アルメの憂鬱
白い壁、沢山の書類、相談する社員の声、キーボードのタイピング音。
職場によくある景色だが、この会社は普通の会社とは違う。
なぜなら――
「あ〜やっっっっと救済終わったー!!」
この会社は、世界を救うのが仕事だからだ。
「も〜疲れた!混沌部ってばまた無理難題を押し付けて……」
今日も今日とてまた1つ世界を救ったアルメは、デスクにまだ置かれている書類の山から目を逸らし、大きく伸びをした。
今回は本当に骨が折れる仕事だった。というのも、混沌部が送ってきたのはそれはもう救いが無さすぎる世界だったのだ。
転生した人の仲間は皆死に、周りからは魔王を倒せなかった事を責められ続ける。挙句の果てに、転生した人は自暴自棄になっていた。そこから救済へ持っていくのは、恐らく今までで一番大変だったと言っても過言ではない。
「もうあんな仕事は懲り懲りよ……」
アルメは大きくため息をついてから、また目の前のパソコンに向かい合う。
「まだこんなに仕事があるなんて信じられない……いややるのよアルメ、私なら出来るんだから」
退勤時間まであと5時間近く。しかしアルメは自他ともに認める有能なので、ギリギリ定時で帰れそうだと思っていた。
「せぇ〜んぱ〜い!!あたしの仕事はこれで〜っす!よろしくっす〜」
サボり魔の大ハズレ同僚、リミスが仕事を押し付けるまでは。
「リミス……!自分の仕事は自分でやりなさいって言ったわよね!」
「そんな固いこと言わないで、あたしも救済してくださいよ〜」
「私が救済するのは世界だけであなたは入ってないのよ……」
「人間観察も仕事のうちっす!それじゃ、あたしは失礼しま〜す」
リミスはそそくさと立ち去り、人間観察へ向かってしまった。
「リミスめ……許さないわ、もう我慢の限界よ!フロル部長に報告するしかないわね……!」
アルメは勢いよく立ち上がり、フロル部長の座る席へと歩いていく。
いつにも増して険しい顔をするアルメに、皆のキーボードを打つ手が止まり、救済部室内はざわつき始める。
「アルメ先輩がお怒りよ…!またリミスが何かしたんだわ」
「リミスも懲りないよね……なんでまだクビになってないの?」
そんな声にアルメは内心激しく首を縦に振りながら、部長の席の目の前にまでやってきた。
「お疲れ様です、フロル部長。お話があるのですが、今お時間よろしいでしょうか」
アルメは怒りを滲ませながら、フロルへと話しかける。
しかしフロルの目線はパソコンに夢中なようで、アルメには気付いてすらいないようだ。
「しまった、このタイミングだったか……」
どうやら話しかけるタイミングを間違えてしまったようだ。
というのも、救済部の部長であるフロルは仕事が出来る人物であるのは間違いないものの、なんとも癖が強い人なのだ。
「うひっ…うふふふっ…!」
フロルの頬は赤く染まり、気味が悪い程口角を上げている。
「あぁ、なんて素敵な瞳なの……そんな希望に満ちた目をしないで頂戴…!わたくし、止まれなくなってしまいます……!!!」
呼吸を荒くしながら救済を生き甲斐にしているこの人こそ、世界救済部の部長、フロルである。
「あの、部長……」
「ああっ、わたくしはこの為に生まれてきたの……!!」
両手を頬に添えながら笑っていたフロルが、ついにこちらに気付いた様子。
フロルはこうなるとしばらく周りが見えなくなるので、アルメは諦めて自分のデスクへと戻ることにした。
「どこもかしこもロクな人がいない……誰か私も救済してくれないかしらね……!!!」
怒りで拳を強く握り、デスクの上に更に置かれた仕事を見る。
人の分までやる必要がないのはそうなのだが、仕事柄放置してしまうと世界が救済されずに大変なことになってしまうので、帰ろうにも帰れないジレンマ。
「リミス……覚えてなさいよ…!!」
『悪の撃退・無力化に成功、混沌度は14%まで低下。救済完了です。お疲れ様でした』
聞き慣れた無機質な音声が、やっと最後の仕事が終わったことを告げる。
「お、終わった……やっと終わったのね……!」
アルメは嬉しさのあまり涙が出そうだった。
なぜなら、今の時刻は定時から3時間も過ぎていたからだ。
仕事を押し付けた張本人もあれから姿を現しておらず、小言すら言うことも叶わない。
「明日こそはあいつの仕事を押し返すわよ……!」
アルメはそう心に決めて、やっと帰宅するのだった。
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