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3.パソコンは面倒臭い

 旅慣れていないと飛行機に乗るまでにトラブルが頻発する。

 人間で言えば、フライトが希望通りにいかなくて頭を悩ませたり、パスポートの有効期限が切れそう!どうしよう!だとか、ビザの申請が間に合わない!なんて感じでトラブルが発生するからだ。

 そうすると当たり前に予定通りに到着するわけがない。貨物の場合は荷主に「この手続きしてますか?してない?!スケジュール通りは無理ですね…」みたいな会話が生まれるわけで、おまけに手続きのやり方が分からない荷主に説明したり、一緒に作業をしたりと仕事が発生する。

 つまり、スムーズにいかない。

 国際航空輸送は海外旅行と似ている。人が移動するのも物を移動させるのも、慣れている人には簡単だが、初心者にはハードルが高い。前任担当者がやっと旅慣れたと思ったら、後任が初心者、なんて事があっても仕方がない。

「そう、仕方がない…あぁ、足立さん、異動になってしまったのね。きっと昇進ね。おめでとうございます…。後任は田中さんかぁ…ご挨拶へ伺わないと…」

 担当者変更のメールを見ながら私は天を仰いだ。

 次の担当の田中さん、旅慣れているといいなぁ…

 望みは薄い。

 さて、お客さんの事はいい。私達は貨物のツアーコンダクター。貨物を送るのが仕事。あんまりにも頓珍漢だと困るけど、仕事なのだから、文句ばかり言うのは筋違いだ。



 やっとその日のフライトに載せる貨物の手配を終えた私が一息ついていると、新しい輸送依頼のメールが来た。

<フィリピンのマニラまでノートパソコン二台を送りたいのですが、お願いできますか。

タムラ製作所 製造部門 田端>

 私はこのメールを見てすぐに電話をかけた。タムラ製作所とは取引があるが、製造部門の人とは初めましてだったからだ。

「スワローエクスプレスの夢野です。この度はご依頼ありがとうございます。頂いたメールの詳細をお伺いしたく、お電話致しました。」

「タムラ製作の田端です。突然すみません、先日マニラに出張に行った社員がいるのですが、検査用の予備パソコン二台持って行き忘れてしまって。至急送って欲しいんです」

 なるほど、まぁそういうこともあるよね。貨物のサイズと重量とインボイスを送って下さいと言うと「インボイス?」と答えが返って来た。

「インボイスが必要なんですか?手荷物で持って行けるような、よくあるノートパソコンなんですが」

「それでも、貨物として輸出する以上必要なんです」

 輸出…?といまいちピンときていない担当者。

「出荷を担当している課の方がインボイスの雛形を持っていると思うので、似た様に作成して貰えますか?」

 田端さんに依頼し電話を切った後、情けなくも私はすぐに春野さんに相談した。詳細を話すと、春野さんは「あらァ、パソコン」と言った。

「案外パソコンは面倒よォ〜」

「えっ、そ、そうなんですか?!」

「そうなのよォ〜リチウムイオン電池が入っているから」

 リチウムイオン電池?聞いた事があるような…

「ノートパソコンとかスマホとかは、リチウムイオン電池が入っている機器なの。繰り返し充電できる電池よ」

「そ、そんなものありふれてますけど、面倒なんですか?」

 そうなのよォ〜と春野さんは言う。

「発火するとか聞いたことない?それが飛行機内で起こると危険だから、制限されているの」

 そう言うと、春野さんはパソコンでWikipediaの記事を出した。


UPS航空6便墜落事故(UPSこうくう6びんついらくじこ)とは、2010年9月3日 にアラブ首長国連邦・ドバイ発ドイツ・ケルン行きの貨物機で発生した機内火災により、全乗員2名が死亡した墜落事故である。

 ~中略~

GCAA(UAEの総合民間航空局)は2013年6月に最終調査報告書を発表し、81,000個以上のリチウムイオン二次電池とその他の可燃物を含んだ貨物パレットの内容物の発火点による火災が引き起こされたと指摘した。


「って事なのよ。他にもリチウムイオン電池の発火事故ってたくさんあるの」

 そう言えば、モバイルバッテリーが爆発したとかニュースで聞いた事がある。自分の乗っている飛行機内でそんな事があったら、怖すぎる。

「でも、パソコンって出張で持って行く事よくありますよね?」

 飛行機内でパソコンを使って仕事をしているサラリーマンが、私の頭に思い浮かんだ。

「機内持ち込みは多くの航空会社で大丈夫なの。貨物として送るとなるとねェ〜」

 発火しても機内持ち込みだったら、すぐ対処できるわよね、と春野さんは言った。確かに、パソコンが熱くなったりおかしくなっていたら、電源を切ったり対処が可能だ。

 でも、飛行機内に積まれた貨物は何か起きてもすぐに対処できない。

「預け入れ荷物は、係員に話をすればおおよそOKなの。預け入れる前に電源を切ったり、必要な処置をその場でやったことを確認できるから」

 でも、荷主の手を離れ、貨物スペースに入れられた貨物はそうはいかない。

「貨物は話せないですもんね…」

 こんなパソコンですよ!発火しないようにこんな対策をしていますよ!と自ら説明できない。だから事前に航空会社に安全性を伝える必要がある。

 理想は事前に荷主が調べて物流業者に全て教えてくれる事だが、一応物流業者である私だって知らなかったので、素人が調べてスラスラと答えてくれる可能性は低い。

 ましてやインボイスだとか輸出だとかにピンときていない担当者がそんなもの知るはずもなく。

「だからね、一応危険品だし、航空会社によっては受け入れてくれない物もあるのよ」

「き、危険品?!?」

 先輩達が苦労して輸出している物品だ。普通の物より専門性の高い分野で、私はまだ手配した事がない。

 私が顔を青くしていると「パソコンくらいなら大丈夫よォ。私も手伝うから」と言ってくれた。

 という事で、私はパソコンの手配をする事になった。

パソコンやスマホについては飛行機に乗るときに荷物検査で言われるので、ピンと来る方もいるかもしれませんね。

ちなみに、春野さんの説明は100%あっている自信はありません、すみません。

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