↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
11/62

【第11話】「不屈の正義(ジャスティス)と、狡猾なる聖女の指導」

「――そこまでだ、ネズミが。随分と余計な口を叩いてくれたようだな」

無法地帯であるダンジョン『初級魔力層』の深い死角。通路の奥から現れたその男には、昨日までの調子の良い「和尚(ハゲ)」の面影など、1ミリも残っていなかった。全身からB級上位の圧倒的な威圧感を放つ、冷徹な大規模ブラッククランの副長の本性 。

ロビーで俺に「死人を出し続けている闇」をバラされそうになったハゲは、地方でのスカウト計画の邪魔になるこのゴミを、ここで確実に、事故に見せかけて口を封じるための冷酷な殺意のスイッチを入れていた。

奴は俺を1ミリもナメていない。確実に殺し、確実に消す。

フッ、と和尚の身体が手際よくブレた。戦闘開始の直前、奴は大剣の柄で、俺が懐に隠し持っていた回復ポーションの袋を正確に狙い撃ち、パキィィィンとすべて粉砕した。

「まずは回復を潰す。これがガチの戦場だ。――そして、言い訳の余地すら与えず、最初から最大火力で消し飛ばす。【剛腕破断(グランド・バスター)】!!」

ズドォォォォン!!!

無法地帯の通路に、超高火力の必殺攻撃スキルが炸裂した。

今回はこれが実質『2回目』の被弾。高級ポーションを全て叩き割られた生身の肉体に、B級上位の本気の一撃が容赦なく生身の骨格を砕きにかかる。

「が、はああァァッ……!!!」

口から大量の鮮血が吹き飛び、俺の基礎生命力が一気に赤色の絶望圏内へと叩き落とされる。

【不屈の正義・解析カウント:2/3】

「そこまでだ、ギルド副長殿ォォォッ!! ギルド規約第1条『私闘の禁止』!」

俺の絶体絶命のピンチに、新人衛兵のタダシが命懸けで前に割り込み、大剣を構える和尚の前に立ちはだかった。だが、この男の狡猾さは底が知れなかった。

(チッ、また同じ邪魔か……。だがここはダンジョンの深い部分、どうやって2人同時に、確実に事故として始末するか――)

和尚はタダシの制止に怯むどころか、2人をまとめて完全に消し去るための「最適な殺害手順」を脳内で冷徹に計算し始めた。

だが、その【どう一緒に始末するかを考えた一瞬の思考】が、和尚の立ち回りにほんの僅かな『隙』を生じさせた。

その一瞬の隙。通路の完全な死角。

気配を完全に消し、例の『謎の戦いの構え』のポーズのまま完全石像化していた【石像の爺さん冒険者(固定ペット)】が、無音で俺の真後ろへとワープして佇んでいた。お爺さんは和尚の索敵レーダーを完全にすり抜けている。爺さんは硬直したポーズのまま、口だけはベラベラと超ハイパースピードで囁きかける。

「おお、若者よ。ワシらの今日の冒険方針としてはだな……」

「爺さん、その高級ポーション、借りるぞッ!!」

俺は電光石火の早業で、お爺さんのポケットからハミ出ていた【最高級回復ポーション】をひったくり、自分の身体へと一気にぶち撒けた!

シュワァァァッ!!!

染み渡る圧倒的な回復魔力。和尚が「2人をどう仕留めるか」を計算して油断しているその死角で、俺の千切れかけた細胞が一瞬で安全圏へと引き上げられ、同時に肉体強度(レベル上げの成果)が限界まで跳ね上がった。

直後に放たれた2発目の【剛腕破断】を、俺は真っ正面から肉体と根性で耐え切った!

ドグシャァァァッ!!!

「ぐ、おおおおおッ!!!!」

凄まじい衝撃波が俺の精神と肉体を激しくすり潰していく。だが、爺さんの最高級ポーションの補助のおかげで、俺の心は1ミリも死んじゃいねえ!

【不屈の正義(アブソリュート・ジャスティス)カウント:3/3 ── 相手の得意な攻撃スキル、完全解析完了……ッ!】

ピキィィィン!!!

俺の魂の奥底から、これ以上にない超特大の正義の魔力が激しく鳴り響いた。

和尚の放つ大技の魔力波形は、今、俺の正義の魂に完全に掌握された。

「な、なぜまだ生きて……っ!? ――ええい、ワシをナメるなァッ!! 今回は確実に死ねぇッ!! とどめの【剛腕破断(グランド・バスター)】やぁぁッ!!」

激怒した和尚が、顔面を血の気のない白に染め、我を忘れて放った最大威力(トータル4回目)のトドメの一撃。

パキィィィィィンッ!!!!!

次の瞬間、通路を木っ端微塵に粉砕せんばかりの超高火力の衝撃波は、俺の全身を包む無効化バリアの前に真っ正面から【完璧に弾き返され】、ガラスのように砕け散って霧散した。

「な……え……!? 攻撃が、利かない……!? ワシの本気の一撃が、ただの雑魚に弾かれただと……!?」

都会のナンバー2として君臨してきたハゲが、自らの必殺技が1ミリも通用しないという絶対的な理不尽を前に、激しく動揺した。

「バカな……あり得ん! 死ね! 死ねぇぇぇッ!!」

和尚は顔面蒼白のまま、確実に俺を仕留めるために、必殺の【剛腕破断(グランド・バスター)】を狂ったように何度も連発して叩き込んできた。

パキィン! パキィン! パキィィンッ!

だが、そのすべてが、俺の無効化バリアによってただの虚無へと弾き返されていく。

全力を込めた必殺の攻撃スキルを何度も何度も無駄に撃ち尽くした結果――和尚は【自身のスキルポイント(SP)を完全に喪失】してしまった。

魔力を完全に枯渇させ、ガス欠を起こした和尚は、急激に動きが悪化。

そこに、初めて「化け物を見る目」になったハゲの、絶望による異常に大きな致命的な隙が生まれた。

俺は一歩、力強く足を踏み出し、初心者用の剣の切っ先を、腰を抜かして床へへたり込んだ和尚の首元へと、寸分の狂いもなく鋭く突きつけた。

冷たい刃の感触。勝負は、完全に決した。

「ひっ、ひいいぃぃっ……!!」

SPも完全に尽き、これ以上の戦闘は圧倒的に不利だと瞬時に自覚したハゲは、その世渡りだけでのぼりつめた凄まじい調子の良さを発動させた。

一瞬で、あの布袋様のような「仏の顔」へと表情をパージし、ペコペコと頭を下げながら、ひょうきんな態度で命乞いを始めたのだ。

「ま、待ってくれ! 悪かった! ワシが悪かった! だから、今回だけは助けてくれ!!なっつ!」

必死に汗を流しながら、ひょうきんを装ってその場をやり過ごそうとする和尚。

だが、その醜悪な脳内メモリでは、最悪なゲス本音が爆発していた。

(っ……! ここは死に体になってでも、この場さえ適当に謝ってやり過ごしてしまえば、都会のワシの大人数パーティーの権力でいくらでも後からこんな田舎の雑魚(レン)ごと握り潰せるわい……!)

ハゲがその薄汚い逆襲の計算を完了させた、まさにその瞬間だった。

「――そこまでだ、大人数パーティーの副長殿」

通路の奥から、冷徹で、だがこの上なく爽やかな声が響いた。

タダシの迅速な誘導によって、新人のピンチを察知した子供向けA級指導員のカズキ先輩が、現場へと駆けつけていたのだ。カズキ先輩の背後には、アイさんの姿もあった。

「新人を使い捨てる目的での勧誘行為、およびダンジョン内での独断による暗殺未遂。……すべて、この目で確認させてもらった。貴方をギルド規約に基づき、本日をもって【公式に一発永久BAN(追放)】とする」

カズキ先輩からの、冷酷な公式処分の宣告。

(後でいくらでもなんとかできる)とほくそ笑んでいた和尚は、決定的な暗殺の現場を完全に現行犯で押さえられ、公式BANという絶対的な審判を前に、今度こそ言い訳の余地すらなく、顔面を真っ白に染めて本当の絶望へと叩き落とされた。都会の大規模パーティーの副長という権威もすべて剥ぎ取られ、ハゲは完全に意気消沈しながら、衛兵たちによって無様にダンジョンの外へと連行されていった。完全なる征伐(大ざまぁ)である。

ハゲの連行を見届けた、まさにその瞬間だった。

横にいたアイ先輩の「狡猾ビッチの脳内メモリ」が、己の保身のために超高速で最善の計算を弾き出した。彼女は一瞬で「健気に責任を感じる聖女」へと表情をパージし、涙をポロポロとこぼしながら、俯いてカズキ先輩の前に進み出た。

「……っ、カズキ君。私としたことが、あの男の悪性を見抜けなかった……。現地の管理者でありながら、新人のみんなをこんな危険な目に遭わせてしまうなんて……一人の大人として、自分が本当に許せないわ……!」

ぎゅっと拳を握りしめ、あまりの悔しさに身を震わせる完璧な演技。

「……すべては私の責任よ。責任を取って、私は監視員を辞職するわ……!」

「アイさん……。いや、そんな悲しいことを言わないでくれ。あいつは都会の大規模パーティーの副長だ、騙されても仕方のない相手だよ。君だけのせいじゃない」

カズキ先輩の優しさに満ちあふれた声。完璧にほだされた。

その瞬間、アイさんの下を向いた瞳が、カズキ先輩の死角でギラリと狡猾に光った。

「ありがとう、カズキ君……。でも私、このままじゃいられない。一から出直すわ。……だから、お願い。私をもう一度、正しい監視員になるために……カズキ君の『指導』が必要なの。これからも、私のそばで、色んなことを教えてくれる……?」

上目遣いでカズキ先輩の服の袖をちょこんと掴み、涙目でのおねだり。

他所の男を貢がせていた裏の繋がりを完璧に隠蔽したどころか、この最悪な大不祥事のドサクサに紛れて、カズキ先輩との「マンツーマンの個人指導(実質デートの権利)」を合法的に勝ち取るという、次元の違う狡猾ビッチムーブ。

「あ、ああ……。君がそこまで言うなら、僕で良ければいくらでも指導するよ」

カズキ先輩は言葉を返した。――だが、その瞬間。カズキ先輩の背筋に、得体の知れない冷たい悪寒が走った。目の前にいる可憐な後輩の笑顔の奥に、何か底知れない深淵を見たような恐怖。カズキ先輩は、今、自分が何か決定的に間違った選択(デスフラグ)をしたことに本能的に気づいて、ゾクッと青ざめていた。

さらにそこへ、通路の奥から凄まじい地響きを立てて、一人の地雷プレイヤーが駆けつけてきた。

「ハァ、ハァ、ハァ……!! 何やら特大の騒ぎが起きたと聞いて、野次馬(やじうま)で飛んできたぞぉぉぉ!!」

やっぱり現れた【コイキングおじさん】だった。

ただの野次馬精神で突っ込んできたおじさんは、偶然にも、カズキ先輩の服を掴んで涙目を浮かべているアイ先輩の「これまでにない殊勝でしおらしい姿(聖女モード)」を網膜に焼き付けた。

そして、その涙の奥にある『自分が犯したミス(ハゲの不祥事)に対して、監視員の頂点(女王様)として完璧に責任を取ろうとする冷徹で凛とした態度』。それを脳内で都合よく最悪な方向へと解釈した瞬間、おじさんのとろけた細胞に、天変地異レベルの劇的なエフェクトが走った。

「う、うおおおおおおおッ!! あのアイちゃんが、涙を浮かべながらも、凛として国家(ギルド)の全責任を背負おうとしている……!! なんという圧倒的な女王としての責任ある態度……!! ワシは今決めたぞ! アイちゃんを真の女王様とし、ワシは一人の従順な奴隷(国民)として、そのデスアイの国家に一生の忠義を捧げることをぉぉぉーーーッッ!!!」

アイさんの「涙目の保身」というゲスすぎるクズっぷりを目撃したことで、コイキングおじさんはマゾの方向性をさらに斜め上の次元へと拗らせ、一人の忠実な奴隷(国民)としての永遠の愛を誓いながら、通路の端でガチガチに身震いして完全フリーズ(オブジェクト化)するのだった。

その横で、タダシだけが「あ、アイ先輩! 一から出直すなんて素晴らしいです! 私も全力でサポートします!」と大勘違いで目を輝かせていたが、アイ先輩からはカズキ先輩の死角で「(死ね不細工)」と絶対零度のジェスチャーで一瞬で拒絶されていた。タダシの哀愁は今日も変わらない。

「はぁ……。本当に、どこまでも計算高くて狡猾なビッチだな、あの人は……」

俺は肩の力を抜き、充実感(やせ我慢)の混じったため息を吐きながら、格安ダンジョンの出口へと向かった。

(……あ、そういえば。あの緊迫した死線の中で、爺さんのポケットから強引にひったくっちまった最高級ポーション、後でちゃんと買って返さなきゃな……。高そうだけど、命の恩(?)人だしな)

そんな不器用な良心を胸に、後ろを振り返る。

そこには、最高級ポーションを奪われたことすら気づいていないのか、あるいは最初からボケているのか、両手を突き出した最初の『謎の戦いの構え』のポーズを寸分違わず完璧に維持したまま、無音で俺の真後ろをピタッと並走してくる【石像の爺さん冒険者(固定ペット)】が、今日も口だけをハイパースピードで大爆走させていた。

「いやぁ、若者よ。今日のワシらの今後の冒険方針としてはだな……。そういえば、さっきワシのポケットから何か緑色の光が爆散したような気がするんじゃが、これはバグかのぅ?」

出現するモンスターは簡単に潰れるスライムや虫ばかりの、田舎の本当に小さな初心者ダンジョンだ。普通にサクッと一太刀で倒せば何ともない、確実に1ポイントの固定経験値が入るだけの、ただの平和な公営の訓練施設 。

だけど、そんな初心者向けの場所であっても、毎日欠かさず家から徒歩3分の距離を通い詰め、泥臭く基礎体力を鍛えてレベル上げを積み重ねてきた日々の重要性を、俺は今、心から実感していた。

地道な努力の果てに手に入れた肉体強度と根性があったからこそ、俺は都会のガチ勢のクソみたいな理不尽を真っ正面から弾き返し、タダシや新人たちの未来を守り抜くことができたのだ。

「レベル上げ……マジで大事だな」

俺はぽつりと呟き、背後に昔話をノンストップで囁き続ける石像の爺さんを引き連れながら、宿屋のキンキンに冷えた麦茶を目指して、家から徒歩3分の我が家へと力強く歩き出すのだった。

(第11話 完



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。