↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳥籠聖女は海を知りたい  作者: 篠原まど


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/26

06

 翌週、レオンは前回とまるで変わらぬ様子でリーリエの前に現れた。


「よっ、久しぶり。……うん? なんか萎れて無いか?」

 

 相変わらず、仕立てのいい洒落たスーツを身に着け、ソファに深く腰掛けていた。しかし、リーリエの様子を見るや、立ち上がった。


「いえ、そんなことは──」


 否定しようと開いたリーリエの口に、レオンが何かを押し込んだ。小さい、飴玉程度のなにか。


「なっ……! ……甘い……?」


 飴ほどには固くない。歯を立てると、むにと沈んでそのままかみ切れた。口に広がるのは、ミルクのようなまろやかなコクと甘み。レオンは、いたずらっ子のような顔で、小さな銀色の包み紙を見せた。


「キャラメル。今日はこれにしたんだ、土産。疲れてんなら丁度いいな」


「前回、贈り物は、もうやめると……!」


 リーリエはレオンの顔を思わず見つめた。レオンは片眉をあげ、おどけた素振りで手を広げた。


「いいや、そうは言ってないね。部屋に残るようなもんは控えるって言ったんだ。アンタが困るって言うから、今回はちゃあんと、今食べれるものにしたんだぜ」


「……そういう意味、だったのですか」


「ああ。もしかして、これも迷惑だったか?」


 口内に、甘苦いキャラメルの味が残っていた。もう二度と、こうして菓子を口にすることもないと思っていた。キャラメルを食べたことが知れれば神官に怒られてしまう。セドリックも、いい顔はしないかもしれない。


  でも。


 リーリエの肩に入っていた力がふと抜けた。ずっとささくれ立っていた心に、キャラメルが溶け出して傷を塞いでいく。



「……いいえ。ここで、話しながら食べるだけならば」


 答えた傍から、リーリエの内に僅かな後悔が湧いてきた。聖女らしくない。怒られる。でも、にっと嬉しそうに笑うレオンの顔を見ていると、どうしても、やっぱり無理ですという気にはなれなかった。


「やった」


「……また」


「ん?」


「またです。私はただ貰っているだけなのに、あなたは楽しそうにする」


 リーリエが眉を寄せて呟くと、レオンが吐息で笑った。


「俺さ、人を喜ばせるのが好きなんだよ。贈り物もその一つだな。渡したとき、相手がどんな顔するか、なんていうか。俺はそれを見るのが好きなんだ」


 レオンが、眉を寄せて笑った。あ、とリーリエは思う。またこの顔だ。レオンは、たまに笑うとき、こうして眉を寄せる。うさぎの飴を渡してくれた時もそうだった。レオンが本当に興味を惹かれたときに見せる些細な癖。


「だから、聖女サマが何を好きなのか分からないって聞いたとき、ちょっと興味が沸いたんだよ」


「私に、ですか?」


「なんか気になったんだよ。何聞いても、うんうん悩んだ末に、『分かりません』なんだから」


「……それで、いろいろと持ってきてくださったんですね」


 うん、とうなずくレオンをリーリエはじっと眺めた。いつもいつも、リーリエに新しい世界を見せてくれる人。レオンは楽しそうにするけれど、リーリエの反応なんて、そう面白いものではなかったはずだとリーリエは思う。いつも戸惑うばかり。なのに、レオンはいろいろなものをリーリエにくれた。


「……私、見つけました」


「ん?」


「好きなもの。……あなたと、話すのが好き」


 レオンは目を丸くした。その表情に、リーリエは今日初めて笑った。


「いつの間にか、あなたに変えられてしまったようです。なのに、嫌じゃないんです」


 リーリエがはにかむと、レオンがぱちぱちと瞬きをした後、少年のように相好を崩した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。