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【第25話】「恋キング征伐と、新たなる決意」

作戦の全貌は、ダンジョンの監視者であるタダシの、極めて実直な職務上の相談から始まった。

タダシは真面目な顔で有能なカズキさんの元へと赴き、「先輩、実はダンジョン内で特定の冒険者による『決闘(私闘)』が行われるという不穏な風聞を耳にしました。しかも当事者の一人は、あのレン殿だというのです」と切り出したのだ。

公営ダンジョンにおいて、監視者として私闘を見過ごすわけにはいかない。タダシは拳を握りしめ、「私情を挟まずに規約通りに対処するのが非常に難しい案件です。是非、こういう非常事態における『正しい監視者の仕事の仕方』を、カズキ先輩に現地で直接指導していただきたいのです!」と熱くお願いした。

有能な先輩であるカズキさんの「現地指導」とあっては、今週末の指導(デート)を目論むあのアイちゃんがこれを見逃すはずがなかった。アイちゃんはカズキさんの前で、「そんな規約違反の不穏な動きがあるのですか……! でしたら先輩、是非私にもその正しい監視の現場を見学させてください!」と、どこまでも健気で殊勝な後輩の仮面を完璧に貼り付けたまま、ホイホイと罠にかかって現地の通路へと同行した。

一方、俺は初級ダンジョンの下層通路の端で、新しい相棒(プーエル)を担ぎながら、静かにそいつを待ち伏せていた。

ドガガガガガッ!!!

いつもどおりの、見た目だけは無駄に派手で大迷惑な【攻撃スキル】を撒き散らしながら、都会風のギラギライケメンへと魔改造された男が通路の奥から大暴走して現れた。俺はそいつの進路を真っ正面からボロ剣で塞ぎ、冷徹な視線を向けた。

「おい、いい加減にその行儀の悪いプレイスタイルを止めろ。……それと、中身を隠せていると思っているなら大間違いだぞ。いつもダンジョンで大暴れしている、脳筋戦士コイキング――本名【カウフマン】さん」

本名を直撃された瞬間、ギラギライケメンの美形グラフィックがピキッと硬直した。カウフマンは、自分が裏で「コイキング」などという哀れな隠語で呼ばれていることなど1ミリも知らない。だが、男は激しく逆上し、大ぶりの武器を振り回して俺に襲いかかってきた。

「な、なぜワシの本当の名前を……! 違う、ワシは恋に生きる選ばれし強者、恋の王様だァッ!!」

教団の契約によって変わったのは、外見がイケメンになったことだけだった。無駄にド派手なその攻撃スキルも、いつもの脳筋の言動も、中身は何一つとして変わっていない。ただただ外面だけが派手な、威力も効果もスカスカの攻撃だった。

俺は最大値が向上した俺自身の基礎ステータスを維持し、おじさんの無駄にド派手な攻撃スキルの直撃を、ただ淡々と、泥臭く受け流し続けた。そして、おじさんがここ一番で放ってくる、通算何十回も真っ正面から被弾し続けたあの『必殺の決め手となる攻撃スキル』にいたっては――。

パキィィィンッ!!!

俺の魂の奥底から自動展開された【不屈の正義(アブソリュート・ジャスティス)】のバリアによって、ただの虚無へと完璧に弾き返され、空間に虚しく霧散した。敵の必殺スキルが1ミリも通じない以上、おじさんの攻撃など恐るるに足りない。

「バ、バカな……ワシの、ワシの都会の最新高級パワーが、なぜ通じないッ!!」

完全に不利に陥ったカウフマンさんは、ガタガタと激しく動揺しながらも、ギラギライケメンの顔面のまま、俺に向けて狂ったように叫びを放ってきた。その台詞は、邪神教団から叩き込まれたであろう、最悪なマルチ勧誘の言葉そのものだった。


「素晴らしい実力だレン! お前も教団に入信しないか!? 入信すれば、お前も明日から選ばれしA級の強者になれるんだぞ!! 共にイケメンになろうレン!! 入信しろ! 拒否すれば殺す!!」


どこの上弦の参かと言わんばかりの、あまりにもおぞましいカルトのやり取り。俺はボロ剣を構え直し、おじさんの勧誘を真っ正面から鋭く一蹴した。レンと呼んでいる時点でほぼ正体が判明したのだがw。


「――俺はならない! 外見も未熟なことも、自分という儚い生き方の美しさだ。努力してあがくから、堪らなく愛おしく尊いのだ」


あまりにも完璧すぎる熱血の一蹴。俺は格安でぶんどってきたボロ剣(魔剣プーエル)を鋭く振り抜き、おじさんの大迷惑なプレイスタイルを圧倒的な実力差で合法的に圧殺した。

「ぶはっ!?」とカウフマンさんが通路に放り出された、まさにその完璧なタイミングで、通路の角からタダシ、カズキさん、そしてアイちゃんの監視者一行が現場へと駆けつけてきた。

そこで、おじさんの悪あがきが始まる。

「カ、カズキ! アイちゃん! 助けてくれ! ワシはこの地方の凶悪な雑魚に突然襲われたんだァッ!!」

カウフマンさんは、床に手をついたまま、アイちゃんを見つめて涙目で必死に縋りついた。

目の前でレンにあっさりとボコボコにされている様子を見ていたアイちゃんは、レンなんかよりも、この一見すれば都会風のギラギライケメンに助けを求められたため、最初は(こいつを味方しようかしら)と脳内で素早く計算した。だが、すぐ隣に有能なカズキさんがいるため即座にその企みを引っ込め、健気な後輩のポーズのまま「まぁ、なんてかわいそうに……」とだけ可憐に胸を痛めるフリをしてみせた。最凶ビッチの、恐るべき神速の保身判断。まぁコイツはキモいもあるのだがw。

――だが、次の瞬間、有能な安全管理のプロであるカズキさんが、冷徹な声で規約の書類をパサリと開いた。

「そこまでだ、カウフマン。……今回の現地指導は、タダシの要請に基づき『まずは決定的な証拠を押さえてから現行犯で踏み込む』という、私の厳格な手順の元で行われている。お前たちが私闘を行っている現場、正式に、その口から放たれていた【教団へのマルチ勧誘の会話(お前も入信しないか)】のすべては、私たち3人の目によって完全に現行犯で押さえられている」

カズキさんの有能すぎる冷徹なコンプライアンスの鉄槌。

カズキさんの前で徹底して健気なしおらしい後輩を演じようと必死だったアイちゃんも、自分の猫かぶりが通用しない現行犯の証拠をカズキさんの前で完全に抑えられたことを理解した。

すべてをカズキさんに抑えられ、言い逃れができないと悟ったカウフマンさんは、ついに床に崩れ落ちたまま、今回の暗黒面へと大進化した哀しきいきさつを血の涙と共に吐き出し始めた。その告白によって、現実の闇にも通じる、邪神教団の極めて巧妙で悪質な手口の全貌が完全に判明した。

「……ワシは、見たんだよ……。2週間前、あの街の中で、アイちゃんがカズキと親密そうに街を歩いている姿をのぅ……。ワシがどれだけ忠義を捧げても養豚所の豚を見るような目しかくれなかったのに、カズキにはあの曇りなき黄金の笑顔を見せていた……。ワシは、激しく失望し、やっぱり世の中【イケメンでなければダメなんだ】と、完全に心が折れてしまったんじゃ……っ」

おじさんは泣きながら、あの黒いのぼりの武器屋へ足を踏み入れた過去を語る。

それは、人間の【心の隙間(弱み)に付け込む】教団の、最悪な侵食の第一段階だった。

「ワシは取り乱したまま店に入り、店のチャラついたイケメン店員に『おいっ! イケメンはいいよなぁ~!? 人生苦労もないだろうな、あぁっ!? どうすればワシもそんな顔になれるんだ!』と、泣きながら抗議をぶちかましまくった……。店員はワシのあまりの紳士な抗議に感心いたようじゃが、ワシの真剣さに心打たれて同意したのじゃ」

(……いや、店員からすれば、これ以上ない極上の『カモ』が自らネギを背負って飛び込んできたと確信して、内心でほくそ笑んでいたに違いねえ……)

俺が冷徹な社畜の目で奴の過去を分析する中、カウフマンさんは第二段階である【悪魔を用いた絶対契約】へとハメ込まれた経緯を吐き出した。

「店員から『当店には、あなたのような一途な人なら、一瞬で最高級の都会風イケメンに変身できる、特別な方法がある』と唆された……。ワシは、その特別な方法を信じて入信し、イケメンの容姿を手に入れる代わりに、教団へと【もともと無いようなもの】であったワシの大事な【倫理観】をすべて対価として差し引かれるという【血の入信契約】を、交わしたのじゃ!!」

なけなしの倫理観すら完全に毟り取られた結果、ブレーキが完全にブ壊れ、ただのストーカーから「本物の変態(恋の王様)」へと暗黒進化を遂げてしまっていたカウフマンさん。

だが、教団のハメ技はそれだけでは終わらない。第三段階として【教団の教義(ペナルティ)で縛る】という、恐るべき雁字搦めのサブスクマルチの手口が、おじさんの口からすべて漏らされた、まさにその瞬間だった。教団の規約の呪いが自動発動し、おじさんの胸の奥で、心臓が激しく締め付けられる致命的な激痛がリアルタイムで襲いかかった。

「う、ぐふっ……あ、あァッ!! 心臓が……激しく、締め付けられる……っ!!」

血の泡を吐いて悶絶するカウフマンさん。だが、そのキモすぎる独白を背後で聞いていたアイちゃんは、ついにその精神の【気持ち悪いバロメーターがマックス】へと到達した。

カズキさんとタダシにはその黒い表情を絶対に悟られないよう、細心の注意を払いながら――アイちゃんは、床に傷つき這いつくばるカウフマンおじさんただ一人に向けて、ピンポイントで恐るべき視線の光線を照射した。

その瞳のグラフィックは、いつもの「養豚所の豚を見る目」から、さらに冷酷で残虐な、【そこにたまに湧く害虫を見る目】へと、最悪のレベルアップを果たしていた。

だが、そのアイちゃんから向けられた絶対零度の「害虫デスアイ」を見た瞬間、おじさんの狂ったマゾ脳内メモリは、教団の呪いの激痛をあり得ない方向へとバグ変換した。

「(……う、ぐふっ、心臓が激しく締め付けられる……! おのれ、これが……これがワシの、アイちゃんへの抑えきれない【恋の痛み】なのかァァァーーーッッッ!!❤ ワシは今、アイちゃんのこの冷静に見る冷たい目に、心臓が止まるほど恋をしてるんだぁぁぁーーーッ!!)」

カウフマンさんは教団の致命的なペナルティの激痛すらも「ただの恋の痛み」だとどこまでも気持ち悪く大勘違いし、床に這いつくばったまま、教団の教義ではなく、改めてアイちゃんへの永遠の絶対的忠誠(奴隷化)を瞳にギラギラと滾らせるのだった。

(……いや、いつも通りだけど、理由がやっぱり最高に気持ち悪くて大迷惑だわ!! 邪神教団、そんな失恋した限界マゾのストーカーをターゲットにして、最悪な悪魔のシステムを量産してんじゃねえよ!!)

俺の脳内ツッコミが、このダンジョンの不条理な空間に激しく空回りする。

カルト教団の巧妙な侵食の網の証拠は、カズキさんの有能な手によって完全に現行犯でホールドされた。だが、そこにあるのは、おじさんの最悪に気持ち悪い勘違いの真実と、ビッチの二面性の露呈。やはり誰も、何一つとして幸せになっていない、最高にむなしいオチだった。

だが、俺は同時に、カウフマンおじさんの告白によって、あの邪神教団のフロント企業(武器屋)の「真のハメ技のシステム」を100%完全に理解していた。

「心の隙間(弱み)に付け込み、悪魔との契約で願いを叶えさせ、その後は教団の教義(ペナルティ)で雁字搦めにしてすべてを毟り取るやり口……。前世の悪質なマルチやカルトの拡大ロジックと全く同じだわ」

俺の胸の奥で、静かなる熱血(正義)が、冷徹な社畜の知略と共に青白い炎となって滾り出した。

現行犯の証拠は揃った。ここからどう進めるべきか。

俺は、手に入れた新しい相棒(プーエル)の柄を強く握りしめ、カズキさんやタダシの公営ネットワーク、そしてプーエルの持つ「身代わり」の権能の知識を組み合わせ、あの胡散臭い邪神教団を駆逐するための【真の包囲カウンター作戦(次なる一歩)】を、脳内メモリで、弾き出し始めるのだった――。

(第25話


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