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ラリア、ラリア、ラリア。
呼び方ひとつ変わったところでと思っていたのに、ラリアは、気づけば名前を心の内で何度も唱えていた。名前をつぶやくと、それだけで、何故かレオンがそばに居るような心地がした。
毎日眠る度、ラリアはあの日のことを思い出した。
数日が経った。神官に許可をとってラリアは、紙を貰ってきた。ここしばらく、聖女としてよく務めていたからだろう。あっさりと許可が降りた。
部屋に戻り、机に向き直る。紙を取り出して、筆でラリアと書いた。
墨の乾くのを待ってから、そっと引き出しに仕舞った。その時、ころりと奥にしまった貝殻が転がってきて、ラリアはそれをそっと撫でた。
「……ふふ」
しばらくそうしていると、足音がこちらへ近づいてくる。はっと時計を見れば、もうすぐ謁見の時間だった。急いで引き出しを閉めたと同時に、扉が開く。
「リーリエ様、お時間です」
「……っはい!」
ラリアは急いで立ち上がり、神官について部屋を出た。
謁見にやってきた人を見て、ラリアは「あ」と声を漏らした。それは、以前家族を亡くして神殿を訪れた女性だった。あの時、ラリアは初めてラリアとして彼女に向き合った。あれから、しばらく。久々に見る彼女の顔は、以前より明るく見えた。
「こんにちは、また、来てしまいました」
「えぇ、またお会いできて嬉しいですよ」
ラリアは、聖女らしい微笑みを浮かべて答えた。ラリアでいれるのは、レオンと二人きりの時だけ。それ以外は聖女らしく振る舞うべきだ。
女性が嬉しそうに頷いて、それから話し始める。
「あれから、自分の悲しみを否定するのをやめたんです。聖女様が仰った通り、会えなくて寂しいのは、変えられない事実だから……」
未だに悲しみが癒えた訳では無いのだろう。ひと呼吸置いて、再び彼女は話し出した。
「初めは、ずっと悲しかった。寂しかった。でも、そんな時、リーリエ様の言葉を思い出しました。私の悲しみに寄り添ってくれる人がいる、ひとりじゃないって」
「……そう、ですね」
ラリアは頷いた。あの時セドリックは、聖女らしくないと叱った。でも、彼女はそんなラリアの言葉で救われたと笑う。
「それで、お礼を伝えに来たのと、またお話がきたくて、来てしまいました」
「…………」
何を言っていいのか、分からなかった。彼女は、聖女を求めているわけじゃない。けれど、聖女を逸脱した態度を取れば、神官がまたセドリックに告げ口をするかもしれない。
「聖女様? ……もしかして、迷惑でしたか?」
「いいえ! ……あの日から、貴方がどうされているか、気にしていました。だから、こうして顔を見せてくれて、うれしいです」
気づけばそう答えていた。
「聞かせてください。……貴方の話。苦しみでも、身の回りの小さな変化でも、話したいことであれば、なんでも構いません」
女性の話にラリアは真剣に耳を傾けた。説法を聞かせるためではなく、ただ、日常を分け合い、笑った。
聖女としては、間違っている。今のラリアは、人に救済を与える存在では無かった。分かっていても、止めなかった。
「……聖女様、沢山お話を聞いていただきありがとうございました。こんなに楽しい時間は久しぶりでした」
「ええ、こちらこそありがとうございます」
ラリアがそういうと、不思議そうに女性はラリアを見返した。
「え?」
驚いた顔でこちらをみる女性に、ラリアは優しく微笑みかける。
「私も楽しかったです。……よければ、また来てくださいね」




