↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/62

【第10話】「完全なる敗北イベントと、死線への情報収集」

あの最悪な裏切りと屈辱の出会いから、さらに数日が経過した。

ギルドの受付や通路の死角で会うたびに、和尚(ハゲ)は俺やタダシを格下の最弱の雑魚だとナメ腐って執拗にいじり、アイさんも裏で懐柔されているため絶対零度のデスアイでそれを嘲笑していた。前世のブラック企業時代のトラウマを抉られ、俺の精神(SAN値)は地の底まで削り落とされていたが、俺は冷徹に、奴を無法地帯で圧殺するための情報を集めていた。

「おいおいレンくん! 今日も地味〜に奴隷の足踏み(レベル上げ)かね? ちょっとワシが手際の良い戦い方ってやつを、直々に『指導』してあげようか?」

ダンジョンの入り口付近、ギルド受付のすぐ目の前。和尚がいつものようにニヤニヤと調子よく自分のハゲ頭を叩きながら、大剣を抜いて俺の前に立ち塞がった。

(……指導? いつもはネチネチと言葉で絡んでくるだけだったあのハゲが、向こうから直接攻撃を仕掛けてくるってか? ──ハッ、最高だ。こんなチャンス、二度とねえよ!)

奴の攻撃スキルを調べる絶好の機会が向こうから転がり込んできた。俺は実力を隠したまま、初心者用の剣を構えて真っ正面から突撃した。

だが、相手は都会の大人数パーティーの副長であり、B級上位の実力者だ。

和尚は布袋様のような体型からは想像もつかない手際の良い身のこなしで、俺の拙い剣撃をすべて最小限の動きで受け流し、不気味にニヤニヤと笑った。

「おっと、隙だらけだねぇ。まず、こういう甘い備えを無くすのが都会のガチ勢の基本なんや」

バキィッ!!!

和尚の通常攻撃に見せかけた容赦のない一撃は、俺の剣ではなく、腰に下げていた初心者用の【回復ポーションの瓶】を正確に狙い撃ち、粉々に叩き割った。ガラスの砕ける鋭い音と共に、緑色の液体が床へと虚しく零れ落ちていく。

「ギャハハハ! 回復手段を完全に失った雑魚が、これからどう足掻くのか見ものだな!」

最初からこちらの戦意を折るための、徹底して狡猾な戦術。

そのままドカッ、バキィッと放たれた、実力を伴った凄まじい通常打撃と攻撃スキルにより、俺の肉体は一方的にボコボコにされ、通路の床へと這いつくばらされた。

「ぐっ……、はっ……!」

全身の骨が軋み、凄まじい激痛が走る。さすがはガチ勢。普通に倒せばなんともないスライムを処理するように、俺はなぶり殺しにされていた。

だが、俺の目的は、単にボコられることではない。奴の最も得意な『必殺の攻撃スキル』を今ここで発動させ、その攻撃スキルを解析することだ。

俺は口元の血を拭い、床に膝をついたまま、奴の「地雷の核心」を突く逆マウント(挑発)を大声で言い放った。

「……ハッ、都会の副長が、田舎の素人相手に必死にイキって楽しいかよ? お前がそうやって優しく新人を勧誘してる裏で、行軍のたびに人が死にまくってるブラッククランだって噂、都会じゃ有名らしいぜ……?」

その瞬間、和尚の福々しい笑顔が完全に消え失せた。

都会で悪評が広まりすぎて地方へ逃げてきたという最大の恥部をバラされたハゲの薄汚い瞳が、漆黒の殺気で狂い狂った。

「――格下のゴミが、都会の大規模パーティーの副長に調子乗った口叩いてんじゃねえぞォォォッ!! 【剛腕破断(グランド・バスター)】!!」

引き出した。和尚が激昂し、大剣にド派手な高火力魔力を集束させて放った、奴の最大得意スキル。

大剣から放たれた超高火力の衝撃波が、狙い通り、俺の肉体を真っ正面から直撃した。

ズドォォォォン!!!

「が、はあぁッ……ッ!!!」

あまりの破壊力に口から鮮血が吹き飛び、俺の身体は受付のロビーを派手に転がった。生身のまま受け止めたB級上位の本気の一撃。凄まじい激痛が走り、骨がミシミシと悲鳴を上げる。

だが、俺の魂は叫んでいた。(耐えた……! これで1回目だ!!)

【不屈の正義・解析カウント:1/3】

「ハッ! 都会のガチ勢の必殺技だ、田舎の雑魚が一撃で耐えられるわけねえだろ!」

和尚が怒り狂った顔のまま、さらにトドメの衝撃波を構えた、その時だった。

ピーーーーーーッ!!!(鋭い魔笛の音)

「そこまでだ、ギルド副長殿ォォォッ!! ギルド規約第1条『私闘の禁止』! これ以上の戦闘行為は、たとえ他所の幹部であろうとも法的処分の対象となりますッ!!」

第2監視塔から飛び降りた新人衛兵のタダシが、命懸けで俺の前に割り込み、大剣を構える和尚の前に立ちはだかった。

アイ先輩へのアピール(隠蔽工作)を最優先にする和尚は、タダシの決死の制止を受け、「チッ、田舎の衛兵がうるさいな……。まぁいいわ、アイちゃんに免じて、今日のゴミ掃除はこれくらいで勘弁してやる。ギャハハハ!」と、すぐにいつもの調子の良い笑顔を取り繕い、大剣を収めてロビーの奥へと引き下がっていった。

「レン殿! 大大丈夫ですか!?」

タダシが涙目で俺を抱き起こす。俺はボコボコにされた肉体の痛みに耐えながら、不敵に笑ってみせた。

「……ああ、問題ない。1回なら、生身でもギリギリ死なないことは今ので分かったからな。それに、目的は完全に達成した」

俺はボロボロの身体をタダシに支えられながら、死んだ魚の目をギラリと妖しく燃え上がらせた。奴は俺を「一撃で這いつくばる最弱の雑魚」だと完全に勘違いして油断した。だが、俺の魂は今、奴の最も得意な【剛腕破断】の攻撃スキルを、確実に1回分、完全に解析(セーブ)し終えていた。

「本番は、ここからだ。あいつは明日、無法地帯のダンジョンの深い死角で、さらにしつこく俺を確実に殺しにイジり(攻撃)にくる。だが同時に、あいつが最初にこちらの回復ポーションを狙って粉砕するエグい手口も、今のではっきり分かった」

「レン殿……! ということは、明日もこちらのポーションは真っ先に潰されてしまうということですか……! 2回連続であの威力を喰らえば、スキルが発動する前に生命力が尽きて死んでしまいます!」

「だから、明日はパーティープレイ(共闘)で行く。作戦を立てるぞ、タダシ」

俺たちの緊迫した作戦会議のすぐ後ろ。通路の完全な死角で、気配を完全に消し、例の『謎の戦いの構え』のポーズのまま完全石像化していた【石像の爺さん冒険者(固定ペット)】が、無音で俺の真後ろへとワープ(にじり寄り)してきた。

爺さんはその硬直したポーズのまま、口だけはベラベラと超ハイパースピードで囁きかける。

「おお、若者よ。ワシらの今日の冒険方針としてはだな……。えーと、ワシは今日、朝ごはんに何を食べたかのぅ……? うむ、確かにお婆さんがスライムの体液をペシッと……。おや、ワシはここで何の話をしておったっけ?」

(……駄目だ、完全にボケてて話が通じねえ! でも、このお爺さんのポケットから最高級の【高級回復ポーション】の頭がハミ出ているのが見えた)

そこで俺はある作戦を組み立てた。

「よし、タダシ。普通のポーションは間違いなく一瞬で潰される。だからこそ、明日はあいつの2回目の大技の瞬間、お前が命懸けの囮になってヘイトを惹きつけてくれ。その一瞬の隙に、俺は『完全に気配が消えていて和尚の索敵(レーダー)にすら引っかかっていない』このボケた爺さんのポケットから、高級ポーションを(借りて)ひったくって自分にかけて肉体を補助する。そしてそのまま、俺が根性で3回目を耐え抜く。これで行くぞ!」

「な、なるほど……! 和尚の裏をかくために、石像化して気配が消えている爺さんからポーションを奪う(借りる)のですね! 分かりました、レン殿の正義、命に代えても守り抜いてみせますッ!!」

タダシが涙目を拭い、固い握手を交わしてきた。背後では、お爺さんが「ほう、握手かね? 景気が良いのぅ」と構えたポーズのままフリーズしている。

徹底して本性を隠す狡猾なアイ、何も知らずに使い潰されようとしている新人たち、そして完全に俺たちを最弱だと勘違いして油断しているはげゴブリン副長。

因縁の1週間を経て、素人転生者の完璧なポーション強奪作戦(共闘)が、今、水面下で静かに発動した――。

(第10話 完



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。