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それからの日々が、特別変わった訳じゃなかった。朝は祈りを捧げ、聖書を読み、定められた時間に謁見をする。
神官たちはいつも通りリーリエに付き従い、彼女が何を話し、何をするのかを見守っている。リーリエは彼らが望む通りに聖女として振舞った。
「ありがとうございます」
「神の御加護がありますように」
穏やかに繰り返される祝詞はひとつひとつ誠実に。けれど私情は込めずに。神の使徒として生きるだけ。
ただ、心の内に約束がある。
それだけで、リーリエは満足だった。もしも約束が守られずとも、構わないとさえ思った。レオンが──自分を認めてくれる存在が、この世界にいる。リーリエというと空しくないと笑う人がいる。その事実が、リーリエに力をくれる。
以前のように振る舞うようになってから、あからさまに神官の目は優しくなった。
「リーリエ様、今日も食堂に参りませんか? リーリエ様のお気に入りの絵を見ながら昼食を食べましょう」
「ええ、ありがとうございます」
リーリエが食堂へ行けば、全ての人間がリーリエへ頭を垂れる。それに微笑みながら、食事を取る。塩味と素材の味だけの素朴な料理を会話も無く摂取した。
「先程の聖女様のお話、感動いたしました……!」
時にはこうして、聖女に話しかける使徒も居た。大抵は外から一時的に神殿に奉仕に来ている者だった。その日リーリエに話しかけたのは、刻まれた笑いジワが、穏やかな気質を伺わせる初老の婦人だった。
「ありがとうございます。けれど、神のご意志を代弁しているまでですよ」
「リーリエ様はお心から聖女様なのですね……」
「ええ。皆さまのおかげで、こうして祈れること、感謝しています」
リーリエが微笑むと、婦人はリーリエに向かって手を組んで祈るような仕草をした。
「あぁ、先代様を思い出します。こうして、先代聖女様ともお話させていただいたのです」
先代聖女。リーリエが産まれるのと殆ど同時に崩御したという。リーリエが実際に会ったことは無いが、肖像画であれば何度も見たことがあった。
「……似ているのですか? 先代様に」
「ええ。纏われる空気がそっくりです。聖女様というのは、こうも高貴で神聖で在られるのですね」
リーリエは微笑んで相槌を打った。心の内で、ふと疑問が沸く。先代様も、今の自分と同じような葛藤があったのだろうか。それを隠して、穏やかに笑っていたのだろうか。
「聖女様、どうぞこれからもこの国をお守りくださいませ」
手を合わせる婦人に優しく頷いた。
先代より、リーリエはよほど恵まれている。だってリーリエにはレオンが居る。たとえ自由が少なくとも。




