18
「死んだ……?」
信じられないような気持ちで、リーリエは繰り返した。セドリックの手のひらを再び見つめる。朝には、元気に鳴いて、鳥籠の中で羽ばたいていた。
リーリエは知っていた。もうとっくに、ピピが空を飛べるようになっていたことを。それなのに、なぜ。
「……僕の、せいです。聖女様。僕が、判断を誤ったのです」
セドリックが絞り出すように呟く。それを見て頷いてから、神官長が口を開いた。
「聖女様。あなたは聖女です」
「…………はい、そうです」
「聖女に必要なものは、なんでしょうか?」
神官長の声は冷たいが、まるで悪意が無かった。あくまで、聖職者の顔で、説法をする時のままに話す。
祈り。神へ捧げる心。清廉さ。聖女に必要なものはすぐに浮かぶが、では何故ピピが死ぬのかという疑問に結びつかない。答えられないリーリエを神官長の鋭い視線が貫く。
「しばらくの間、お二人の行動を容認したのは、今回の件がお二人の成長に繋がると思ったからです。度を越した行為が、どういった結果に繋がるのか、分かったでしょう」
「……殺生を、したのですか……? ピピを、そのために……?」
「これからの為です。しかし聖女様、あの小鳥を殺したのは、貴方でもあるのですよ」
窘めるような声に被せるように、セドリックが叫んだ。
「違います……っ! 世話をしようと言ったのは、僕です。聖女様は、僕に従っただけで、殺したのは、僕です」
神官長はじろりとセドリックを見たが、それ以上は何も言わなかった。しばらくの沈黙の後、やがて神官長はゆっくりと扉に向かって歩いていった。
「何が悪かったのか、今一度よく考えて反省するように。明日からは、一人の大人として、適切な行動を取りなさい」
それだけ言い残して、扉が重い音を立てて閉まる。二人きりになった途端、セドリックがその場に崩れ落ちた。
「お兄さま……!」
セドリックは震える手で、ピピを鳥籠に移す。二人で整えた、ふかふかの寝床に横たえる。
「ごめんね……。ごめんね、ピピ。ごめんね、リーリエ」
セドリックの瞳から、涙が溢れ出した。リーリエはセドリックに駆け寄った。しかし、どうすればいいのか分からない。おろおろと、セドリックの周りで立ち尽くしていると、セドリックは戸惑うリーリエの腰に手を回し、嗚咽を洩らしはじめた。
「お兄さま……。どうして、謝るのですか?」
セドリックはその声に、顔をあげる。リーリエの無垢な瞳をセドリックが見つめた。目を見開いて、じっと食い入るように。言葉を返そうと口を開いては、端から嗚咽が言葉を飲み込んでいくようだった。やがてセドリックはリーリエを抱きしめて、ただ首を振った。
「お兄さま……」
それから一晩中、セドリックはリーリエとピピに謝り続けた。




