【第31話】「偽りの監視員と、復讐の狼煙」
街外れの寂れた一軒家の2階。無残な傷だらけにされながらも、俺への純粋な信頼を口にして気絶した本物のタダシ。
俺はあいつの傷ついた肉体を背負い、気配を完全に消しながら、A級ハンター・ガットさんが滞在している極秘の宿へと大急ぎで担ぎ込んだ。
「……レンくん、これは……! 一体何があったのですか!?」
宿の奥の一室。変わり果てたタダシの姿を目にしたガットさんは、その胸の奥にある高ランクの魔力を一瞬にして鋭く緊迫させた。
俺はガットさんへ、一軒家で盗み聞きした邪神教団のすべての陰謀を話した。
悪魔セーレの変身の権能を使い、タダシの姿にグラフィックを偽装した武器屋のイケメン店員が、有能なカズキさんの死角を突いて貴族の次男坊を荷物として堂々と拉致したこと。タダシが教団の関与をどこまで知っているか吐かせようと激しい拷問を受けていたこと。
そして何より、一瞬でも親友の裏切りを本気で疑ってしまった、自分自身の矮小な弱さへの、色々な意味でやりきれない激しい後悔を、俺はガットさんへ打ち明けた。
涙が溢れ、自分の至らなさをただただ嘆くことしかできない。激しい自己嫌悪のあまり、言葉が詰まり、自分の感情の全貌をうまく説明することすらできなかった。
ガットさんは何も言わなかった。俺の激しい怒りと涙が混ざり合ったぐちゃぐちゃな言葉を、ただ静かに、すべてを受け止めるように聞いてくれた。
そして、無言のまま自らの懐から、一目で並の代物ではないと分かる最高級の回復ポーションを取り出すと、傷だらけのタダシの口元へと惜しみなくすべて注ぎ込んでくれた。
最高級の薬効は劇的だった。タダシの全身の裂傷がみるみるうちに塞がり、荒かった呼吸が静かな寝息へと変わっていく。
だが、肉体の傷は治ったものの、教団から受けた精神的なダメージはあまりにも大きすぎた。あいつは深い昏睡に陥ったままであり、すぐには当時の状況などを詳しく話ができるような状態では到底なかった。
親友の命が繋ぎ止められたことで、俺は涙を拭い、冷徹なやせ我慢のスタミナを取り戻して頭のメモリをカチッと切り替えた。
「ガットさん、ありがとうございます。……タダシが動けない今、ここからは、俺が動く番です」
標的は、今頃ギルドで本物のフリをして澄ました顔で監視業務をこなしているであろう、あのタダシの偽物(イケメン店員)だ。
◇
翌日、出入り禁止処分が明けた俺は、初級ダンジョンのロビーへと赴き、平然と窓口に立っている偽物のタダシへと静かに接触した。
「タダシ。……今回の子供の誘拐の手口、すべて分かったぞ。ここでその手口なんかを話すには人が多い。教団はすでに初級者ダンジョンの人員にも入り込んでいるからな」
俺があえて「まだお前がスパイだとは気づいていないフリ」をしながら深刻に囁くと、偽物のタダシは必死に本物の監視員を演じきろうと、もっともらしい顔をしてとぼけてみせた。
「レン殿……誘拐の手口が分かったとのことですが、一体どういうことでしょう? 監視員の私に、詳しくお話を聞かせていただけませんか?」
距離感がバグったイケメン店員らしい、不気味なほど完璧なタダシの演技。
「今日の夜、いつもの町外れにある、あの寂れた荒れ地で落ち合おう。そこで全ての詳細を伝える」
俺はそれだけを低く告げると、偽タダシに反論の隙すら与えず、冷徹にその場を立ち去った。
あえて「別の裏切り者を警戒しているフリ」をして、奴を罠へと確実に誘い出すための冷徹な布石。
本物のタダシは、どれだけ過酷な拷問を受けようが、俺の固有スキルの仕様について教団側に一切の口を割っていなかった。
だからこそ、俺から呼び出された偽タダシは、俺がスキルの仕様に絶対の自信を持っていることなど知る由もなく、むしろ「レンを確実に始末して口を封じる、これ以上ない絶好のチャンス」だと自分たちの都合の良いように思い込み、俺の指定した荒れ地へとホイホイと足を進めてきたのだ。
夜、街外れの暗い荒れ地。
「、、、、、、呼び出しに応じましたよ、レン殿。……手口を理解したなどというその不埒な妄想、ここで永遠に眠らせて差し上げましょう!」
すれ違いざま、偽タダシの袖口から黒く塗られた毒のナイフが滑り出し、俺の完全な死角である真後ろから、首筋を狙って容赦のない一撃が突き出された。
キィィィンッ!!!
だが、その不意打ちの軌道を、俺は最初から冷徹に完全に読み切っていた。
俺は一歩だけ最短距離で身を引き、格安でぶんどってきたボロ剣の刀身で、毒ナイフの切っ先を最小限の挙動で軽くいなした。金属同士が擦れ合う鈍い火花が散る。
「なっ……!? 私の不意打ちを完璧に防いだと……っ!?」
驚愕でグラフィックを硬直させた偽タダシに向け、俺は冷徹なやせ我慢の笑みを浮かべ、圧倒的なざまぁの格付けを言い放った。
「――お前が後ろから攻撃してくることなんて、最初からとっくに知っているよ。お前がタダシの偽物だってことは、最初から全部お見通しなんだよ」
「なぁっ……!? お前、まさか最初から私の正体を――」
衝撃に偽タダシが目を見開いたまさにその刹那、背後の空間から、圧倒的なA級ハンターの威圧感を全身から滾らせたガットさんが音もなく出現した。ガットさんは抵抗の余地すら与えぬ超絶的な速度で偽タダシの巨腕を背後からガチッとひねり上げ、その場で完璧にホールドして捕らえた。
俺たちは捕らえた偽タダシを即座に拘束し、ギルドや警備団の目を完全に欺いたまま、ガットさんが用意していた近隣の極秘アジト(地下室)へと強引に連行した。
◇
薄暗い地下室。冷たい椅子に縛り付けられた偽タダシに対し、高ランクハンターとしての凄まじい怒りを静かに滾らせるガットさんの、逃げ場のない冷徹な尋問が続いていた。
「敵の人数は。配置はどこだ。人質はどこにある」
ガットさんは、全く同じ質問を、抑揚のない低い声で何度も、何度も淡々と問い続け、頑なに口を割ろうとしない偽タダシの腹を、容赦のない拳で何度も激しく殴りつけていた。
ドカッ!!!
「が、はっ……、ふ、ぶ……っ!! 痛めつけようが焼き殺そうが、我が教団の絶対規約を裏切って口を割ると思うなよ……ッ!!」
教団へ忠誠とその呪いに縋り付き、血の泡を吐きながらも頑なに尋問を拒絶する偽タダシ。
何度も同じ質問を受け、ガットさんに腹を殴られてボロボロになっているその男の前に、俺は冷徹なやせ我慢の笑みを浮かべて静かに姿を現した。
「ガットさん、もうその不毛な尋問は必要ありませんよ。……おい、偽物。お前がそこまで頑なに突っぱねたところで、もう手遅れなんだよ」
「……何だと?」
「お前がここで無駄に時間を稼いでいる間、俺たちはすでに、お前たちのあの黒いのぼりの武器屋の奥にある『秘密の部屋』へと突入させてもらった。……そして、そこでお前たちが隠していた人質――あの貴族の次男坊を、見つけた、酷いことしやがって許さないかなお前は!」
俺はこれ以上ないほど滑らかで有能な「カマ掛けの芝居」を真っ正面からぶちかました。
その俺の言葉を直撃された瞬間、偽タダシの顔面から一気に血の気が引き、瞳のグラフィックが激しい動揺で泳いだ。
「ば、バカな……!? そんなことがあり得るはずがないッ!! あそこの秘密の部屋には、外から通常の方法で侵入しようとしても絶対に分からない、特殊な隠し仕掛けが施されているはずだぞ!? ギルドの雑魚どもに、あの教団の仕掛けを見抜けるわけが――」
「――ああ。やっぱり、まだあの武器屋の秘密の部屋の中に隠してあるんだな」
「あ……っ!!?」
自らの有能なハッタリに精神を揺さぶられ、墓穴を掘ってシステムの仕様を全てゲロってしまったことに気づいた偽タダシは、顔を真っ青にして完全に言葉を失って絶望にフリーズした。
これで、貴族の次男坊がまだあのショップの裏の特殊な仕掛けの奥に囚われているという「真の居場所」の動かぬ証拠が、完璧にホールドされた。
俺は新しい相棒を構え直しながら、友を傷つけ、子供を奪い、人の絆を裏切る理不尽な邪神教団のフロント企業(武器屋)を根底から解体するため包囲網に向けて、静かなる熱血(正義)を胸に、次なる過酷な突撃(ショップ強制捜査編)へ向けて、じっと拳を握りしめるのだった――。
(第31話




