11 宇宙人は初めてではないらしい。
アラタが肩を竦めると、成実は不思議そうな顔でまじまじとアラタを見上げた。
「やっぱり、変」
「何がだ」
「宇宙人なのに常識的だし、人間を襲わない。変」
「宇宙人は人間を襲うのが普通、みたいな言い方するんじゃありません」
「だって私が今まで会った奴らはそうだったから」
真顔で返されて、アラタは言葉に詰まる。マジかよ。
──いや、待て。
「今まで会った奴ら、って、そんなホイホイ会うもんなのか!?」
「突っ込める立場じゃないと思うけど」
「あ、ハイ。──じゃなくてだな」
確かにアラタも宇宙人だが、言いたいのはそういうことではなく。
ノリ突っ込みで応じると、成実は至極面倒臭そうに溜息をついた。
「大体半年に一回くらいは遭遇する。大体その場で処して終わるけど」
「処して…」
「話が通じないから」
処して、の意味するところはつまり──例の草刈り機が唸りを上げるとか、そういうことだろう。
昨夜、秒で首と胴体がオサラバした巨大ゴキブリの姿をアラタは鮮明に思い出す。あれは地球外生命体ではなく、一般には知られていない侵略型地下生物という話だったが、あの草刈り機は在来種だろうと外来種だろうと関係なく猛威を振るうと見た。
昨夜、宇宙人と見抜かれながら草刈り機の刃を突きつけられるだけで済んだ自分は、実はとんでもなく幸運だったのではないか。アラタは今更ながらそんなことを思う。
しかし、
「半年に一度…結構な頻度だな」
その『処されている』連中が同じ種族なのか別々の種族なのかは分からないが、小国の地方都市、それも『きぐるみ様』1個体の遭遇頻度と考えると、あまりにも多すぎる。きぐるみ様がそういう役割を負っているとしてもだ。
移住候補地としてはマイナスポイントが入る。アラタが分析していると、成実が首を横に振った。
「この街は昔から『そういうもの』が集まりやすいから、驚くほどのことじゃない」
「へ」
曰く、この元霧市は地形やら磁場やら何やらの関係で、『変なもの』が集まる傾向があるそうだ。地球在来のものから、地球外のものまで。
「そんなことってあるか…?」
「実際、あんたもここにいるし」
「う。それは確かに」
自分を実例として挙げられたら、納得するしかない。
実際のところ、日本国内に限っても、元霧市以外に調査候補地は複数あった。最終的にここに決めたのは何となく──アラタが自身の直感に従っただけだ。
その直感が何かに引っ張られていたのだとしても、何らおかしくはない。
宇宙人やら地下生物やら、ホモサピエンス以外の者がそこら辺にゴロゴロいると考えると、少々体表が落ち着かない──いや、鳥肌が立つが。
「ちなみにだが、今まで出会った『話の通じない宇宙人』ってのはどんな奴らだったんだ?」
「全身真っ黒のタールみたいなやつとか、紫色の紐の塊みたいなのとか、ザリガニを巨大化させたみたいなのとか」
「今までよく生きてたなオイ」
アラタの顔が引きつった。
その説明に該当するのは、いずれも好戦的・侵略的な種族である。歴史的背景もあって、ヴェルデ族の中でも「絶対に話し合いでは解決しない相手」として知られている。
そんなのと真正面からやり合って平然としているこの娘、いやきぐるみ様は、俺が考えているよりずっとヤバい存在なのかも知れない──アラタはそっと、心の中で危険度ランクを上方修正する。
「やっぱり危ない奴らだったんだ」
「驚かないのかよ」
「予想はしてたし」
やはりこの木栗成実というホモサピエンスは、少々おかしい。
地球の国々の中でも日本は平和ボケしていると言われているが、成実の落ち着きは、平和ボケとは少し違う。歴戦の兵のように常に身構えているわけでも、泰然自若としているわけでもない。もっと淡々として、透明で、掴みどころのない雰囲気がある。
(こういう奴の方が、怖いんだよな…)
アラタが内心で呻いていると、ブブッと機械の振動音が聞こえた。成実がポケットからスマホを取り出し、わずかに眉を顰める。何か、あまり嬉しくない連絡が来たらしい。
「宇宙人、ちょっと付き合って」
「うん?」
「昨日の現場。おかしなことになってる」




