↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/62

【第5話】「聖女の計算と、死角の完全無効化(ジャスティス)」

「ちょっと貴方たちィーーーッ!! いい加減にされ高座(およし)なさいッ!!」

アイ先輩の可憐な(フリをした)爆音がダンジョン中に響き渡る。

ポーションを煽りきって完全復活した俺と、胃痛で倒れかけていたタダシの前に、凄まじい「聖女の仮面」を被ったアイ先輩が滑り込んできた。

さっきまで死んだ魚の目だったアイ先輩の瞳は、今や正義の輝きに満ちあふれている。当然、視線の先にはカズキ先輩と子供たちだ。

「都落ちの戦士殿! 貴方たちのそのイタすぎる範囲大技のせいで、カズキ君が連れている『未来の英雄たる子供たち』が土煙を吸い込んで溺れかけそうになっているのが見えないの!? ギルドの宝である子供たちを危険に晒すなんて、管理者として、一人の大人として断固として許しませんッ!!」

「な、何だとォ!? だから俺たちは規約の範囲内で――」

若い贅肉戦士が反論しようと言葉を荒らげた瞬間。カズキ先輩と子供たちからは完璧に見えない『死角』に入ったアイ先輩の瞳が、漆黒のデスアイへと完璧にパージ(換装)された。その目の据わり方は、本物の魔物よりも恐ろしかった。

アイ先輩はおじさん二人組にだけ聞こえる極小の声を耳元に這わせ、冷酷に告げた。

「規約の穴を突けば許されると思ってんの? 私が今ここで『児童虐待および重大な危険行為』としてギルド本部に報告書を回せば、貴方たちの冒険者資格、一発でBAN(剥奪)よ。…あ、ちなみに。うちのギルドだけじゃなく、隣町のギルドのA級ハンターの『彼氏』にも話を通して、貴方たちの名前、全ギルドのブラックリストに回させてもらうから。分かったら今すぐそのむさ苦しい身体ごと、通路の端っこへ失せなさい」

他所のギルドの男までキープして利用する、徹底した隠蔽型・狡猾ビッチの職権乱用パワープレイ。

あまりの恐怖と絶対的な理不尽に、老獪な爺さんも、若い贅肉も、短い悲鳴を上げて完全に硬直した。

そしてアイ先輩は、カズキ先輩のいる方向へと素早く振り返る。その瞬間、表情は一瞬で「子供たちの安全を心から憂う、健気で有能な後輩」へと180度反転した。

「大丈夫よ、良い子のみんな♪ 恐ろしい地雷プレイヤーは、このアイお姉さんが成敗したからねっ! ――カズキ君、これで通路も安全ですぅ〜♪」

「あ、ああ、ありがとうアイさん……(引き気味)」

カズキ先輩が子供たちを連れて隣のエリアへ移動し、通路から完全に姿を消した、まさにその直後だった。

アイ先輩の「聖女の仮面」が、剥ぎ取られるように一瞬で消滅した。

「ちょっと貴方」

アイ先輩が、ヒールの音を激しく鳴らしながら、俺の前にズカズカと詰め寄ってきた。その目は、タダシに向けるものと同じ『ゴミを見るような絶対零度のデスアイ』だった。

「さっきカズキ君が見てる前で、私より先に格好つけて前に出て、相手の大技を受け止めたりなんかして。…目立ちたかったわけ? 雑魚のくせに私のアピールの邪魔(手柄の横取り)すんじゃないわよ。目障りだから、今すぐその薄汚いツラごとダンジョンから消え失せなさい。不敬罪で本部に通報されたいかしら?」

カズキ先輩がいなくなった途端、これである。自分への手柄とイケメンへの評価しか頭にない、狡猾ビッチとしての本性が剥き出しの理不尽な八つ当たり。

アイ先輩は盛大に舌打ちをすると、「あーあ、マジで視界が汚れるわ」と吐き捨て、フイっとカウンターの奥へと戻っていった。

横にいたタダシが「あ、アイ先輩……」と声をかけるが、アイ先輩は息を吐くような冷酷な無視(絶対零度)でタダシの存在を完全抹消した。タダシの勘違いが虚空に消え、哀愁がすごすぎる。

――だが、その一連の地獄のような怒号と冷酷な罵倒が飛び交う中、通路の最端には、1ミリも動かない『奇妙なオブジェクト』が固定されていた。

「ひゃうん……! 都落ちの二人がガチで脅されてる……! しかもタダシは無視されて虫ケラみたいな目で見られてる……! あの冷たい空気、鋭い舌打ち……最高……最高すぎるぞぉぉぉ……!!」

コイキングおじさんだった。

おじさんはアイ先輩が放ったすべての負のエネルギー(デスアイと罵倒)を間近で浴びたことにより、完全に新しい何か(マゾ)の極致へと到達。頬を怪しく紅潮させ、息を荒くしながら、その場にカチコチに凍りついたように【恍惚の表情で完全固定】されていた。周囲の緊迫した空気など、おじさんのとろけた脳内には1ミリも届いていない。

(……あのおっさん、完全に手遅れだな。放っておこう)

俺がやれやれとため息をついた、その時だった。

「おい、クソ素人が……。よくも大勢(みんな)の前で、俺たちに恥をかかせてくれたな……!」

背後から、低く殺気立った声が響いた。

振り返ると、アイ先輩に怯えて通路の端へ退散したはずの、あの【老獪バタフライ爺さん】と【若い贅肉バタフライもどき】の二人組が、カズキ先輩もアイ先輩もいなくなった通路の『死角』を利用して、こっそりと俺を逆恨みで取り囲んでいた。

上級ギルドの看板を背負い、格下の素人(俺)をナメ腐っていた彼らにとって、俺のせいで大恥をかかされたのは、絶対に許せないプライドの崩壊だったのだ。

「ギルドの管理者がいなけりゃ、お前みたいな素人、ただの肉塊なんだよ! 悪く思うなよ、さっきのトドメの一撃、ここでブチ込んでやるッ!!」

怒り狂った若い贅肉戦士が、俺の至近距離から、先ほど俺を絶体絶命に追い詰めた最大級の破壊力の大技(バタフライもどき)を容赦なく放ってきた!

「レン殿、危ないっ……!!」

高台からタダシが絶望の悲鳴を上げる。

だが、俺は一歩も動かなかった。死んだ魚の目をギラリと燃え上がらせ、ただ不敵に笑ってみせた。

(遅いんだよ、地雷プレイヤーども。お前らの大技は、さっき俺が身を挺して『3回』直撃で喰らった時点で、完全に解析し終えてるんだよ……!)

【固有スキル:不屈の正義(アブソリュート・ジャスティス)、完全発動】

ドッパーーーーーン!!!

通路を粉砕せんばかりの凄まじい衝撃波と土煙が、俺の肉体を直撃した――はずだった。

スカッ……。

次の瞬間、二人組が全力を込めたはずの殺傷力の高い一撃は、俺の身体をただの心地よいそよ風のようにすり抜け、パキィィィンとガラスのように砕け散って完全に【無効化(征伐)】された。

「な……え……? なんで無傷なんだよ……!?」

腰を抜かさんばかりに驚愕し、目を見開く贅肉戦士と爺さん。

俺は無効化バリアを纏ったまま、一歩、力強く足を踏み出し、彼らを冷徹に見据えた。

「言っただろ。お前らの『他とは違う感を出したいだけの大技』なんて、俺の正義には1ミリも通用しねえんだよ。上級の看板が泣いてるぜ、雑魚どもが」

「ひっ、ひいいぃぃっ……!! モンスター(化け物)だぁぁぁッ!!」

どんな攻撃も100%完全無効化して詰め寄ってくる俺の底知れない気迫(プレイスキル)に、都落ち二人組は完全に恐怖に叩き落とされ、涙目でダンジョンの外へと逃げ去っていった。

その横で、コイキングおじさんだけは依然として「もっと……もっと踏んで……」と恍惚の表情のまま、通路の端に固定され続けていた。完全なる征伐である。

「す、凄い……!! レン殿、あの都落ちベテランの全力の猛攻を、真っ正面から完全に無効化(征伐)して退散させるなんて……!!」

高台の上で、タダシが本日一番の涙を流して大感動していた。

「ふぅ……。タダシ、見たか。世界がどれだけ理不尽でも、俺たちの正義と努力は1ミリも死んじゃいねえよ」

俺は肩で息をしながら、タダシに向かって不敵に笑ってみせた。

精神の大事な部分はごっそり削られた気がするけれど、【不屈の正義】を持つ俺は、間違いなくこの不条理な魔境(ダンジョン)の主役として、タダシと共に最大の地雷どもを征伐してみせたのだ。

「さあ、お前(衛兵)の仕事はまだ終わってねえだろ。通路が綺麗に空いたんだ、今日のノルマの最後の1匹、狩らせてもらうぞ!」

「――応ッ!! 私はギルドの衛兵! レン殿の背中、最後までお見守りいたしますッ!!」

俺の熱い行動に魂を震わせたタダシが、涙目で再び魔笛をカッと構えるのだった――。

(第5話完



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。