06
翌週、レオンは前回とまるで変わらぬ様子でリーリエの前に現れた。
「よっ、久しぶり。……うん? なんか萎れて無いか?」
相変わらず、仕立てのいい洒落たスーツを身に着け、ソファに深く腰掛けていた。しかし、リーリエの様子を見るや、立ち上がった。
「いえ、そんなことは──」
否定しようと開いたリーリエの口に、レオンが何かを押し込んだ。小さい、飴玉程度のなにか。
「なっ……! ……甘い……?」
飴ほどには固くない。歯を立てると、むにと沈んでそのままかみ切れた。口に広がるのは、ミルクのようなまろやかなコクと甘み。レオンは、いたずらっ子のような顔で、小さな銀色の包み紙を見せた。
「キャラメル。今日はこれにしたんだ、土産。疲れてんなら丁度いいな」
「前回、贈り物は、もうやめると……!」
リーリエはレオンの顔を思わず見つめた。レオンは片眉をあげ、おどけた素振りで手を広げた。
「いいや、そうは言ってないね。部屋に残るようなもんは控えるって言ったんだ。アンタが困るって言うから、今回はちゃあんと、今食べれるものにしたんだぜ」
「……そういう意味、だったのですか」
「ああ。もしかして、これも迷惑だったか?」
口内に、甘苦いキャラメルの味が残っていた。もう二度と、こうして菓子を口にすることもないと思っていた。キャラメルを食べたことが知れれば神官に怒られてしまう。セドリックも、いい顔はしないかもしれない。
でも。
リーリエの肩に入っていた力がふと抜けた。ずっとささくれ立っていた心に、キャラメルが溶け出して傷を塞いでいく。
「……いいえ。ここで、話しながら食べるだけならば」
答えた傍から、リーリエの内に僅かな後悔が湧いてきた。聖女らしくない。怒られる。でも、にっと嬉しそうに笑うレオンの顔を見ていると、どうしても、やっぱり無理ですという気にはなれなかった。
「やった」
「……また」
「ん?」
「またです。私はただ貰っているだけなのに、あなたは楽しそうにする」
リーリエが眉を寄せて呟くと、レオンが吐息で笑った。
「俺さ、人を喜ばせるのが好きなんだよ。贈り物もその一つだな。渡したとき、相手がどんな顔するか、なんていうか。俺はそれを見るのが好きなんだ」
レオンが、眉を寄せて笑った。あ、とリーリエは思う。またこの顔だ。レオンは、たまに笑うとき、こうして眉を寄せる。うさぎの飴を渡してくれた時もそうだった。レオンが本当に興味を惹かれたときに見せる些細な癖。
「だから、聖女サマが何を好きなのか分からないって聞いたとき、ちょっと興味が沸いたんだよ」
「私に、ですか?」
「なんか気になったんだよ。何聞いても、うんうん悩んだ末に、『分かりません』なんだから」
「……それで、いろいろと持ってきてくださったんですね」
うん、とうなずくレオンをリーリエはじっと眺めた。いつもいつも、リーリエに新しい世界を見せてくれる人。レオンは楽しそうにするけれど、リーリエの反応なんて、そう面白いものではなかったはずだとリーリエは思う。いつも戸惑うばかり。なのに、レオンはいろいろなものをリーリエにくれた。
「……私、見つけました」
「ん?」
「好きなもの。……あなたと、話すのが好き」
レオンは目を丸くした。その表情に、リーリエは今日初めて笑った。
「いつの間にか、あなたに変えられてしまったようです。なのに、嫌じゃないんです」
リーリエがはにかむと、レオンがぱちぱちと瞬きをした後、少年のように相好を崩した。




