【第24話】「プーエルの権能と、不条理なイケメン包囲網」
2週間ぶりに営業を再開した我が『初級魔力層』の通路は、初対面のはずのギラギライケメンの攻撃スキルを、俺の【不屈の正義】が最初から完璧に「パキィン」と跳ね返してしまうという、異次元の違和感に包まれていた。
「おい、レン。驚くのも無理はないが、あの男の攻撃スキルの奥底からは、私をハメたあのブラックな邪神教団の魔力システム臭がプンプンと漂ってきおるわ」
俺の手の中にある黒ずんだボロ剣の柄の隙間から、耳のすぐ傍で、禍々しくも極めて協力的な「声」が脳内メモリへと直接響き渡る。
この魔剣に宿る悪魔の正体。それは魔界の名門たる総統ブエルの部下であり、名を【プーエル】といった。かつて地獄の上司悪魔から、賽の河原で石を積むような不毛な報告書の山とノルマを毎日激しく詰められた焦りで邪神教団の罠にハメられ、この剣に封印された哀しき社畜悪魔。
そして奴が司る絶対的な権能は、他でもない――【身代わり】。
前回のグリズリーとの死闘で、俺が楽しみにしていた高級レストランの食事券を粉々に粉砕する代わりに、瀕死のダメージを完璧に無効化してみせたあの規格外の防御力こそが、悪魔プーエルの本物の権能の力だった。
当然、真面目な公営職員であるタダシに、この呪いの魔剣の悪魔の存在を明かすわけにはいかない。プーエルの存在は、まだ完全に秘密のままだ。
俺は悪魔の復讐に燃えるプーエルの知恵を、あたかも自分の前世のバイヤー経験から弾き出したかのように脳内で処理すると、一度通路を離れ、ロビーの隅で待機していたタダシの元へと合流した。
「タダシ、相談がある。――あのギラギライケメン、中身はコイキングおじさんだ」
「……は、はいぃぃっ!? レン殿、何を仰っているのですか! あんな都会風の超絶男前が、あのマゾの極みにいる脳筋おじさんだなんて、そんなことがあり得るはずが――」
驚愕で声を裏返らせるタダシに対し、俺は先ほどのバリアが最初から無効化を発動した「攻撃スキルの軌道の癖」の件を冷徹に伝えた。
するとタダシは真面目な顔のまま、ギルドの出向期間中に自らが耳にした奇妙な話を思い出し、ハッとしたように表情を強張らせた。
「……あ。そういえばレン殿、ギルドの裏口で、アイ殿が他の女性職員に向かって物凄い勢いで愚痴をこぼしているのを聞いたのです」
タダシは声を潜め、ロビーの様子を窺いながら自然な口調で続けた。
「アイ殿、有能なカズキさんの前ではいつも、これ以上ないほどしおらしい可憐な聖女を完璧に演じきっているのですが……。カズキさんの見ていない裏口では、他の女性職員に『ねえ聞いてよぉ、あの最新装備の男、顔は最高にいいんだけど、なぜか私の前に来るといつも大粒の涙をボロボロ流して静かに泣いてるし、言動がいちいちおかしくてマジで気味が悪いんだけど! イケメンだけど、距離感がバグってて対応が難しすぎるわよねぇ〜w』と、クソデカため息を吐いていたのです」
アイちゃんが有能なカズキさんを骨抜きにするための最高出力の猫かぶり(黄金の笑顔)を向けた結果、目の前のイケメンが『正体に気づかれていない切なさとマゾの絶頂の涙』を流して大不審者と化しているという、最高に噛み合っていない不条理な現実。
「顔はいいのに、いつも大粒の涙を流して泣いていて、言動がおかしい、か……」
俺の脳内メモリの中で、そのパズルのピースが完璧に定着された。
鑑定能力がなくても、これだけの情報があれば確信できる。見た目をどれだけ都会風に偽装していようが、中身は、あのアイちゃんの蔑みに一生の忠義を捧げていたおじさんそのものだ。だが、武器屋の裏の契約も詳細な証拠も、現時点では未だ不明の闇の中。
おじさんには、変身して最高に幸せそうなところを大変申し訳ないとは思うが――。
この2週間、俺とタダシは必死に街中を捜索し、あの胡散臭い武器屋の尻尾を掴しようと動き回って、手がかりが何一つとして掴めずに焦っていたのだ。結局分かったのはコマ回しの趣味くらいという虚しい2週間。
だが、あの男のいつもどおりの迷惑スキルこそが、街を侵食しつつある邪神教団の不穏な計画の網を暴くための、唯一にして最大の「糸口」だった。
「よし、タダシ。これはお前の公営ネットワークのルートを経由して、有能なカズキさんにも正式に協力を仰ごう。あの管理職員のガードの固さと、俺が睨んでいる教団の装備の知識を組み合わせれば、あの偽イケメンの化けの皮を剥がすための、完璧な包囲網が組み立てられるはずだ」
「応ッ!! カズキ先輩への根回しは、同じ公営ネットワークの治安維持として、この私服が責任を持って完遂いたします!」
タダシは元の真面目な衛兵服の胸を、漢らしく力強く叩いた。
2週間の無駄足に、ようやく差した一筋の光明。
俺は新しい相棒の柄を強く握りしめ、マイナス固定されたSAN値を冷徹なやせ我慢で引き締めながら、あの幸せの絶頂で泣いている偽イケメンを見つめた。
これで、あのカルト教団の尻尾を掴むための、真の手がかりがやっと手に入る……!
俺の胸の奥の静かなる熱血(正義)が、静かに火を吹き始めるのだった――。
(第24話




