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ピピ。それは、かつてラリアがリーリエだった頃、セドリックと二人で世話をしていた小鳥に与えた名前だった。
当時はまだリーリエは幼い少女で、セドリックは今のリーリエより少し若い程度だった。二人で神殿の庭を散歩していた時、たまたま、地面に落下した小鳥を見つけたのだ。
「お兄さま、あれはなんですか」
幼いリーリエがそう尋ねると、セドリックは手のひらでそっと小鳥を拾い上げた。
「これは、ムクドリかな。……羽を怪我しているみたいだ」
「痛いのですか」
「うん、そうだね。……助けてあげようか、リーリエ」
「はい、お兄さま」
それがきっかけで、リーリエとセドリックは、その小鳥をしばらく世話することになった。先代の神官長は厳しい人だったから、見つからないように、二人は部屋に小鳥を匿った。セドリックがどこからか鳥小屋を調達してきて、そこにふかふかの寝床をふたりで作ってやった。
思えば、その頃のセドリックは、まだ聖女らしさをリーリエに問うことは多くなく、どちらかと言えばいつも聖女としての役目に追われるリーリエを心配していた。当のリーリエに「辛い」という感覚が無かったものだから、その心配は杞憂でもあったけれど。
「せっかくだから、名前をつけよう」
保護して数日。そう言い出したのは、セドリックだった。その頃には、羽の怪我は治っていないものの、小鳥自体は随分と元気を取り戻していた。
「小鳥やムクドリ、ではいけませんか?」
リーリエはじっと小鳥を見つめて尋ねた。セドリックが僅かに顔を曇らせる。
「それでもいいけれど、せっかくだからさ。これからしばらく一緒に暮らすのに、呼ぶ名前も無いなんて……不便だろう。リーリエ、何かつけてごらんよ」
リーリエは困って黙り込んだ。名前、と言われても思いつかない。セドリックは色んなことをリーリエにさせたがったが、残念ながらリーリエには難しいことが多い。
「なんでもいいんだよ。浮かばなかったら、連想ゲームとかでもいいよ。この子らしいものを考えてみて」
そう言われても、リーリエには分からない。ただ、そのとき、小鳥が小さく羽を震わせ鳴いた。ピチチ、ピピ。リーリエはその音を拾った。
「ピピ……」
「ピピ? ピピか。いいじゃないか! 可愛らしくて、ピッタリだよ」
リーリエの言葉を聞いて、セドリックは嬉しそうに笑った。名前として認識した、と言うよりは鳴き声をそのまま口に出しただけだったが、セドリックが嬉しそうなので、リーリエはそれでいいと思って何も言わなかった。セドリックはリーリエの頭を優しく撫でたあと、小鳥に唇を寄せて、囁いた。
「今日から、お前はピピだよ。よろしくね」
ピピピ、チチ。小鳥は呑気に鳴いていた。




