第24話 明日に乾杯
あれから四日が経った。
サガたちはルアスの復活を成し遂げたものの、別の時空へ飛ばされてしまったクラックとセリを助けるために、魔力を全て使ってしまった。
ひとまず町まで戻り、クラックとセリは役所へ異変解決の旨を報告するために別れ、その間、サガたちは魔力の回復に専念した。
またあのボロ部屋に、今度は三人で泊まることになるかと思ったが、クラックとセリがサガたちを異変解決の協力者だと役所に言って、二人が泊まっている宿の部屋を融通させてくれていた。
そして、今日にしてようやく魔力がそれなりに回復してきたので、明日あたりに出発しようという話になっていた。
丁度諸々の報告やら手続きが終わったクラックとセリにもこの事を伝えると、ならばと今夜、もう一度夕食を共にしようと言うことに決まった。
折角だし、奢るからちょっと良いとこにでも行こうか、いやいや申し訳ない、と言った会話もあって、結局あの、ミートパイが美味しい酒場に決まった。
そしてサガは今、そろそろ部屋を出ようかと、同室のローグと支度をしているところなのだが。
「なぁ、今日は良いだろ?折角の別れの宴だぜ?」
「今日はって、ローグさん前も飲んでたじゃないですか」
敢えて何とは言わずに聞いてくるローグに、サガはジトっとした目で返す。
「あー、そいやぁそうだったかな…?いやでもな?あれももう五、六日前だぜ?次飲めるのがいつかも分かんねえんだからさ、良いだろ!?な!?」
心底から懇願してくる様を見て、少し心が揺らいでくる。
「…俺の手持ちのお金の範囲内で、ですからね。言っときますけど、そう多くはないですからね」
「そう言ってくれると思ったぞサガ!」
「イッ…!?」
気持ちが上がったローグに、思い切り背中をぶっ叩かれる。
向こうは軽く肩でも叩いた気分なのだろうが、毎度結構痛い。
「そうと決まればそら出発だ!ほらほら、多分もう皆集まってるぜ?」
「誰かさんが飲酒の許可をしつこくねだったからでしょう」
さっき、時間にルーズなルアスも顔を出しに来ていたのもあり、遅れ気味っぽいのはそうなので、小言もそこそこに、集合場所である宿の前へ向かう。
ちなみにルアスは最初、別に同室でも、と言ってきたが、彼女はサガをおちょくるのを趣味の一つとしているので、丁重に断っておいた。
宿の外に出ると、やはりクラック、セリ、ルアスの三人はもう既に居て、セリとルアスはなにやら仲良く話していた。
ルアスも目立たない服に着替えていたが、その美貌と髪色はかなり目を惹く。
「ごめん、遅くなった」
「女を待たせるなんて、いけないんだー。ねえセリちゃん?」
「え、あの、私もホントにたった今来たので、待ってはない、です」
「はー良い子すぎ可愛い~♡」
知らない間に随分仲良くなったらしい。完全に妹レベルの可愛がりを受けている。本人はかなり恥ずかしそうにしているが。
「皆揃ったし、そろそろ行こうか。結構報酬を弾んでくれたからね、食べたいだけ食べてくれ。僕も久々に食い溜めちゃうかな」
「セリちゃんは何食べたい?」
「え、え~と…やっぱりミートパイ、美味しかったので、また食べたいです」
「確かにアレは旨かったな。香りだけでも酒が進むってもんよ」
「あ、何、飲むの!?ずるい私も!」
こんな調子で雑談を続けながら歩いていると、町の反対側の酒場まであっという間だった。
酒場は相変わらずの盛況だったものの、運良く大テーブルが一個空いていた。
オーラが違う大男に美人、それに青年が二人と巫女の少女が一人というメンツに、家族じゃないよな、冒険家パーティか、と店内では密かに注目が集まった。
席について早々に、ミートパイを十切れも、それに加えて各々好きなものをひとしきり頼んだ。
大皿に乗った八等分のミートパイ丸ごとと、小皿に分けられたあと二切れのミートパイがまず運ばれると、香ばしい香りにますます食欲がわいてくる。
みんな頼んだ豆のスープ、男性陣が頼んだ腸詰め肉に、女性陣が頼んだきのこ串、大皿料理の、鳥っぽい何かの燻製が次々運ばれ、机がいっぱいになる。
「よっしゃ、料理全部揃ったな。やっぱ提供早いぜここ」
「はいはーい!私乾杯の音頭とりたーい!」
ルアスが乾杯を言う役に立候補する。というかもうやる体勢になっている。
「えー、なんか良い感じの音頭取れるのかお前」
「不安でしかないんですけど」
「まあまあ座して聞きなさい。えー、コホン。私復活と、それぞれの明日への祝福を込めて、かんぱーい!」
『乾杯!』
「どうさ今の!」
ドヤ顔でローグを見るが、お構いなしにエールをゴクゴクと飲んでいる。
「ん?ああ、最初以外は良かったんじゃね?店主、エールもう一杯!」
「そこが一番大事でしょうが!ったく…っぷは!店主さん!私ももう一杯!」
「明日、と言えば、二人は今後どうするんだ?」
「あぁ、それならね。僕とセリさんが迷い込んだ、あの湖の下の巨大鍾乳洞があるだろ。この辺に滞在して、あそこの探検を進めようと思うんだ」
「あの得体の知れない幽霊どもが居ると知って尚、か」
「それに見合う価値があるんだ、あそこには。地脈の合流地点だと言うのはチラッと話したよね。それほど魔力が濃い場所なら、ローグさんの復活に使ったあの鉱石、あれが大量に眠っているのは確実だ。それに、あの幽霊についても、何故あんなところに、と言うのは、一つ仮説がある。それもまた、あそこが特に大きい地脈の合流地点だからだと、僕は考えてる」
「あぁ、確かにそれは多いにあり得るな」
ローグの言葉にルアスとセリがうなずく。
サガだけピンと来ていないようだ。
「えぇと、つまり…?」
「あ、えっと、実は昔からある説の一つなんです。肉体を抜け出した、実体を持たない魂は、地脈の流れに吸い込まれやすく、よって地脈の合流地点というのは幽霊が現れやすい。実際に差があるかと言えば、無くもないと言う程度なんですが」
「霊と魔力の親和性ってのは大抵高いんだ。一応覚えとけ」
「そうだったんですか。それで、セリさんは今後、何を?」
「実は、私もクラックさんと一緒に、あそこの探検をすることに決めたんです。でもその前に、一度神社に帰らないといけなくて。御札もあと六枚しか無いし、向こうでクラックさんから依頼を受ける形で同行することになってるので」
「セリちゃんセリちゃん、サガに聞きたいこと、あったんじゃないの?」
「あ、そうでした!」
「え、俺に?」
「はい。あの、サガさんがつけてらっしゃるそのお守りなんですけど…それは、どこで?」
「これか?ここから南の方にある村の巫女のおばあさんに貰ったんだ。これが、どうかしたのか?」
「その…巫女のおばあさんのお名前って、わかりますか?」
「えっと、ミキさんって人だけど、どうかしたのか?」
「やっぱり、お師様!」
「お師様!?」
二人とも思わず大声を出してしまい、口を塞いで体を小さくする。
「その…ミキさんが、セリさんのお師匠様、ってことだよな?」
「はい。私たちをある程度まで育てた後、後任の人に引き継いで、どこかへ隠居されてしまって。お師様は占いと、御札やお守りの製作が上手で、効果バツグンなんです。そのお守りから、強力で懐かしい霊力を感じたので、まさかと思ったら…」
「会いに行ってみるのか?」
「会いに行きたい気持ちは、ありますけど…」
そこまで言って、悩ましそうにうつむいてしまう。
「何か問題があるのかい?」
「…優しい方でしたけど、気難しいところもあったので、折角の隠居生活の邪魔に思われないか心配で…」
確かに、少し気難しい感じだったな、とサガは思い返す。
「でも、多分追い返すようなことはしないと思うな。確かに、なんだかんだ優しそうな人だったし。それよりも、あそこまでは確かに、馬で丸二日かかるって話だったから、そっちの方が問題だな…」
「なんか、まるでサガさんは馬を使わずに来たみたいな言い方だけど、どうやって?」
「え?あー…その、走って、一日で...?」
超人に囲まれて、自分もまた超人と呼べる程度に成長して久しいために、完全に感覚が狂っていた。
「ハハ…そう…まあ、サガさんほどの能力なら…?」
「クラックさんが見たこと無い顔してます…」
ローグとルアスが噴き出す。見れば、いつの間にか二人とも三杯目に突入している。
ローグが燻製に手を伸ばし、一口で頬張る。
嬉しそうな唸り声を上げ、すかさずエールを流し込む。
「なかなか旨ぇなこの燻製!鳥っぽいが、筋肉質で少しクセがあるな。何の肉だ?」
「ダイオウカザリドリって言ってね。威嚇用の極彩色の羽を持った、人より大きい鳥なんだ。飛べないけどね。狂暴だけど、案外捕まえやすい上に数が多いんだ。そして結構美味しい」
「…ローグさん、まさか」
「…」
「それじゃあ、いよいよお別れかな。三人とも、頑張って」
翌日の早朝、町を少し離れた、人目の無い場所にて、サガたちはいよいよ旅立とうとし、クラックとセリも当然見送りに来ていた。
一番近い時空で発見した、神の残滓と思われる反応、まずはそこへ赴くこととなった。
「ああ、二人も頑張って。色々世話になったよ、ありがとう」
「いえいえ、私こそ、たくさんお世話になりました」
「絶対また会いに来るからね~!」
「次はこっちが奢ってやるよ。ホントは金持ちなんだぜ?」
「それじゃ、期待しておくよ。僕たちも、次までにまたあっと驚くような成長をきっとして待ってる」
「じゃ、転移行くよー。二人は一応離れた離れた」
「バイバイ!きっとまた!」
「ああ、またね、サガさん」
「またね、です!」
手を振るサガが、ローグが、ルアスが少し歪んでからフッと消えた。
「…ホント、不思議な人たちだったね」
「でも、とっても頼りになりました。私もきっと、もっと、あんな風に…」
とある世界の、ある大国。この国の王の城で今、なにやら騒ぎが起きていた。
「逃げろ!使用人もだ!とにかく外へ!」
「王ご乱心!王ご乱心!」
「なんで火薬なんぞって思ったら!なんで、なんだって…玉座の間を!」
城へ続くあらゆる道から、城に居た人々が駆け出してくる。人の波が収まった、そのほんの数分後───城の頂点、玉座の間が、派手に大爆発を起こした。
さらに数分後、瓦礫と土煙の中を行く人影が一つ。
立派な衣服に身を包み、冠を被った、威厳のある初老の男。
首からは、輝かしい白色の、大きな結晶がついたネックレスを吊り下げ、右手には玉座をむんずと掴んでいる。
瓦礫の山の中心に乱雑に玉座を置くと、男はその上にどっしりと座り込んだ。




