4.お人好しは損をする
私は人から頼まれると断れない性格だ。「何でもホイホイ受けるんじゃない!」と怒られることもしばしばで、二進も三進もいかなくなり先輩方に迷惑をかけている。そして、今回もホイホイと受けてしまったことで、自分の首を絞めていたのであった。
「リチウムイオン電池…えっと機器と同梱の場合は…組電池?単電池?ワット数?含有量?」
社内資料のリチウムイオン電池の欄を目を皿のようにして読む。何でこんな専門的な知識が必要なの~?私が就職したのは物流会社なんですけど~。
この仕事をしているとままあることだが、担当の会社の製品に詳しくなる。ナンジャコリャ?というような初めて聞く物を送ることは多い。だけどパソコンごときに、ここまで専門的な知識が必要だなんて…
「春野さん…全然分からないんですが…」
「お客さんに聞くしかないわね」
「えっ…あの担当者がこんな詳しいことが分かると思えません…」
恐らく担当は旅行初心者だ。
「分からないなら調べてもらえるようにお願いするのよ。貨物の責任は~?」
「荷主にもある」
「そう。だから、そうならないように、こちらでケアしてあげなくちゃね」
しかし、電話すると案の定だった。
「え?それってどこに書いてあるんですか?」
「えっ…いや…どうなんでしょう…?誰か知ってそうな人はいませんか?」
社内資料に書いてあったことを少し改変して送った内容は、やはりお客…田端さんを困惑させていた。
「それって、絶対調べないとダメなんですか?」
「ダメ…なんです。リチウムイオン電池って発火することがあって…飛行機に乗せるのにリスクがありまして…」
すみません、私もさっき春野さんに教えてもらったばかりで、詳しいことは知りません。ごめんなさい田端さん。
弱ったなぁ~という声が聞こえる。そうですよね、すみません。
なんと言えばよいか分からなくて、私が春野さんにヘルプを送っていると「パソコンの型番か何かで調べられない?」というメモを出してきた。
「パソコンを売っているメーカーのホームページなどで調べられないでしょうか?型番があれば、該当の商品がわかると思います」
「分かりました。調べてみます」
そうして電話を切った。
「ありがとうございます~春野さん。さすがです~」
「良い担当者で良かったわね。お前のところで調べろ、って言ってくる人もいるから」
「そういう場合どうしたら良いんですか?」
「こちらの判断で載せることはできません。何かあったら御社の責任になりますので、って言うわね」
「さすが春野さん~」
「回答はメールでもらうのよ。なんかあって責任問題になったら、揉めないようにね。まぁそれもあって、こういう依頼はなるべく受けないんだけど」
こういうところまでちゃんとしているのが、春野さんである。
「出荷依頼はこれだけじゃないから、他の出荷もいつも通りね」
「あっ!そうだ!はい!」
他の出荷は、いつものお客さんがいつもの場所にいつもの物を送るだけなので、そこまで難しくない。…私がミスをしなければ。
「あっ、すみません、重量…はい。すみません、入力間違えました…」
「今確認したら書類に間違いがありまして…えっ、担当者がいないからすぐには修正できない?分かりました…あと三十分…いや一時間は待てます…早めにお願いします…」
入力をミスり、顧客からもらった書類の訂正をお願いしいてたら、気づくともう十六時。
「あぁっ!田端さんのパソコンの件どうなったかな」
その時、ちょうど田端さんからメールが来た。
「何これ…?」
パソコンの性能が掲載されているHPのURLを送ってきた。
「ここから探すの~?」
ページを開くと、色々な型番のパソコンが載っている。型番は教えてくれているので、探して確認するしかない。パソコンの出荷以外に、インボイスに間違いがあって訂正をお願いしている出荷もあるし、飛行機の便が決まっていない出荷もある。スムーズにいかないものばかりでこのままだと…
「定時超えちゃう~」
紅茶を淹れに行っていた春野さんがちょうど戻って来る。「あらあらァ」と言いながらチョコレートをくれた。
「チョコレートの代わりにちょうだい」
「えっ…何を…?」
「出荷のファイル」
「春野さん…!」
「今できるのはやっておいてあげるから、パソコンの出荷と、書類の訂正待ちとフライト待ちに集中して」
神々しい。女神だ。この時間は多くの人がピリピリとしているのに、この余裕。
「頑張ってね」
「はいっ!」
チョコレートを口に入れて、私はエンジンをかけた。




