↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
30/62

【第30話】「裏切りのグラフィックと、悪魔の看破」

街外れの寂れた一軒家。窓の隙間から息を殺して覗き込んだその暗がりの奥で、フードの男と密談を交わしている【もう一人の人物】のグラフィックが俺の網膜へ飛び込んできた瞬間、俺の視界は一瞬にして真っ暗に染まった。

「……嘘だろ……っ」

そこに佇んでいたのは、これまでの不条理な異世界生活の中で、日夜ダンジョンの通路を通い詰め、泥臭いやせ我慢を共に共有してきた、あの真面目な監視員のタダシだった。

脳内メモリの全全開が、激しくそれを拒絶し、違うと否定する。

だが同時に、前世のブラック企業時代、最も信じていたはずの同僚に裏切られ、手柄を横取りされ、全ての責任を泥臭く押し付けられてゴミのように使い潰されてきたあの最悪なパワハラトラウマが、おぞましい走馬灯となって頭の中をぐるぐると駆け巡った。

(また、裏切られたのか……? この世界にきて、俺が一番信用できると思った男に……数々の困難を乗り越えて築き上げてきた、あの友情すらも……嘘だったって言うのかよ……!)

歯茎から血が出るほど奥歯を噛み締めたその瞬間、俺の全身を、これまで経験したことのないような冷たい戦慄が駆け抜けた。

まずい。最悪だ。……タダシは、俺の固有特殊スキル【不屈の正義(アブソリュート・ジャスティス)】の仕様を知っている。

俺のスキルは初見殺しには完全無敵の無効化を誇る便利な能力のようだが、その実態は致命的な穴だらけのバグスキル。相手の同じ攻撃スキルを3回生身で被弾しなければ解析バリアは発動せず、もし相手に多彩な手札があり、様々な種類のスキルを組み合わせて波状攻撃を仕掛けられれば、Dランクのフィジカルしかない俺は3回被弾する前にあっという間に肉塊に変えられて詰む。

俺が他所の人と長くパーティーを組まない本当の理由も、それだ。仕様を知っていれば、対策などいくらでも立てられるからだ。だからあのA級のガットさんにすら詳細は一切話していない。

なのに、タダシにだけは、詳細なシステムログこそ説明していないものの、ダンジョンでの激闘のドサクサで「3回耐えればいい」という致命的なキーワードを、信頼の証として話してしまっていた。

もしあいつが教団の人間で、俺のスキルの欠陥を完全に把握しているのだとしたら、俺のこのスキルは最初から完璧対策されている。で、、は、、、、、、、、、、、、、、、、、ど、、、うす、、、る、、、。頭の中が、、、どうしてもまと、、まらない、、ど、、うする、、。

『、、、、、、、――わたしの話を聞け! お前の考えは私にも流れてくるのだぞ、脳内メモリを恐怖のトラウマでバグらせるな。よく見ろ、何かが決定的に歪だ。あのタダシとかいう小僧、魔力の流れが不自然極まりないわ。どこかでうまく奴らの会話を盗み聞きしてみろ!』

契約で精神が繋がっているからこそ、俺のパニックをすべて感知していたプーエルの、脳内に直接響き渡る冷徹な一喝。

俺はその言葉でなんとかやっと正気を取り戻すことができたようだ。、、、ここは街外れのボロい一軒家。周囲に人通りなど一切ない無法地帯だ。よく見ると、隣の部屋の格子窓が僅かに開いているのに気がついた。俺は足音を完全に消し、蛇のようにその窓の下へと這い寄り、壁越しに2人の密談の音声へと耳のメモリを集中させた。

中から聞こえてきたのは、俺の絶望を根底から引っ繰り返す、驚愕の会話だった。

「…………..ククク……うまくやったな。ギルドへの報告書にあったダンジョンの監視者3人のうち、一番切れ者で有能な『カズキ』という男の信頼とメンタルは、これで完全に地に落としたぞ」

フードを深く被った怪しい男が、不気味に嗤いながら声をかけた。それに対し、タダシの顔をした男が、冷酷な都会風のチャラついた笑みを浮かべて応える。

「ああ。あの悪魔セーレの権能(変身)があれば、あの真面目な小僧の姿にグラフィックを偽装するなんて朝飯前だったな。本物の『タダシ』という小僧は、教団の密告を名目に、先にさらって【2階】に監禁してあるから、化けるのは簡単だった。ただ、監視員としてのこだわりなど、もう少しあいつから学ばなければカズキたちに怪しまれるからな……。まだあの本物は生かしてあるが、用が済んだら始末するさ」

(……偽物、だと!? あいつ、あの口調は、あの武器屋のイケメン店員か……!!)

俺は胸の奥で、激しい安堵を感じた。タダシの友情は嘘ではなかったのだ。本物は今、この建物の2階に監禁されており、まだ生きている。

「お前も熱心だな。今回の子供の神隠しの活躍は、中央の幹部にも確実に報告しておく。私の【隠密のスキル】だけでは、いくら子供とはいえダンジョンから連れ出すのは不可能だったが、変身した【内部の人間が子供を荷物として運ぶ】のであれば、周囲に一切怪しまれずに堂々と連れ出せるからな。今回はお前の変身の功績が大きい。……武器屋に化けて初心者を釣り、次は本物の監視員をさらってすり替わる。悪魔との絶対契約という重い代償を払いながらも、我が教団への忠誠を尽くすお前の仕事ぶりは実に感嘆に値する!」

フードの男の言葉によって、教団の極悪なハメ技の全貌が完全に繋がった。

悪魔セーレの変身の権能。そして、カウフマンおじさんたちから倫理観を対価に毟り取って量産した悪魔のシステムを使い、内部の人間を装って貴族の次男坊を荷物として堂々と拉致したのだ。

「フン、次の手筈もすでに決まっているさ。あの『アイ』という管理職員の女を、今度は別のイケメンの男を使って騙し、彼女自身を教団へ入信させれば、ギルドに提出されたあの報告書などただの紙切れ、価値もクソもなくなる。……それと、あの『レン』という目障りなD級冒険者も、私が本物のタダシのフリをして呼び出し、油断したところを狙って即座に始末してやるさ。……よし、時間だ。私はギルドの監視業務へ戻る。本物の様子を見てから、お前も街を立て」

「分かった。中央への報告を急ごう」

壁の向こうで椅子が引かれる音がし、2人の足音が玄関へと向かっていく。

俺は一軒家の壁の死角へと完全に気配を消し、男たちがその場を去るまで、じっと息を潜めて身を沈めた。

――しばらくして、パタンと扉が閉まり、静寂が辺りを包み込む。

奴らが完全にこの場を離れたのを見届けた俺は、すぐに開いた窓から一軒家の中へと音もなく侵入した。目指すは、奴らの会話に出てきた【2階】だ。

一刻を争うタイムリミット。俺はボロ剣の柄を握りしめたまま、ギシギシと軋む木製の階段を駆け上がり、2階の薄暗い部屋の扉を次々と押し開けて探索した。

そして、最奥の固く閉ざされた部屋の扉を開けた、その瞬間だった。

「……タダシッ!!」

部屋の床の上、冷たい床に転がされていたのは、間違いなく本物のタダシの姿だった。

今回の教団の関与をどこまで知っているか吐かせようと、凄まじい拷問を受けたのだろう。あいつの全身は無残な傷だらけにされ、血に濡れた衛兵服のまま、ぐったりと横たわっていた。

「う……、れ……レン、さん……?」

俺が駆け寄り、その傷だらけの身体を抱き起こした瞬間、タダシは腫れ上がった瞼をうっすらと開き、血の混じった涙を流しながら、掠れた声で小さく微笑んだ。

「レンさん……なら……絶対に、助けに、来てくれるって……信じて、た……」

あいつはそれだけを言うと、安心したようにガクリと頭を垂らし、そのまま意識を失って完全に気絶した。

タダシの、その命がけの、100%純粋な信頼の言葉。

それが、俺の胸の奥底へと鋭く突き刺さった瞬間――俺の精神は、一瞬でも前世のトラウマに呑まれてあいつの裏切りを本気で疑ってしまった自分自身の弱さへの凄まじい「自己嫌悪」と、そのタダシの純粋な思いを利用し、あいつをこんな血の海へ沈めて玩具のように弄んだ邪神教団への天を衝くほどの「激しい怒り」によって、完全にぐちゃぐちゃにかき乱された。

「クソが……ッ!! 疑って悪かった、タダシ……。お前をこんな目に遭わせたあのブラックなカルトどもは、俺のすべての知略とやせ我慢を注ぎ込んで、絶対に生かしてはおかねえ……ッ!!」

友を傷つけ、子供を奪い、人の絆をバグ(変身)で嘲笑う理不尽な奴ら。

俺の魂の奥底に眠る【不屈の正義(アブソリュート・ジャスティス)】が、自己嫌悪と怒りの濁流の中で、青白い地獄の業火となって過去最高ボルトで大爆発した。

俺は気絶した親友の身体を優しく床へと横たえると、手に入れた新しい相棒(プーエル)を静かに、限界まで強く握りしめた。

現行犯の証拠はすべて揃った。ここから先は、地獄のカウンター作戦の時間だ。

俺はぐちゃぐちゃに掻き乱された感情を、冷徹な漆黒の感情でガチッと引き締めながら、友の復讐決戦へ向けて、その刃を静かに、だが最も深く凶悪に引き抜くのだった――。

(第30話


いつも当作品を応援していただき、誠にありがとうございます! おかげさまで連載も非常に熱い大台を突破いたしました。

さて、先日友人から、

「お前の小説、ぶっちゃけ可愛いヒロインが1人もいねえじゃねえか」

という、信じられないような業務監査(ツッコミ)を突きつけられました。

あまりの言葉に私の脳内メモリが一瞬フリーズしてしまったのですが、皆様、本当でしょうか……?

作者である私としては、最初からこの物語には魅力に溢れた【2大正統派メインヒロイン】が画面狭しと大活躍していると、本気で確信しているのですが……。

•メインヒロイン①:アイちゃん

有能なカズキさんの前で見せる、これ以上ないほどしおらしくて可憐な、健気すぎる後輩。たまに裏口で一般の冒険者を【そこに湧く害虫を駆除するような絶対零度の目】で見つめていたり、気持ち悪いバロメーターが限界突破して地団駄を踏んだりしていますが、基本的にはとても可愛い聖女のような受付嬢です。

•メインヒロイン②:ヤグヒさん

都会の美食で激太りして、見た目はいまだに完璧なオークキングのままですが、中身はとても賢くしおらしい女性。ストレスでたまに通路のスライムを一方的に大虐殺(絶滅)させたり、背中の性感帯をフェザータッチされて「あぉぉぉん❤」と地鳴りのような色っぽい咆哮をあげたりしますが、内股でモジモジしている姿は間違いなく本作のヒロインです。

……ほら見なさい。こんなにも個性的で魅力的な美少女たちが、最初から完璧に型ハメ(定着)されているではありませんか。

なぜ友人が「ヒロインがいない」なんて不思議なことを言うのか、私には未だに1ミリも理解ができません。

世間の理不尽に挟まれながらも、今日もアイちゃんはもどかしいジレンマに震え、ヤグヒさんは頬を真っ赤に染めています。

これからも、この可憐な彼女たちの甘い大暴走(ラブコメ)を、どうぞ温かい目で見守っていただけますと幸いです!

(ブックマーク、および評価システムへの出資、いつでも社畜の心でお待ちしております!)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。