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契約社員ときぐるみ様~人外魔境に遭遇した時の対処法~  作者: 晩夏ノ空


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18 商店街の現地調査


 翌日、アラタたちは商店街にやって来た。地底ゴキの出入り口付近にホーシャ族の痕跡があるか確認するためだ。


 商店街のメインストリートから少し離れた裏通り、そこから入れる通路──というより、ビルとビルの隙間と表現した方が正確だろうか。昨日出向いた住宅街の中の道より狭い上、両側が古びたビルの壁なので、真昼間でも薄暗く、圧迫感がある。

 恒星の光を好むヴェルデ族のアラタにとっては非常に居心地が悪い。内心うへぇと呻きながら、成実が示した場所の近くにしゃがみ込む。


「あー…なるほど、これか」


 通路の端に、側溝の蓋の穴のような細長い穴があった。


 幅は3センチ、長さは40センチほど。縁は金属の枠で囲われ補強されていて、一見すると雨水を流すただの排水口のようにも見える。だが覗き込むと真っ暗で、奥は見通せない。


「…都市開発で埋めたりしないのか?」


 わざわざ金属の枠が()まっているあたり、塞がらないようにしているのは明らかだ。事実、商店街の裏だというのに、この通路にはゴミ一つ落ちていない。うっかり穴が塞がらないようにしているのだろう。

 成実は眉を寄せ、緩く首を横に振った。


「ここを埋めると、別の場所に出入口を『作る』可能性があるから」


 地底ゴキは基本的に決まった場所から出てくるが、そのルートが使えなくなると地下を掘削できる特殊個体が現れ、新しいルートを開拓し始める。そして、それがどこに繋がるか予想がつかない。

 民家など、建物の中に繋がってしまったら混乱は必至。今ある出入口を保全し、出てきた地底ゴキに対処して回るのが一番平和かつ確実なのだ。


「イタチごっこってやつじゃないか?」

「否定はしない」

「相手の本拠が地下である以上、殲滅(せんめつ)も難しいですから」


 アラタの突っ込みに、成実は淡々と頷き、楓が補足する。繁殖力の高い生き物への対処は、得てしてそういうものである。


 気を取り直して、アラタは右手を路面につけた。体内で生成した化学物質を拡散させると、スリット状の出入口とその周辺が、赤く染まった。


「…あった」

「そうだな」

「ありましたね」


 3人、顔を見合わせる。やはりホーシャ族の体組織と化した眷属は、ここに来ていたらしい。

 だが、手掛かりがあったのはそこまでだった。通路全体を調べてみても、地底ゴキの出入口付近しか痕跡が残されていない。


「こっちはハズレ?」

「そうとも言い切れないな。例えばホーシャ族に寄生された生き物が、この場で体組織を回収していたら、それ以降は痕跡が残らない」


 体組織、あるいはホーシャ族本体が地面を這っていたら痕跡を追えるが、この方法では宿主の動きまでは追跡できない。


「防犯カメラはないのか?」


 怪しい動きをする生き物の映像があれば、そう思って視線を巡らせるが、地面にもビル壁にも電柱にも、そんなものはなかった。

 成実がそっと目を逸らす。


「うっかり地底ゴキの映像が流出したら()()だから、そういうのは設置しないことにしてる」

「あー…」


 例の着ぐるみは木栗家の特殊な術によって『映らない』ようになっているらしいが、地底ゴキは普通に撮影できる。

 地底ゴキが映るだけならともかく、きぐるみ様の活動風景は、『巨大なゴキブリが突然動かなくなり、もがいている間に首が飛ぶ』という()になる。とてもではないが映像記録には残せないな、とアラタは心の底から納得した。


「見張りも夜間しか配置していませんし、昼間に動いていたら動向を掴みようがありませんね…」


 楓が周囲を見渡して溜息をつく。

 地底ゴキは地下生物で日の光に弱いため、地上に出てくるのは(もっぱ)ら夜間。よって、地底ゴキの出入口を見張るのは夜の間だけだ。

 楓は「怪しい者を見なかったか、担当者に確認しておきます」と言っているが、正直望み薄だろうとアラタは思う。何せ、何がどう怪しいのかは素人には分からないのだ。


 この場所は繁華街に近く、夜間なら酔っ払いがふらふらしていてもおかしくない。

 寄生宿主がホモサピエンスだったとして、そいつがしゃがみ込んで地面をいじっていても、酔っ払いが奇行に走っているくらいにしか思わないのではないか。見張りはあくまで、地底ゴキの動向を見ているのだから。


「──まあとにかく、ここで調べられるのはこれくらいだな」


 気分を切り替えてアラタが言うと、成実が頷いた。


「ん。次に行く」







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