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7.貨物は落とせない

 九時五十分

 

 絶対に、貨物は落とさない。落とさせやしない。

 

「多田君」

「ん?」

「フライトは、これが最速なんだよね」

「あぁ」

「じゃぁこれで案内する。ありがとう」

 優先順位はどれだ?とりあえず、再梱包は先に電話してCFSに依頼。

 その後パソコンに情報を入力。

 通関からの問い合わせの品名は顧客からの商品説明リストに載っているか確認。

 フライトは、現地空港着が深夜から正午へ変更。配達は恐らく半日の遅れ。急ぎとは聞いていないから大丈夫か?

「お疲れ様です。成田営業夢野です。CFS山岡さんいますか?山岡さんですか?番号○○のパソコンの貨物の件、再梱包お願いします。費用は確認済みです。後ほどパソコンに梱包依頼を入れますので、先に作業進めて下さい。よろしくお願いします」

 物品リストの確認。過去に出荷記録…ない。まずいな。今日の十五時までに通関許可がないとこの貨物は落ちる。

 顧客から直接商品説明を聞くしかない。


 十時


「いつもお世話になっております。スワローの夢野です。物流課の那須さんいらっしゃいますか?

 はい、大変申し訳ありません…この品名がリストになく、至急確認をお願いします。なるほど。製造部門へ問い合わせないと回答できないと。

 申し訳ありませんが、できるだけ早く、午前中に商品の説明をメールで下さい。はい、お忙しいところ大変申し訳ございません。よろしくお願い致します」

 該当する商品の書いてあるインボイスをメールに添付して、製品の用途と材質の確認をお願いした。

 韓国からのメール。この番号は…既に釜山空港までの到着は確認済みの分だ。昨日の朝に到着した事をメールしたはずだが、現地担当者の見落としだろうか。

「夢野、韓国の李さんから電話」

 焦れたスワローの韓国支店が電話をかけてきた。

「ハロー。アイム夢野。キャンユーチェック ザイーメイル?アイセント イーメイル イエスタディモーニング。イエス、イエス。フライトOK。ディスカーゴ、アライブド釜山。サンキュー、BYE」

 CFSに梱包依頼を入力。

 田端さんに再梱包費用確認のメール。あとで揉めないように、文章で証拠を残しておくのを忘れない。

 残りの通常出荷…通関許可済みが二件、未許可が八件、異常なし。


 十時半


 通常出荷AWB(エアウェイビル)(航空輸送の送り状)作成していない分三件を作成。

 新規の依頼メールあり。内容を確認する限りこれは午後確認で問題なし。別のフォルダに入れておく。

「フライト変更の確認メール…」

 現時点で最短のフライトスケジュールだから、文句を言われてもこれで理解してもらうしかない。ごねられたところで、私には謝り倒す事くらしかできない。せめて電話で謝ろう。

「いつもお世話になっております、スワローの夢野です。あぁ、山本さん。すみません、番号〇△の分でフライトが遅延になりまして…。はい、理由としては機材繰りです。

 すみませんが、航空会社の都合になりますので、こちらとしてはどうにもできません。最短でフライトアレンジしましたので、はい、申し訳ないです。スケジュールの遅れとしては…そうですね、現地の手配に問題なければ配達は半日ほどの遅れかと。半日くらいなら大丈夫ですか。その日中に到着すれば問題ない?良かったです~。

 詳しいフライト情報はメールしますね。

 明後日ですか?午後3時アポ…?大丈夫です。はい、ではまたメールします。失礼いたします」

 もう十一時過ぎか。出荷ステータスを確認。

「あっ…パソコンの梱包終わってる。早っ」

 これであとは通関で問題なければ、無事飛行機に搭載されるだろう。

 運の良いことに、那須さんから商品説明についてのメールも来た。

「お疲れ様です。成田営業夢野です。通関課の佐藤さんいますか?夢野です。○□番号の分、商品は品名が多少異なりますが、通常出荷している製品とほぼ同じだと。チャットで説明お送りします。よろしくお願いします」

 那須さんのメールに返事しとこう…

 良かった。パソコンと今説明を送った出荷以外の、今日明日のフライトの出荷十件、全部通関許可になった~。 あとは飛行機の搭載が無事されることを祈るのみ。メールチェックしよ。

「あー…もう十二時になる…」


           *


 昼休み、私はぐったりとしていた。完全に思考回路がショートしている。心なしか、頭が熱いような。

「お疲れ様、夢野ちゃん」

 春野さんが紅茶を飲みながら私の机にチョコレートを置いた。

「春野さん~」

「よく頑張ったわね。まぁ、夢野ちゃんのミスもあるけど」

「はい…すみません」

「あとは、通関許可が下りるか見ておくのよ。午後からやる新規出荷の手配と同時進行で」

「はい…」

 もうヤダ。帰りたい。今日の分の仕事を全部やったかのような疲労感…。

「ふふふ。夢野ちゃん、やり切ったって顔してる」

「え?」

 思考回路はショートしているが、私は高揚感を感じていた。

「あ、パソコン、通関許可出たわよ。早かったわね。とりあえず安心ね。あとはフライト載れば」

「やったぁ~」

 終わった。とりあえず終わった。通関が許可になったこと田端さんにメールしておいてあげよう…。費用もOK貰っているから問題ないよね…

「それにしても、再梱包したりで何かと費用かかりましたね、パソコン」

「そうなの。だからね、普通に持って行った方が安いことも多いの」

「えっ」

「手荷物で持って行けば私達業者を介さないし、通関も手荷物で持って行けばやらなくていいしねェ」

「そ、そうだったんですかぁ~」

「そ。だから、私は手荷物で持って行けないか一旦提案するわねェ~」

 がくり。パソコンなんて小さな物だからそんなにお金は取れないし、苦労はするし、多田君が言う通りの割に合わない仕事なのだった。

「お疲れ」

「あ、多田君。お疲れ様…」

 多田君は涼しげな顔をして向かいで珈琲を飲んでいる。こうありたい。春野さんと多田君が余裕そうな顔で休憩している中、私はまだお弁当を食べている。

「午後からも、頑張りましょうね~」

「ハイ…」

 十五時ごろには全ての貨物の通関許可が下り、私は一息ついた。明日以降のフライトの出荷も今のところは変な依頼はないはず。でもちゃんと商品の確認しなくちゃなぁ。うわ、何だこれ。初めて聞くな。説明を書いてくれているけど、説明されても分からないよ。

 危険品じゃないよね?あんなハイカロリーなのしばらくやりたくない。

 結局商品の説明を貰ってもよく分からなくて、何度も顧客と電話をしながら確認していたら、気づいたらあと一時間で定時。

「大丈夫?夢野ちゃん」

「ハイ…昨日よりは早く帰れますので、春野さんは先に帰ってください…」

「あらそォ?頑張ってね」

 お先です~と春野さんはにこにこしながら帰って行った。時間のある日、春野さんはアフターファイブを楽しんで帰ると言っていた。デパートに買い物に行ったりするらしい。優雅。

「あ!明後日同期の飲み会じゃん!明後日外出の予定入れちゃったよ。定時に仕事終わらせられるかなぁ…?」

 イレギュラーな出荷は無かったので、昨日よりは早く帰れそうだ。私の次に残業しがちの(一位と二位の差はかなり空いている)黒田さんと同じくらいの時間に帰れそう。

 黒田主任は無口だしよくイライラしていて怖い。太田係長に「もう少し愛想良くしろ」と言われているし、一度あの温和な影武者課長にも注意されていた。

「…お、お疲れ様です」

 すれ違ったので一応挨拶しておく。挨拶は大事。仕事ができなくて愛想もないなんて救いようがないからね…

「…」

 ペコリ、と軽く頭を下げて去って行った。頭を下げられたけど、長い髪の間から見えた目は睨んでいた気がする。気に障る事しちゃったかなぁ…

「さぁて、私も帰ろ。海外…特に欧米から来たメール見落としたら時差的に大変だから…うん、大丈夫そう。あ!最後にパソコンがちゃんと搭載されたか確認しなくちゃ。それで、田端さんにメール送ろう!」

 搭載されたかは、社内システムで見ることができる。パソコンの出荷番号を入力する。十中八九搭載されているはずだ。

「えっ…」

 搭載されてない。落ちてる。

「理由は…baggage(バゲージ)…」

 旅客用の手荷物が多くて一部搭載できなかった貨物があり、その一部搭載できなかった貨物に運悪くパソコンは選ばれてしまったらしい。フライトは…翌日。

「何でよぉ~急いだのにぃ~田端さんごめんなさい~」

 誰もいないのを良いことに、私は大きな独り言を言った。

 田端さんに良い連絡をして帰ろうと思っていたのに、残念ながらフライト遅延の連絡をして帰ることになってしまった。

 脳内の春野さんが「あらあらァ~自然災害と航空会社の都合に私達は無力だから」と言っている。

「ま、それでも謝らないといけないんだけどねェ~」とも。

主人公(夢野)のやっていることを分かりやすく説明できなかったので、なんか高速で頭を働かせて仕事してるという風に捉えてください(泣)

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