第25話 王ご乱心?
ルアスのワープというのは案外特別な感覚がない。
湖でのワープの、引っ張られるような、ぶん回されるような感覚を考えると、やはり彼女の空間操作の腕がいいということなのだろう。
そのことと、似たような景色の平原にワープしたこともあって、一瞬サガはちゃんとワープしたのか疑った。
「はいとうちゃーく」
一仕事終えたような感慨やらが全くなさそうな、あっさりした声で到着を告げる。
「毎度のことながらスッと行くよな、お前のワープは。ワープ特有の感覚が薄い」
「平原ですけど、周囲に村とかは…」
辺りを見回すと、後方に道を発見した。
道を目で辿ると、少し先に村っぽいものがあった。
「あ、あそこ。村じゃないですか?」
「え~遠いんですけど~。サガちゃんおぶって~」
「ローグさんに頼んでください」
「臭い」
「ひどい」
軽い返事の割にマトモにダメージを受けてそうな顔のローグを尻目に、サガはすたこら歩き出した。
村は遠目に見ていたよりも結構大きく、入り口には門番が二人立っていた。
「まあ、やっぱり門番居ますね。どうします?」
「どうって…ここはテンプレ的に、しがない旅人だ、でどうよ」
「思えば今の私たちって住所不定無職だよねー」
「いや、まあ、そうですけど…あ、またお金を稼がないと宿が」
「まあ、別に野宿でもいいだろ」
「贅沢は言ってらんないかぁ」
そんなことを話しつつ、一歩一歩村の入り口に進んでいく。
「失礼、旅のお方ですか?」
片方の門番が、一歩前に出て声をかけてくる。
「ええ、そうです」
「目的地などは?」
「道なりに、気ままに旅をしています」
「そうですか。でしたら、村を発つときは東の道から。北は王都のある方面ですが、今は王都には近づかない方がよろしい」
「王都に?どうして?」
ルアスがローグの後ろからひょっこり飛び出し、門番に質問する。
「ああ、まだ聞いていませんか。つい先日、王が乱心して、自分で城を爆破した後に暴政を始めたらしいんです。王都の周辺から次々と、様々なものが強奪されているそうで」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい?王が乱心で?強奪と?城を爆破って言いました?」
「えぇ…自分で城を爆破、その後瓦礫の山に玉座を置いて座ったと、届いた報告には…」
「…随分と、ワイルドというか、破天荒な王さまだな」
「まあそういう訳なので、王都からはしばらく反対方向に進んだ方が良いと思いますよ。この村ももう、いつその魔の手が来るか…」
「そうですか…忠告、ありがとうございます」
「えぇ。ではどうぞ、どうかゆっくりお過ごし下さい」
門番が道を開けてくれたので、村の中へ歩を進める。
少し歩いてみたが、まあなんてことのない、緑の多い豊かな村だった。
「王が乱心したとのことですけど、もしかして残滓の影響ですかね」
「まあ、あり得る話ではある。ただ、残滓と関係なかったら面倒事に巻き込まれることになる」
「漏れた魔力が、もう結構広がってきちゃってるのよねー。大まかな位置なら探りやすくなっていってるんだけど、逆に細かい位置ってのは探知しにくくなっていってるのよねー」
「これからも残滓がある世界を見つけたら、その後は自分らの足で残滓を探す必要があるワケだ」
「…すいません、ちょっと静かに」
「ん?」
急にサガが耳を澄ましだした。
ローグとルアスも静かにすると、遠くから喧騒のようなものが聞こえてきた。
方角的には、村の北側のようだ。
「…向こうが騒がしいな」
「行ってみる?」
「…何か事件かもしれません。見るだけ見に行ってみましょう」
声のする方向、北の門から少し逸れた村の一角に、何やら人だかりが出来ていた。
その先からは、上手く聞き取れないが、怒号のようなものが飛び交っている。
人と人の隙間から何とか先を覗くと、身なりの良い一人の男性が、村人たちに囲まれ、困り果てた表情をしていた。
何か問い詰められているようで、飛び交う様々な声の合間に何か喋ろうとするのだが、それすらすぐに遮られてしまっている。
「何とか言えよ!さっきから何か喋ったと思ったらわからないだの何だのよぉ!あんま舐めてんじゃねぇぞ!」
「あっ!」
一人の村人が発した一際大きい怒号に続いて、その村人が手に持っていた小さい木のバケツを、男の頭に投げつけた。
サガが慌てて足を踏み出したが、驚いて後退した村人たちに跳ね返されてしまう。
ちょうど留め具の部分が当たったのか、男は頭を抑えて、苦しそうにうずくまってしまった。
村人たちもそれを見て、流石に動揺してどよめいている。
「退いた退いた!道開けろ!」
ここぞとばかりにローグが人だかりに割り込んでいき、サガとルアスも後ろに張り付いて続く。
「大丈夫ですか?怪我は?」
「…っ、何とも、ありません…」
そうは言うが、額を押さえる手の隙間からは血が見えた。
「サガ、ルアス、手当てしてやれ。おいお前ら、これは一体どういう状況だ!」
突如現れた巨漢に、村人たちは困惑しているのか、畏縮しているのか、誰も返事を返さなかった。
「そこのお前!」
「な、なんだてめぇ!この村の人間じゃねぇだろ!」
さっきバケツを投げた男を指名する。
「そうだ、ただの旅人だ!文句あるか!」
「…俺らの問題だ!部外者が割って入るんじゃねぇ!」
「人が傷つけられてんだ、割って入るとか言う問題じゃねぇだろ!大体なんでこんなことになってる!事情を言え事情を!」
威圧感をここぞとばかりに発揮して、相手を畏縮させている。
バケツを投げた村人も負けじと声を張るが、勢いは弱まってきている。
「…ソイツは王サマの城の人間だ。お前ももう聞いてるだろ、王サマが略奪を始めたってよ。この村からも物を奪おうってんだ。その先駆けに来たんだろ!なぁ!律儀に税を納めてたら足元見やがって!お高くとまってるヤツらはよ!こうなっても当然だ!」
「ガペルさん!」
バケツを投げた村人───ガペルの横の婦人が、再びヒートアップしてきた彼を小声で諌める。
「…そうなのか?」
口論の裏で簡単な治療を受けた男は、ゆっくりと、しかし強かな声色で話し出す。
「私は…違います。この村にもまもなく徴収が行われるのは確かですが、私はその忠告を…今の王は明らかに狂っておられる。あのお方は、民を何よりも尊ぶお人でございます。きっと何か、原因があるはずなんです…そうだ、あの曰く付きの宝石…」
最後の一文で、サガたち三人の顔つきが変わる。
三人はサッと目配せをして、ローグが再び村人たちに話しかける。
「一旦俺らがコイツと、そっちの事情を両方聴く。話の続きはその後だ。良いな?」
「…チッ!」
ガペルは話を聞くといっているのに、舌打ちをして去ってしまった。
「…サガ、コイツの方頼めるか。俺とルアスは村人たちの話を聞く」
「わかりました。立てますか?えぇと…」
「ブランでございます。アーノルド・ブランです。先程は、見ず知らずの私に、ありがとうございます。謝礼は必ず」
「いえ、俺たちも一つ気になることがあったので。取りあえず向こうへ。話を聞かせてください」




