特に驚く様子もなく、どうやら周りは…否、恐らく本人すらも、勇者が半透明になった事に気付いていない様子。
(パソコンのトラブル?でも、勇者だけが半透明になるなんて変よね……)
「た、大変です!フロル部長!あれ、フロル部長は……!?」
原因不明の謎の現象に頭を悩ませていると、転生管理部の服を着た社員が勢いよく救済部室の扉を開ける。
フロルを探していたのか辺りを見回すも、見つからず困っている様子。
それもそのはず、フロルは先程アイテール総合会議に行ったばかりで、戻ってくるまでに数時間はかかる予定だ。
「い、いらっしゃらない……!どうしよう……あっ」
ふと、慌てながら辺りを右往左往する社員と目が合ってしまった。
「アルメさん!!」
安心したと言わんばかりに笑顔で近付いてくる社員。
アルメがいくら自他共に認める有能と言えど、今は半透明の勇者の対応を考えなければならないので他に行ってほしい。出来ればどこぞのサボり魔などに。
「えっと……悪いけど、今ちょっとトラブルの対応中で―」
「聞いてくださいアルメさん!転生管理部のミスで1人が2つの世界に入っちゃったんです!!」
「…………え?」
どうやら、想像よりも面倒なことに巻き込まれてしまったらしい。




