07
またすぐに来る、と約束して、レオンは帰っていった。小さな約束ひとつで、リーリエの心には常に灯りがともっているようだった。
僅かな変化は、日常にも現れた。
たとえば、祈りのとき。家族との別離の苦しみが永く癒えない謁見者とリーリエは向かい合っていた。今までならば話を聞いた後、「神の下に帰ることは、決して悲しいことではありません」と告げていただろう。けれど、目の前で泣く謁見者に、リーリエはどうしてもそう言えなかった。
「貴方の苦しみが、どうか安らぎますように」
リーリエは説法の代わりにただ、手を組んで祈った。そんなリーリエをぽかんと見つめたあと、謁見者は戸惑いを漏らす。
「それだけですか? もっと、魂とかのお話をされるのかと思っていました」
「死者は神の下に居り、苦しみのない楽園で暮らしています。……けれど、貴方が苦しいのは、また別の事実のように思って……」
リーリエは一度、目を閉じた。自らの言葉を頭でもう一度整理しながら話す。
「神の教えは、この世の絶対の真理です。貴方の大切な方は、安らかに過ごされています」
「けれど、それで貴方が寂しくなくなるわけでは、無いでしょう?」
リーリエは静かに告げると、目を開く。謁見者は、目を見開いてリーリエを見つめていた。その瞳に、じわりと涙の膜が張る。
「……っ、はい。寂しいです……、寂しくて、たまらない。会いたい、安らかでいて欲しいけど、なにより、会いたくて仕方ないんです……っ!」
リーリエは、そっと彼女の肩に手を添えた。
「それで、いいのです。寂しい気持ちを、無理に抑えなくていい。……貴方の悲しみに寄り添うために、私はいるのです」
泣き崩れた謁見者の背を、リーリエは時間いっぱいまで摩り続けていた。
謁見終わりは、今までにない疲労感とどこか充足感のようなものがあった。とはいえ、その後もいつも通り予定は詰まっている。聖書を朗読し、人々のために祈り、そして食堂で夕餉を取った。
全てが終わる頃には、日はすっかり暮れていた。簡易的な衣服に着替えると、リーリエはそのままベッドに沈んだ。
頭に浮かぶのは、昼間のことだ。謁見の終わり、彼女は何度もリーリエの手を握り、「ありがとう」と言っていた。聖女になってから、何度も聞いた言葉なのに、耳の奥にその声がこだましている。
リーリエは瞼を閉じて、彼女の安寧を願って手を合わせる。
そのまま意識が落ちようとした時、コンコンコン、と扉が鳴った。
「リーリエ。少し、話があるんだが、いいかな」
セドリックの声だった。しかし、どこかその声は固い。リーリエは体を起こし、扉を開けた。




