↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
4/64

【第4話】「規約の死角と、死線(3回)を越える不屈の盾」

「はぁ……。コイキングのおっさんだけでお腹いっぱいなのに、次から次へと怪異が湧きやがるな……」

マダムたちの固有結界【ワルブルギスの夜】が解体された後、俺は日課のレベル上げを再開していたが、この田舎の格安ダンジョン(魔境)の本気の理不尽はここからだった。

ズドォォォォン!!! ドッパーーーーン!!!

背後から、ダンジョンのボスが出現したかのような、これまでとは明らかに次元の違う凄まじい地響きと、大爆発の衝撃波が通路を襲った。あまりの激しさに、素人の俺は通路の壁に強制的に叩きつけられそうになり、渋々振り返る。

そこにいたのは、頭にびっちりと【上級ギルドの限定紋章】が刻まれた漆黒の防具を被った、二人組の戦士だった。

一人は、全盛期のキレを完全に失い、計算高く通路の片側が空くのを待ってドヤ顔で大技を放つ【老獪な老兵の爺さん】。

もう一人は、かつてはマッスルだったのだろうが、今やその筋肉が順調に贅肉へとクラスチェンジしている【元マッチョの若い戦士】。

若い贅肉のほうは、技術が絶望的に足りていない【バタフライもどき(劣化戦技)】を無謀に乱射し、周囲に猛烈な土煙と破壊的な衝撃波を巻き散らしている。

「そこまでだ、都落ちの戦士殿ーーーッ!!! ギルド規約第4条『他者への配慮』に抵触している! 狭い初心者通路での範囲大技の連発は危険行為!」

第2監視塔から、タダシの熱血な大声(拡声魔法)が響き渡る。だが、二人はピタッと大技を止め、何食わぬ顔で通常の移動姿勢に戻る。

「おいおい衛兵さん、俺たちはただ規定通り、右壁沿いを移動しているだけだぜ? 何か規約に違反しているか?」

老獪な爺さんがニヤニヤしながらタダシの警告を受け流す。

若い贅肉のほうも「そうだぞ、俺たちは他人に直接攻撃はしていない。土煙がちょっと舞ったくらいで、規約違反で厳重注意できる根拠があるのかよ」と、小馬鹿にしたようにタダシを見上げる。

彼らは【タダシに正式に処分されないギリギリのグレーゾーン】を完璧に計算して、イキり散らしていたのだ。

「ぐっ……。し、しかし、後続の冒険者や子供たちが足を止めています!」

タダシは拳を握りしめ、顔を真っ赤にして反論するが、明文化された規約の壁を前に、それ以上の強い強制力を行使できない。二人はまたタダシの死角に入った瞬間に大技(バタフライもどき)を再開する。注意しては交わされ、交わされては裏をかかれる。タダシは完全に彼らの「狡猾な嫌がらせ」に翻弄され、胃を押さえながら中間管理職の如き悲哀の汗を流していた。

(……ふざけるなよ。規約の穴さえ突けば、汗水垂らして仕事してる衛兵をナメ腐っていいわけがねえだろ……!)

俺の胸の奥の正義感が、再び激しく沸騰した。

タダシがルールの壁に苦しんでいるなら、俺がそのルールごと、相手の攻撃をぶち破ってやる。

「タダシ! 下がるな! そのまま魔笛を構え続けろッ!!」

俺は叫ぶと同時に、あえて壁際から離れ、二人組の目の前――通路のど真ん中へと立ち塞がった!

「な、何をする気だ、レン殿!?」

「おいおい、素人がシャしゃり出てくんじゃねえよ!」

若い贅肉戦士がキレ、威嚇を超えた本気の『バタフライもどき』を俺の目の前で叩き込んできた!

ドッパーーーン!! 猛烈な衝撃波が俺の身体を直撃する。

【不屈の正義カウント:1/3】

「がああぁッ……!!」

全身の骨が軋み、口の中に鉄の味が広がる。

(クソ、やっぱり上級者の大技は、素人の肉体には重すぎる……!)

「レン殿ーーーッ!! 逃げてくれ、死んでしまう!!」

タダシが悲鳴を上げる。だが、俺の【不屈の正義(アブソリュート・ジャスティス)】は、あと2回直撃を受けなければ発動しない。ここで引けば、ただの犬死にだ。

「まだだ! もっと本気で来いよ、贅肉のゴリラが……!」

「このクソ素人が、調子に乗るなァッ!!」

ドグシャァァァッ! ドッパーーーン!

さらに2回、3回! 爺さんの老獪な引き波と、若い贅肉の無謀な衝撃波が、俺の肉体と精神を真っ正面から激しくすり潰していく!

【不屈の正義カウント:3/3――都落ちコンビの戦技、完全解析……ッ!】

(がはっ……。よし、これで、次からは完全無効化――)

そう思った瞬間、俺の視界がぐにゃりと歪んだ。

【警告:肉体および精神が深刻なダメージを受けています。次の一撃(4回目)を受ける前に、プレイヤーの基礎生命力がゼロになる恐れがあります】

「う、嘘だろ……?」

スキルの発動(解析)には成功した。だが、4回目を迎える前に、3回目の直撃ダメージが深すぎて、俺の肉体が限界を迎えていた。一歩も動けない。目の前では、怒り狂った若い贅肉戦士が、トドメの最大級の衝撃波を構えている。タダシも拡声器を落とし、ショックで身動きが取れなくなっていた。

(アカン……もう駄目だ、死ぬ……!)

俺たちが完全に絶体絶命のピンチに陥った、まさにその刹那。

トコトコと爽やかな足音が響き、子供たちの指導を終えたカズキ先輩が、幼い子供の冒険者たちの手を引いて、たまたまこちらの通路の様子を覗き見るように足を止めたのだ。

(あ、カズキ君が子供を連れてこっちを見てる……!)

通路の斜め上にある管理カウンター。これまで一切の関心を持たず、死んだ魚の目で俺たちのピンチを傍観していたアイ先輩の【イケメン探知レーダー(パッシブ)】が、その瞬間に最大出力で起動した。

カチッ。

アイ先輩の脳内メモリが超高速で演算を始め、その全身に凄まじい「聖女の仮面」が宿るのを、俺は薄れゆく意識の中で目撃した。

ガタッ!!!

「ちょっと貴方たちィーーーッ!! 何をタダシ君と、一生懸命がんばっている新人冒険者を困らせているのかしらァッ!?」

椅子を激しく跳ね上げ、アイ先輩が可憐に通路へ飛び込んできた。いつもの、凄まじいキャラスイッチの爆音。

若い贅肉戦士のトドメの一撃が、アイ先輩の乱入によって強引に遮られる。

(い、今だ……!!)

二人組の意識が完全にアイ先輩(聖女モード)へと奪われたその一瞬の隙を見逃さず、俺は震える手でポケットから【体力回復ポーション】を取り出すと、一気に口の中へと煽り込んだ。

ゴクゴク、ぷはぁっ……!!

「生き返ったァァァッ……!!」

染み渡る回復魔力。俺の基礎生命力が一気に安全圏へと引き上げられ、同時に【不屈の正義(アブソリュート・ジャスティス)】の無効化バリアが完璧な形で俺の全身を包み込んだ。

さあ、ここからがアイ先輩の、カズキ先輩に向けた「最凶の狡猾パワープレイ」の始まりだ――。

(第4話・完)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。