15
謁見が終わった。部屋に戻り、夜風を入れるために窓を開けると、今夜は満月だった。
ラリアはしばらく月を眺めてから、椅子に座った。きっと、今夜はまだ眠れない。
暫くして部屋にノックが三回響いた時、ラリアは立ち上がって目を伏せた。
「来ると思っていました、お兄さま」
扉が開かれる。ラリアの予想通り、そこに立っていたのはセドリックだった。昼間の件を聞いてやってきたのだろう。表情が固い。
セドリックは足早にラリアの前に立ち、頬を包んだ。
「神官から聞いたよ。最近は、よくやっていると聞いていたのに、今日はおかしかったようだね」
セドリックの声は相変わらず優しく、小さい頃からラリアを慈しんできた声そのままだった。
「こないだと同じ謁見者だから、一貫性を保つことが難しかったかい。だから、少し間違えてしまったんだね?」
ラリアはしばらくセドリックを見つめていた。ラリアが頷くのを待っている。謝罪の言葉を待っている。
「いいえ」
しかしラリアは、ゆっくりと首を振った。
「お兄さま、間違えたのではありません。私は、正しいと思ったことをしたのです」
時が止まったかのように、二人とも何も言わなかった。僅かにセドリックの手に力が入って、それから、頬を包んでいた手がゆっくりと離れた。
「リーリエ!」
声には失望と苛立ちが込められていた。ラリアの体がぴくりと震える。それでも視線だけは逸らさず、真っ直ぐとセドリックを見続けた。
先に逸らしたのは、セドリックだった。眉を顰め、苦しげに息を吐き出す。
「なんなんだ、君は。今まで、二十年間、ずっといい子だったじゃないか。それが、最近の君はどうだ。まるで、人が変わったようだ」
「……そう見えるかもしれませんね」
ラリアは深呼吸をした。
「ずっと、あなた方の言うままに生きてきました。あなた方の望む通りの言葉を言って、教えられたように笑って、何もかも決められた通りにしてきた。けれど、私は、意志のない人形ではないのです」
セドリックが目を見開いた。見たことの無い生き物を見る目でラリアを見ているが、構わず続けた。
「今がおかしいのではありません。今までが、ずっとおかしかったのです……!」
いつの間にか、ラリアの息が上がっていた。レオンと話すようになって、浮かんでいた疑問を、セドリックにぶつけてしまった。
「…………何故」
セドリックがぽつりと呟いた。
「何故だ、リーリエ。僕は君を大事にしてきただろう? 君だって、ここでずっと暮らしてきたじゃないか。全てが不満だったなんてことはないだろう。それなのに急にこんなことを言うなんて────」
「お兄さまは、小鳥のピピを覚えていますか」
ラリアが静かに尋ねると、今度こそ空気が凍った。




