6.慌ただしい朝
翌朝、八時二十五分。
私は出社時間を早めた。春野さんが紅茶を淹れているところに出くわす。
「あらァ早いわねェ~」と少し驚いていた。
「ちょっと心配で…」
「分かるわよ。慣れてない危険品なんてドキドキしちゃうわよね」
飛行機で物を送るのはコストがかかる。飛行機のチケット代かそれ以上の値段で、ノートパソコン二台を送るのだ。急いでいるから高いお金を出して送ろうとしているのであって、高いお金を出してのんびりと送ったら意味がない。
なので、簡単に「この貨物載りませんでした」とは言えない。一日遅れるというのは、お客さんにとって大きな損失である。
メールをチェックしたり、昨日の仕事の残りを片付けたり、貨物の状況を確認する。遅いフライトの貨物だから、現場も私の担当している貨物の作業を後を回しにしているのだろう。ことごとく昨日から変化がない。でも、問題があると連絡があったらなるべく早く対応したくて、つい早く来てしまう。
九時
始業時間とともに簡単な朝礼が始まる。急ぎの貨物の手配をやっている人は、少しそわそわしていた。私も気が気でない。電話が鳴る。ドキリとする。
「夢野、現場から電話」
来てしまったか…
「はい、成田支店夢野です」
「CFSの山岡だけど、これ、パソコン?おたくの貨物だよね。番号が○○…」
CFS課とは、以前に言った通り貨物を動かす現場の人達だ。山岡さんの目の前の貨物と、私が搬出依頼(移動の依頼)をした貨物を照合するための国内輸送の送り状の番号を読み上げる。
「はい、そうです」
「だめだよこれ。このままだとこの貨物載らないよ」
私は電話口で見えないが、山岡さんは倉庫に届いたパソコンの段ボールを見て話しているのだろう。呆れた様な声を出した。
「えっ?!な、何ですか?!」
「シングルカートンだもの」
シングルカートン。分かりやすく言うと、国内輸送用段ボール。私もこの仕事を初めて知ったのだが、私達がいつも通販などで利用している段ボールはこれならしい。
一方で、航空輸送で使うのはダブルカートン。段ボールが二重の入れ子の様な構造になっている。
なぜこんな物を使うのか?海外旅行に行く際、多くの人が頑丈なキャリーケースで行くのと同じ理由だ。つまり飛行機から出す際の貨物の扱いが雑で、投げられたりするからである。
特に海外のハンドリングは酷い。ぼんぼん投げられる。パソコンなんてひとたまりもない。
「緩衝材ももう少し入れた方が良いだろうね。再梱包だ」
「す、すぐ荷主に伝えます!」
あわわ。これからCFSの現場作業の人達は貨物をフライト時間や航空会社別に分け、貨物に送り状のラベル(チケット)を張って航空会社の蔵置場(出国ロビー)へ送る作業をする。CFSの人達も午前中は忙しいのだ。
ベルトコンベアのように流れていく作業の中に、急に梱包作業を入れるのである。申し訳ない。
九時半
「いつもお世話になっております。スワローエクスプレスの夢野です」
「田端です。何かありましたか?」
ありましたよ~。でも、私が伝え忘れたのがいけないんですよね。普通ダブルカートンなんて分からないですもんね。
「あの、弊社倉庫に貨物届いたのですが、シングル…じゃなかった、国内輸送用の段ボールで送られていまして」
田端さんの頭にはてなマークが浮かんでるのが見える。私は説明した。
「なので、再梱包する必要があるんです。再梱包費用で追加でこのくらい頂くのですが…」
「…まぁ、仕方ないですよね。私が知らなかったのもいけませんでしたし」
「私も説明せずにすみませんでした」
田端さんと話が付くと、私はCFSの山岡さんに電話をしようと、受話器に手をかけた。
「夢野、通関から電話だ」
「へ?」
山岡さんへ電話を掛けるのを止めて、内線で通関課に繋げてもらう。
通関からの電話内容は、パソコンとはまた別の出荷の件だった。
見慣れない品物があって、何かよく分からないから説明して欲しいという事だった。よく分からない物に輸出許可は出せない。出国審査で止められているようなものだ。
つまりこのままだとこの貨物は飛行機に載せられない。出国できない。書類を確認する。うわぁ、よく見たらいつものやつとちょっと品名が違う!
九時四十五分。
「夢野ちゃん、悪いんだけど韓国から貨物が届いてないってメールが来てるわ。これ、急ぎだったと…」
え?
九時四十七分。
「夢野、さっき電話があった。フライト変更。この番号の分だ」
ちょっと待ってよ。
再梱包、品名のチェック、海外からのメール、フライトの変更の確認。通常朝やる業務も…
九時四十八分。
「おい、夢野、大丈夫か?」
「…」
「あの、春野さん、夢野のフォローをお願いできますか?」
「多田君。このくらい捌けないと私達はダメなのよ」
「でも…」
「…」
「大丈夫。夢野ちゃんはやるときはやるから」
これ分かりますかね???
夜に載せる貨物は、その日の午前中に届くことが多いです。届いてから、貨物にラベルを貼ったり、通関の審査を始めます。
営業(夢野)は前日に搬出作業、通関を依頼しておき現場がスムーズに動くようにしておくのですが、届いた貨物のままで飛行機に載せられない状態の場合、梱包し直したりと作業が発生します。
現場も大変ですが、勝手に作業できないため顧客に話をする営業も大変です。そして、顧客が納得するまで梱包作業が止まるので、現場からのクレームが入り、営業は板挟みになります。
今回の田端さんは理解のある顧客だったので、費用の話などもスムーズでした。




