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契約社員ときぐるみ様~人外魔境に遭遇した時の対処法~  作者: 晩夏ノ空


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7/16

7 改造


「…なあこれ、ちょっといじって良いか?」

「え?」

「色はどうにもならないが、耳の位置と形状を少し修正すればかなり印象が変わると思うぞ」


 アラタはこう見えて、工作はわりと得意な方だ。落ちてしまった色を染め直すのは専門家に任せた方が良いと思うが、耳を改造するくらいならすぐできる。

 成実の目が、迷うように揺れた。


「修正…」

「気に入らなかったら元に戻すこともできるぞ」


 などと親切めかして口にしているが──実のところ、単にアラタがやりたいだけだ。


 この星の情報を収集した際に目に留まった、『猫』という生き物。野性味を感じさせる一方、ふわふわで、凛としていて、時に愉快で可愛らしくてあざとい見た目と所作。

 他星にも似たような生き物はいるが、この地球の猫は、何と言うか次元が違った。


 早い話、アラタは猫に一目惚れしたのである。


 そうして、地球に関する情報収集の一環と称して、実際の猫から猫をモチーフにしたキャラクターや古代遺物まで、ありとあらゆる猫関連の情報を収集し統合した結果、アラタは一つの結論に達した。

 ホモサピエンスは、猫に尽くす知的生命体である、と。


 ──全体から見れば大変に偏った認識だが、あながち間違いとも言い切れないあたり、何とも悩ましい話ではある。


 ともあれ、そう結論付けたアラタの頭の中には、既に『理想の猫像』が完成しており──今、目の前にある『猫の着ぐるみ』の形状は、悲しいかな、その理想像に全くかすりもしていなかった。

 特に耳の位置と形状が違う。これは猫ではない。修正して良いなら修正したい、今すぐに。擬態を得意とするヴェルデ族の誇りにかけても。


 …大分アレな思考になっているが、アラタは大真面目である。


「術とやらに支障があるならやめるが。どうする?」


 施されているという術の構造は、アラタには分からない。見た目を変えて機能が損なわれては本末転倒だ。とはいえ正直、ものすごく、改造はしたい。

 アラタが内心じりじりしながら待っていると、成実はゆっくりと頷いた。


「耳には何も機能を付けてないから、多少修正する分には問題ない」

「そうか!」


 持ち主の許可が出た。アラタはぱあっと笑顔を浮かべ、着ぐるみの頭頂部、耳と耳の間に右手を置く。

 直後、その右手がぬるりと変形し、半透明の緑色の軟体になって広がった。


「!?」

「え!?」


 成実と楓がギョッと目を見開く前で、アラタの手だったものは2つの耳パーツを覆い、頭部の上から3分の1程度を包み込む。


「あ、スマン。これがヴェルデ族の本来の色な」


 ぐにぐにと緑色の軟体を動かしながら、アラタは遅まきながら補足する。その間にも、耳パーツの状態をスキャンし、理想に近付けるために必要な加工を頭の中で組み立てていく。


(頭部との接合はウレタン系接着剤か。一旦重合を解除して……よしよし、イケるな。耳パーツ自体はポリエステルとナイロンの複合繊維、芯材は──何だこれ、何かの骨か? 元は角だったって話だし、深くは考えないでおくか…)


 詳細にスキャンした結果、触れてはいけないものに触れてしまった気もするが、そこはあくまで使える素材として割り切っておく。

 幸い、骨っぽい何かは頭部と一体化しているわけではなく刺さっていただけなので、引き抜いて位置を移動。生じた穴は周辺の布の繊維と詰め物を寄せて丁寧に埋めておく。


 取り外した耳パーツは少々小さすぎるので、一旦布の状態まで解いて端処理をやり直し、面積を確保するとともに形状を整える。

 このあたりの知識はこの星の情報を収集する時に覚えた。細かい操作は得意なので、針に通さないまま糸を操作するのも、繊維の密度を変えて布面積を変えるのもお手の物だ。

 理想の形になったら、良い位置に刺し直した骨っぽい何かに被せ、全体のバランスと形状を確認して微調整を入れ、最後にウレタン系接着剤を再重合させて、耳パーツを頭部本体にしっかりと接着する。


 この間、およそ5分。緑色の軟体の中で行われていた作業は、外側からでも薄っすら見えていた。


「良し、できたぞ」


 我ながらなかなか良い仕事ができた。アラタは満足しながら、右手をホモサピエンスと同じ見た目に戻す。

 元々の骨が刺さっていた位置の穴は上手く補修できたし、耳の形も位置もかなりそれらしくなった。初めてにしては上出来ではないか──そう思いつつ視線を巡らせ、はたと気付く。


「…お、おい?」

「…」


 成実と楓は、ぽかんと口を開けたまま固まっていた。

 いきなり部分的に擬態を解除したのは失敗だったかとアラタが後悔したのも束の間、


「す…」


 成実がぼそりと呟いた。ぷるぷると肩を震わせたかと思うと、アラタに向けてガバッと身を乗り出し、


「すごい! ちゃんと可愛くなった!」

「おう、そうだろ?」



 やっぱり前の状態は可愛くないと思ってたんだな──とは突っ込まない。アラタは賢明なのだ。









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