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鳥籠聖女は海を知りたい  作者: 篠原まど


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「思えば、お兄さまは、ピピが死んでから変わりました」


 ラリアは、過去を思い出しながら、口を開いた。


「私、今になってようやく、お兄さまがどうして謝ったのかわかる気がするのです」


 対するセドリックはしばらく口を僅かに開けて、固まっていた。やがて、眉を顰めて、横を向く。


「そんな、昔の話を、今更持ち出そうとも……」


「聖女らしくあれ、というようになったのはいつからでしたか。少なくとも、あのころは仰らなかった」


 ラリアは畳み掛けた。神官長として過ごした分厚いセドリックの面に、僅かにヒビが入った気がした。


「お兄さま、私ももう、大人になったのです……! あの頃とは違います」


「大人……?」


 セドリックが、ぽつりと復唱した。


「そうです。だから、もうお兄さまに守っていただかなくとも……」


「はははっ!」


 セドリックは突然、笑いだした。目を細めて腹から声を出して、おかしくてたまらないというように笑った。


「……はは、おかしいね、リーリエ。僕が、あの可哀想な小鳥を思って君を守っていると思っているのかい」


 ラリアは思わず、一歩後ろに下がった。セドリックは確かに笑い声を上げている。それなのに、何故だろうか。それは慟哭に見えた。人が獣になる寸前の、最後の理性の叫びに。


 笑い声が止んだ。セドリックが、一歩踏み出して、ラリアに近づく。がしりと強い力で頬を掴まれ、顔が眼前に近づいた。


「君は、何も、分かっちゃいない」


 生暖かい息が顔にかかる。ラリアは体を捻って拘束から逃れようとするが、まるで振りほどけなかった。


「離してください……っ」


「何故?」


 セドリックは本当に理由が分からないと言ったように、首を傾げた。ラリアが泣きそうになっているのに、気にする素振りすら無い。


「君は神殿の、ひいては僕のものだ。だから、僕がしていることは間違っていない。そうだよ。謁見なんてさせたのが間違いだった。あの君に馴れ馴れしい男も、君が笑いかけた女も、もう二度と話さなくていい」


「それは……っ、聖女の務めと言ったでは無いですか……! 何故ですか、何故、私を認めてくださらないのですっ。こうまでして押さえつけるのですか!」


 ラリアが叫ぶと、かすかにセドリックが笑った。


「君に理解する必要は無い」


「お兄さま!!」


「……どうせ、逃げられない。いいんだよ、君は僕の言う通りにすれば、それだけで。今までだって、僕たちは上手くやってきたじゃないか」


 セドリックは、そういうと頬から手を離し、ラリアの腕を引いた。


「さあ、来なさい」


「嫌です、私の話を聞いてください……っ」


 ずる、ずるとラリアの体が引きずられていく。ラリアが踏ん張っても、体格差がそれを許さない。

 セドリックが、ドアノブに手をかけようとした。


「───随分、楽しそうに話してるな」


 その時、空間を切り裂くような低い声が聞こえた。二人が背後を振り返ると、満月を背に、男が窓枠に足をかけていた。


「レオン様っ!!」


 ラリアは、彼の名前を叫ぶ。レオンはその声に、にっと笑うと、部屋に降り立ち、ラリアを掴むセドリックの腕に手をかけた。


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