第26話 欲深い王様
サガはブランを連れて、人気のない、村の片隅に移動すると、適当な岩に腰掛けた。
「それじゃあ、聞かせてもらえますか?何があったのか」
「ええ…私が王に仕える人間だということは、先程のガペルというお方が言っておりましたね。旅の方々だと仰っていましたが、つい先日の騒ぎについては、お聞きになっていらっしゃるでしょうか?」
「それは、王が…城を爆破?して、暴政を始めたっていう、アレですか?」
「その通りでございます。しかし、王は決してあんなお方ではないのです。民を第一に考え、未練ある死は死ではない。誰もが満足した人生を送って、未練無く本当の意味で死ねる国を作る、と、常に仰っていました。本当に、良い意味で欲深いお方なのです。しかし今の王は…」
「あちこちから物を強奪しだしたらしいですね。欲深さの方向が変わってしまった」
「…そう、ですね。それで、事の経緯でしたよね。少し話が逸れてしまいました。私は暴政を始めようとした王を説得しようとしたのですが、これまた様子のおかしい兵士たちに追い出されてしまい、ならばと、せめて被害を抑えるため、村々を回って忠告をしていたのです。そして、この村の方々に忠告を行ったところ、怒りをぶつけられてしまい、あのような状況に…しかし、仕方ないのです。理不尽な略奪が行われると聞いて、不安と怒りに駆られていたところへ、実際に王に仕える人間がやってきた。先の村の方々が特別冷静だっただけで、私を略奪の先駆けだと思うことも、私の言い分が護身の弁にしか聞こえないのも、当然のことです」
変わらずはっきりとした声色だったが、表情や言葉の節々からは苦い雰囲気が感じられた。
かける言葉が見つからず、重苦しい沈黙が流れた。
「…ところで、私に聞きたいことがあると仰っていましたよね?」
先に沈黙を破ったのはブランだった。ハッと思い出したようにサガが顔を上げる。
「あ、そうでした!その、さっきチラッと聞こえたんですけど、王様が手に入れた曰く付きの石について聞きたくて。それ、俺たちが探してるものでもあるかもしれないんです。詳しいことは言えないんですけど、放っておくと色々と面倒なことを引き起こすんです」
「なんと、それは…ええ、わかりました。貴方方を信頼してお教えしましょう。あれはつい最近、ある村の農夫が、畑に落ちていたのを見つけたものらしく、その地域の領主が、一目みたいとその農夫に言ったそうです。その宝石の美しさに領主は感動し、高値で買い取ると農夫に言ったのですが、農夫はそれを拒んだそうです。農夫の態度に腹を立てた領主は、農夫を捕らえようとしたのですが、農夫は尋常ならざる暴れ方をしたようで、領主と数名の兵士を道連れに亡くなったそうです。その後、その宝石は一人の兵士がくすねたらしいのですが、亡くなった領主の息子がその宝石をすぐに探しだしました。兵士が宝石を持っていることはすぐに発覚したのですが、宝石を取られそうになった兵士は、これまた大暴れしたそうで、最終的に、二人の兵士を道連れに亡くなったそうです。その後宝石は、その美しさが所有者を狂わせているのではと言う曰くが付き、亡くなった兵士の家に放置され、泥棒も入らなかったそうです。この話が王の耳に伝わると、王は面白がって、その宝石を持ってくるように仰いました。しかし、その宝石を取りに行った兵士が戻ってくると、彼は宝石を王に渡すことを拒みました。それだけではなく、王に向けて剣を抜き、取り押さえられました。目の前でそんなことが起きて尚、王は宝石を手に取りました。そしてその翌日こそが、王が城を爆破し、暴政を始めた日…三日前のことです」
ブランが一通り話し終えると、サガは頭を整理するため、深く息を吸って目を閉じた。
(農夫、領主、領主の兵士、王の兵士、王…宝石によって狂ったのは間違いない…神の残滓だとしたら、何か特定の感情か、欲望とかに影響を与えているはず…欲…手放すことを拒んだ…支配欲…支配…!)
「そうか、ロマヌスさんの…!」
支配の神ロマヌス。彼女もまた、あの時あの部屋に居た。近くの世界に落ちていても不思議ではない。
「!?その、何か思い当たることが?やはりあの宝石が?ロマヌス様?と言うのは…」
「あ、あぁすみません、それは一旦置いておいて貰えると嬉しいです…でも、王様が狂った原因がその宝石にあること、それと、その宝石が俺たちが探してるものであることは、ほぼ確定だと思います。ブランさん。俺たちを、王さまのところまで連れていってくれませんか?必ず宝石を回収して、王様を正気に戻します」
「そんな、私からお願いしたいくらいでございます。王を、どうか正気に戻してください。これ以上王に、あんなことをさせるわけには…いかないのですっ…!」
ブランはサガに跪き、助けを乞うた。
その思いに釣り合うように、サガも相応の覚悟をもって返事をする。
「ええ、もちろん。俺たちに任せてください」
「ありがとう、ございます…!このお礼は必ずや。ですがその前に、村の方々と今一度話さなければ。お仲間方が、村人方の方のお話を聞いて下さっているのですよね?」
「はい。むこうも、ぼちぼち話が聞けてきてる頃だと思いますし、戻ってみましょうか。そう言えば、俺たちの方はまだ自己紹介してませんでしたね。俺はサガ・ナールです。村人たちを制してくれたのは、ローグ・ジクスさん。俺と手当てをしていた女性の方は、ルアス・ファンナさん。みんな、名前の方で呼んでください。特にあのお二人が、堅苦しいのは嫌いなので」
「わかりました。サガ様、ローグ様、ルアス様、ですね。改めて、アーノルド・ブランです。お願いいたします」




