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【第28話】「漆黒の再会と、魔教の脅迫状」

あの規約に厳格で、非の打ち所がない有能なカズキさんが、子供一人を見失うような初歩的な不手際を働くなど、どう考えても釈然としなかった。

戦闘音も痕跡すらもなく、そばにいたはずの子供が通路の死角でパッと消え去るなど、通常の物理現象では到底説明がつかない。

俺は胸の奥の不気味な違和感をやせ我慢で押さえ込みながら、家から徒歩3分のいつもお世話になっている下宿へと帰宅した。

「あ、レンお兄ちゃん、おかえりなさい! 今日はお兄ちゃんの好物の鳥料理だよ!」

下宿の扉を開けると、いつものように人の良い中年夫婦の幼い娘が、ニコニコと笑顔で出迎えてくれた。

ここは宿屋と言いつつも、本当に美味い飯が毎食ついてくるのが何よりも素晴らしい。あの悪魔プーエルの契約の対価によって、楽しみにしていた都会の高級レストランの食事券が粉々に粉砕された悲痛な「トホホ」の傷心が、下宿の温かい鳥料理の香りと優しさによってじんわりと癒やされていくのを感じていた。

そして、出発前に少女から貰ったあの小さな星型のアクセサリーは、俺の装備の端で、今も傷一つなくしっかりと健在していた。

本当に、これを無くして大号泣されることだけは回避できてよかった。

美味しい鳥料理を心ゆくまで堪能し、部屋に戻ってベッドでようやく一息ついてくつろいでいた、まさにその時のことだった。

コンコン、と部屋の扉が控えめにノックされ、先ほどの少女が少し戸惑ったような顔で顔を覗かせた。

「あのね、レンお兄ちゃん。下にお兄ちゃんを訪ねてお客さんが来てるんだけど……」

少女はなぜか、少しだけ引き気味に身を縮めながら、声を潜めて続けた。

「……なんか、その、もの凄く『特徴のある人』がレンお兄ちゃんの友達なんだね。お部屋で会う?」

少女をそこまで引きつかせた圧倒的なビジュアルの違和感。俺が「ああ、部屋に通してくれ」と応じると、重い足音と共に、その人物が部屋へと足を踏み入れてきた。

「……久しぶりですね、レンくん。突然の訪問を許してください」

「ガ、ガットさん……!? お久しぶりです」

そこに佇んでいたのは、ヤグヒさん返品クエスト以来の再会となる、あのA級ハンター・ガットさんだった。

魂の清算を経て少しは和らいだはずだったが、相変わらず光すら吸い込むほどのダークマター乳首が圧倒的な存在感を放っており、なるほど確かに小さい少女が引き気味になるのも納得のグラフィックだった。

日常会話としての軽い挨拶を交わしたが、ガットさんの顔はいつになく重く、沈痛な表情で浮かばなかった。そのダークマターの黒さに比例するかのように、男の背負う空気は深刻そのものだった。

「ガットさん。その様子、ただの世間話をしに来たわけじゃなさそうですね」

「ええ。実は、本日この初級ダンジョンで起きた、あの子供の神隠し事件……その件で、君に極秘の相談があって来ました」

ガットさんは正しい言葉遣いのまま、声のトーンを落とし、今回の事件の最悪な裏の真相を静かに語り始めた。

「今回、ダンジョン内で何の前触れもなく誘拐された子供はさる貴族の次男坊……。実は、私の旧友である、あの魔法使い【クリフ】の親しい友人の子供なのです」

「クリフさんの友人の……」

「そのクリフの友人は、以前から中央の政界において、【邪神教団を裏で支持し、癒着して利益を得ている他の貴族たちの不正(汚職)】を厳しく追及し、告発しようと動いていました。……臨時に、その友人の元へ、教団側から『告発を止めなければ、お前の息子の命はない』という、最悪な誘拐の脅迫状が届いていたのです」

ガットさんの口から明かされた、教団のあまりにも狡猾で卑劣な計画。

「教団側は、クリフの友人に不正追及の手を引かせるための人質として、この地方の初級ダンジョンを狙い、有能なカズキの完璧な管理の隙を突いて次男坊を拉致した。……子供の命がかかっている以上、クリフの友人はギルドや警備団へ公式な届け出を出すこともできません。下手に公に動けば、即座に人質が亡き者にされる。そのため、クリフから、内密に事件を解決できる唯一の腕利きであり、最も信用できるハンターとして、この私に極秘の救出クエストが委託されたのです」

ガットさんは拳を血が出るほど強く握りしめた。だが、そこには高ランク冒険者ゆえの、致命的なジレンマが存在していた。

「ですが、いきなりA級の格を持つこの私が、この田舎の初心者ダンジョンへ大掛かりに赴けば、街に潜む邪神教団の監視網に一瞬で動きを察知され、その時点で次男坊の命が危機に瀕します。……だからこそ、レンくん。この初級ダンジョンの事情を誰よりも詳しく、かつ、私が最も信用している君に、まずは内密な調査の相談をさせてほしいのです」

ガットさんは、静かに頭を下げた。

ギルドの様子見という甘い政治判断の裏で、すでに子供の命のタイムリミットが始まっていた。カズキさんの不手際ではなく、悪魔の権能を用いたであろう教団の完全なる計画的犯行。

俺は、自分の装備の端で健気に揺れる、下宿の少女から貰った小さな星型のチャームに目を落とした。

俺をいつも温かい料理で出迎えてくれるこの下宿の少女。そして、それと同じように、親の帰りをただ純粋に信じて待っていたであろう、見知らぬ貴族の小さな子供。

自分たちの都合の悪い不正を揉み消すためだけに、そんな何の罪もない幼い子供の命を人質に取り、平然と脅迫の道具に利用する教団のあくどいやり口。

その底知れない邪悪さと理不尽に対し、俺の魂の奥底から、これまでにないほど激しい、冷徹な怒りがフツフツと燃え上がってきた。

「――分かりました、ガットさん。その調査の依頼、俺が引き受けます。あの教団の裏をかき、その子供を必ず内密に探し出してみせます」

「……ありがとう、レンくん。君ならそう言ってくれると信じていました」

ガットさんのその重い「覚悟」を、俺は真っ正面から、静かなる熱血(正義)をその瞳の奥底へ漆黒に燃え上がらせながら、真っすぐに受け止めるのだった――。

(第28話



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