↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
35/62

【第35話】「野営の対話と、爆弾コンビの再臨」

臨時パーティーの契約を結んだ物静かでどこか頼りなさそうなD級戦士、ウシオ。あいつと俺の2人旅は、商人の街への中継地点となる次の街を目指し、広大な主要街道を進んでいた。

次の街までは約2日の道のり。道中、現れるのはどれもF級くらいのモンスターばかりで大した強さのものではなかった。たまにD級程度も湧くことがあったが、俺とウシオの2人であれば、焦らずに役割を分担して対処することで何の大した脅威にもならなかった。

頼りなさそうに見えたウシオだったが、いざ戦闘が始ればその動きは非常に安定しており、役割分担通りの自衛戦力をしっかりとこなしてみせた。

1日目の夜。俺たちは街道の脇に陣を取り、パチパチと爆ぜる焚き火を囲んで野宿の準備を進めていた。暗い夜空を見上げながら、俺たちは互いの事情について静かに言葉を交わした。

ウシオが語る、「病床にある妻のために、商人の街でしか手に入らない貴重な薬を買いに行く」という目的は、嘘偽りのない本物だった。子供たちもそれなりに大きく育ってきたため、今回は家の留守を任せて遠征してこられたのだという。

家庭の暮らし向きについては、貧乏ではないが、決して裕福というわけでもない。そんな、家族の命を救うために必死に旅の路銀を貯めて大金を握りしめてきた男の、切実で温かい家族思いの横顔。

(……都会のクソみたいなマウントや、保身に塗れたあの狡猾ビッチどもに比べれば、遥かに信用できる。泥臭いけれど、こいつは本物の善人だわ)

俺がそんな査定を脳内で下している間、俺の返事しか聞こえないはずの脳内メモリの奥底で、魔剣プーエルは何の反応も示さず、冷徹に沈黙を保っていた。

規約と絶対契約に厳格な悪魔プーエルが何も警告してこないということは、このウシオという男の背後には、邪神教団の黒いシステムや内通者の影は1ミリも存在しないという動かぬ証拠だった。これなら、商人の街までの残りの長い旅路を、こいつと最後まで共に歩んだとしても何のリスクもない。俺は心の内でやれやれとやせ我慢の安堵をため息に変えた。

「レン殿、明日のお昼頃には、既定のギルドがある街に到着できそうですな、そこで規定通りパーティーを探しましょう」

スープをすするウシオの言葉に、俺は「ああ。街に着いたら、すぐに手分けして次の長旅の準備を進めましょう」と応じた。

最初の中継都市から目的地の商人の街までは、どれだけ順調に進んでも明日以降、最低でも5日はかかる長旅になる。街道で不穏なトラブルや魔物の注意報が出ている以上、不測の事態に備えて数日分の野営の食料や、ポーション類を完璧に備えておくのはリスク管理の鉄則だった。

話を聞くと、本当に病気の妻のために全財産を叩いて旅をしているような実直な男だ。

(……まぁ、旅にかかる必要経費の分は、基本的にはあとで清算してもらう予定だが……。これだけ切実に困っている善人相手だ、移動資材の少しくらいは、俺が自腹で負担が出ても仕方ないか)

俺は前世の社畜時代に培った経理と人情のモノローグを脳内で天秤にかけながら、次の街でのタスクの割り振りを決めた。

「食料の買い出しや最低限の野営装備、それと、トラブルに備えてある程度まともな中級の回復ポーション類を揃える役目は、俺が引き受けますよ。その代わりウシオさんは、ギルドの窓口へ行って、商人の街まで同行してくれる追加のメンバー探しを任せてもいいですか?」

「おぉ、それはありがたい。レン殿にそこまで資材を頼れるなら、私は責任を持って、規約を満たせるメンバーをギルドで募ってきましょう」

ウシオは物静かな顔に感謝の笑みを浮かべ、俺の提案した合理的なタスク分担にカチッと同意した。

翌日のお昼頃。俺たちの臨時パーティーは、予定通り既定のギルドが設置されている中継都市へと到着した。

俺たちは街の門を潜ると、即座に手分けしてそれぞれのノルマをこなすために行動を開始した。俺は市場へと走り、商人の街で待っているであろう都会のめちゃくちゃ美味い高級飯への期待にウキウキと胸を躍らせながら、必要最低限の堅実な野営道具と食料、および中級の回復ポーション類をカバンに仕入れた。

そうして夕方、俺たちは事前に合流場所として決めていた、街の広場の片隅にある大きな時計塔の下へと集まった。

「レン殿! お待たせいたしました。無事にギルドの承認を得て、商人の街まで臨時の限定契約を交わしてくれる、素晴らしい冒険者の方々と出会えましたぞ!」

遠くから、荷物を背負ったウシオが嬉そうに手を振りながらこちらへと歩いてきた。

そのウシオのすぐ後ろには、今回の増員条件を満たすためにウシオがギルドの窓口から連れてきたであろう、女性の2人組の冒険者が連れ立って歩いていた。

(……よし、これでパーティー義務化のペナルティ規約もクリアだ。これでようやく、商人の街の美味い飯へ向けて出発――)

ウシオの背後から姿を現した、その女性2人組の容姿が、夕暮れの街灯の中にハッキリと照らし出された、まさにその刹那だった。

俺の脳内メモリの全全開が、激しい衝撃と共に一瞬にして真っ白にフリーズした。

俺がその信じられない光景を見ながら、冷徹な目を向けた、まさにその時だった。

元々、俺がこの異世界に転生したのは、他でもないあの商人の街のすぐ近くだった。だからこそ、俺は都会の構造や飯の価値を知っていたわけだが――。

忘れもしない、転生して固有特殊スキル【不屈の正義】が初めて発動した直後、まさにその最初のスタート地点である商人の街で、初めて俺と臨時の初期パーティーを組んだ女性2人組だったのだ。

見た目こそ、どこにでもいる素朴で普通の女性のグラフィック。だが、その中身は、周囲の人間を容赦なく巻き込んで全てを炎上爆発させる最悪なトラブルメーカーであり、性格が完全に爆弾という、俺の正気度を最初から木っ端微塵にすり潰していった恐怖の存在。

以前、彼女らと組んだせいで、数々の不条理に直面して散々苦労させられたあの暗黒の記憶が、おぞましい走馬灯となって一気に脳裏へと蘇ってくる。

彼女らは俺のことを実によく知っており、こちらの引きつった表情など1ミリも気にする様子もなく、距離感ゼロの馴れ馴れしさで満面の笑みを浮かべてきた。

「あーっ! レンじゃん! ひさしぶりー!」

「うわ、本当だ! 奇遇だねー! 私たちも商人の街に戻りたかったんだよね!」

曇りなき笑顔で、こちらの網膜を容赦なくハッキングしてくる2人のビジュアル。

さらに最悪なことに、実直なウシオはすでにギルドの窓口で、この中継都市から商人の街に到着するまでの【5日間の限定パーティー契約】の手続きを完璧に交わしてきていた。

ギルドの公式な規約は非常に厳しい。もしこの正式なパーティー契約を交わした相手をここに置いて勝手に逃げ出し、その結果として道中で何らかの事故や怪我などが発生した場合、その全責任を一方的に押し付けられるため、その場合のペナルティ(莫大な違罰金や冒険者資格の剥奪)はとにかく鬼のように重いのだ。

つまり、これからの移動期間である丸々5日間は、ギルドの厳しい契約の縛りのせいで、俺はこいつらから絶対に逃げられない状態が法的に確定してしまったのだ。

新しい装備を求め、財布が温かい状態で美味い飯への期待を立て気分よく商人の街に向かおうとしたその矢先、俺の目の前には、邪神教団の悪魔の呪い並みに処理の難しい、初期の最悪な怪異が再び完璧に定着して逆流してきた。

俺はボロ剣を担いだまま、契約で縛られて絶対に逃げられない5日間の絶望的な現実に、マイナス固定されたSAN値をガタガタと震わせ、頭の中を完全に虚無へと消し飛ばされながら、夕暮れの広場でただ一人、あまりのむなしさと少し鬱な精神状態のまま、深い溜息と共にこれからを思うと、がっくりと頭を抱えてフリーズするのだった――。

(第35話・



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。