↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デリート・AI ~それは現代の歪みか、それとも古代からの怪異なのか~  作者: ノブサダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/6

第2話 噂

 ――やがて、杏が小さな声で話し始めた。

「……噂(うわさ)」

「噂?」

「私の……悪い噂」

 杏は震える声で続けた。

「私が友達の悪口を言ってたとか……人によって態度を変えてるとか……」

「そうなんだ……」

藍の表情が曇(くも)る。

「でも、それ、本当じゃないんだろ?」

と陽斗。

「……うん」

 杏は頷(うなず)く。

「でも、みんな信じたの」

「……」

「誰かが言って……それを誰かが聞いて……また別の人に話して……」

 言葉が詰まる。

「……気づいたら、私が悪者になってた。そのうち、インスタとかグループLINEにも私の悪口が書かれるようになって……。」


「誰かに相談した?」

藍が尋ねる。

「……AIに」

 陽斗と藍が顔を見合わせた。

「AI?」

「こんな話、親や友達には相談しづらくて……。以前から、悩み事とか色んなことをAIにときどき相談していたの。」

「そうなんだ……」

「それで……私が噂のことを相談したら……」

 しばらく黙ってから、杏はスマホを取り出し、画面に残っている文章を読み上げた。

「『それはあなたが友達に嫌われているからかもしれません。何か心当たりはありませんか?』って」

 陽斗と藍の表情が曇る。

「……それだけ?」

「うん」

「でも……」

 杏の声が震える。

「それから、ずっと考えるようになったの」

「何を?」

「私が本当に嫌われてるんじゃないかって」

 杏は俯(うつむ)きながら話をつづけた。

「教室に入ると、みんなが私を見てる気がして……」

「……」

「廊下を歩いてると、後ろから悪口が聞こえる気がして……」


「実際に誰かが言ってたの?」

藍が尋ねる。

「……最初は、いたと思う」

 杏は答える。

「でも、そのうち……誰もいないところでも聞こえるようになって」

「誰もいないのに……」

 杏の目から涙が零(こぼ)れた。

「『杏って最低』とか……『いい子ぶってる』とか……」

「……」

「何度も、何度も……」


「杏ちゃん」

藍が静かに言う。

「私たちがいるよ」

 杏が顔を上げる。

「一人じゃない」

「……藍ちゃん」

「陽斗くんもいるし」

「ああ」

 陽斗が頷(うなず)く。

「ありがとう。……でも」

「何?」

「私……どうしたらいいのか分からない」

「まず、大人に相談しよう」

「……先生?」

「うん。先生に話そう。それから家の人にも。」

「でも……」

「大丈夫」

 陽斗はできるだけ穏やかな声で言った。

「今まで一人で抱えてたんだろ?」

 杏は小さく頷く。

「だったら、もう一人で抱えなくていい」

 藍も頷いた。

「私たちも一緒に話すから」

「……本当に?」

「ああ」

「……迷惑じゃない?」

「そんなわけないだろ」

 陽斗は笑った。

「友達でしょ?」

と藍も続ける。

 杏はしばらく黙って陽斗と藍を見つめていた。

 そして――

「……うん」

 小さく頷いた。

「……ありがとう」

     ◇

 その後、杏は陽斗たちとともに、担任の紫(し)苑(おん)ゆかりに事情を話した。

「そうだったの……。ごめんね、気付いてあげられなくて。」

「……いえ、私が一人で抱え込んでいたのが悪かったんです。誰かに相談したかったけど、勇気が出なかった。」

「……でも、藍ちゃんと竜胆くんが話を聞いてくれた。自分は独りだと思っていたけど、手を差し伸べてくれる人はいる。二人がそう気付かせてくれたんです。」

「そっか……。よく話してくれたね。ありがとう。……それと、雨宮さんと竜胆くんも。」

「他の子たちには、私の方から話しておくわ。何気ない一言が、時に人を深く傷つけることがあるって。今回のことを、みんなにもよく考えてもらいましょう。」

「……はい。ありがとうございます。」

「もし、今後まだ続くようなら、またいつでも話しに来て。先生は、小野さんの味方だから。」

紫苑先生は、そう言って優しく微笑んだ。

「分かりました。ありがとうございます。」

杏は頭を下げる。陽斗たちも一緒に頭を下げた。


「あ、よかったら紅茶でも飲む?オレンジペコー。最近お気に入りなの。」

「いいんですか?……じゃあ、お願いします。」

杏は少し笑顔になった。

オレンジペコーの柔らかな香りがあたりに漂う。温かさと控えめな甘さが、杏たちを優しく包んだ。

     ◇

その後、職員室を出た三人は、靴箱の方へと歩いて行く。

「……二人とも、本当にありがとう。二人がいなければ、私、どうなっていたか……。」杏は、少し落ち着いた様子で話した。

「これからは、いつでも私たちに相談してね。」

「そうそう。俺たちでよければ力になるよ。」

「うん。……嬉しい。頼りにしてるね。」

杏ははにかんで笑った。

「お家の人にも話すの?」藍が尋ねると、

「……うん。心配かけたくなかったから今まで親には言わなかったけど。……でも、言わずに抱え込んでいる方が、余計に心配かけちゃうかもって思ったから。」

「……そっか。うん、それがいいと私も思う。」

藍はそう言って微笑(ほほえ)んだ。

「じゃ、私、こっちだから」

杏はそう言って、陽斗たちが帰る方向とは逆の方向を指さした。

「ああ。じゃあ……気を付けて」

陽斗は右手を挙げた。

「また明日ね。」

藍も手を振る。

「うん。ありがとう。」

杏は軽くお辞儀(じぎ)をして去っていった。


 ――事件はまだ解決したわけではない。

 杏の心の傷が、一日でなくなるわけでもない。

 それでも――。

 少なくとも、彼女は独りではなくなった。

     ◇

 杏と別れた後。

「……大丈夫かな、杏ちゃん」

 藍が呟(つぶや)く。

「きっと大丈夫だよ」

「そうかな……」

「ああ。先生も動いてくれるだろうし」

「……そうね」

「それにしても、危ないところだったな。あのとき、藍が校舎の方を振り向かなかったら……」

「ううん。陽斗くんが窓際にいた杏ちゃんを見て、様子が変だから見に行こうって言ってくれたから。」

「まあ、なんにせよ、助けられてよかった。」

「そうね」

 二人で話しながら校庭を歩いていた――その時。

 藍が突然、足を止める。


「……?」

 そして、後ろを振り返る。

「どうした?」

 陽斗も振り返る。

 誰もいない。

「……今、誰かの声が聞こえた気がして」

「声?」

「うん」

「何て?」

「……分からない」

 藍はしばらく後ろを見つめていた。

「でも……誰かが呼んだような気がした」

 陽斗は首を傾(かし)げる。

「俺には聞こえなかったけどな」

「……そう」

「気のせいじゃない?」

「……そうかも」

「帰ろっか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。