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カミニイタルモノガタリ  作者: Saga
神の残滓編 前編
22/28

第22話 頑張れ

 つい十数分前。


 クラックとセリの二人は、セリが聞いた鍾乳洞の声に従い、安全な道を選び、進み続けていた。


「セリさんのお陰でだいぶ順調に進めてるよ。やっぱりあるじゃないか。セリさんにしか出来ないこと、セリさんの自信になるもの」


「そう言ってもらえると、嬉しいです…けど、やっぱりここ、かなり深いところらしくて、出口はわからないそうですし、サガさんたちがお探しの方───ルアスさん、でしたっけ?それらしい気配も全く…地上の方に居るのでしょうか」


「だとしたら、二人が必ず見付けるよ。僕らも僕らで、もう少し頑張ってみよう」


「そうですね。あ、また分かれ道。聞いてみますね」


 セリはその場に正座して、祈祷のように手を組み、鍾乳洞全体の色々なものの声に耳を傾ける。


 フッと、訝しげな表情でセリが顔を上げた。


「なんだか、この辺りの土地、怯えてます。私たちにではなく、右の道の先。それも、何か超常的なものに…あの、もしかしたら」


「こんな場所にあり得る、超常的な何か…確かにもしかするかもだけど、行ってみるかい?」


「…クラックさんは、どうすべきだと思いますか…?」


「セリさんの思いに従うべきだと思うかな」


 クラックの返しに一瞬口を閉じ、迷った。


「私…行ってみたい、です。この先に待つのがルアスさんであれ、他の、もしかしたら危険な何かであれ、ここで引き返すなんてこと、したくないです…!」


「なら、行こう。止めはしないよ」


「ありがとうございます!」


 そうして踏み込んだ、分かれ道の片側。


 足場はデコボコで上が低い、ありがちな空間が続き、もう少し進むと開けてきた。


 異変は突然だった。


「!?クラックさん止まって!」


「っ!?」


 セリに手を引かれて止まったクラックの目前を、何か、黒いもやが通り抜けていった。


 慌てて周囲を照らし、見回してみるが、何も居ない。


「セリさん、今のは…?」


「今、すごく嫌な気配がして、慌てて止めたんですけど、あれにも似た、いやでもこんなところで、あり得ない…」


 震えた声の、答えにならない答えから、セリがかなり当惑しているのが見て取れた。


 クラックがセリの肩に手を置く。


 ハッと我に返り、顔を上げた彼女と真っ直ぐ目が合う。


「セリさん、ゆっくりと、深呼吸して」


 震えたまま、言われた通りにゆっくりと息を吸う───が、次の瞬間、すべて震えた吐息として吐いてしまう。


 セリの目線は、クラックの背後に移っている。


 一方クラックの目線も、セリの背後に向いていた。


 自然とお互いの距離が近づき、肩に置いていたクラックの手は、セリを強く抱き寄せる。


 セリもまた、拠り所を求めるように、無意識にクラックに強く抱きつく。


「そんな、ど、どう、して…こんな、ところに…」


「…初めて見たよ。あれが、そうなのかい…?」


 そう言う二人の声は、恐怖に揺らいでいる。


「そうです…でも、なんでこんな場所に…怨(・)霊(・)が…!」


 それ───怨霊は黒いもやを纏い、その姿は半透明で不確か。


 しかし黒い感情に染まったグジュグジュの顔が、強烈な印象と恐怖感を与えていた。


(なんでなんでなんで…!?逃げないと、取り憑かれる、呪い殺される!逃げないと、でも前も後ろも───でも逃げないと…逃げ、る…逃げ…)


 極限の恐怖の中で、セリの何かがポキリと折れた。


 怨霊がゆらゆらと、怨嗟の唸り声を上げながら近づいてくる。


 クラックに抱きついていたセリの手が、ゆっくりと離れる。


「クソっ、捕まったらマズいよなぁ~アレ!どうにか逃げないと───っ!?」


 セリの背後、クラックの正面の怨霊が突進してくる。


 クラックはセリを庇うようにしてしゃがむ。


 しかしセリは、むしろ自らクラックから離れた。


「セリさん!?」


 先程折れたセリの"何か"。それは決して、心ではなかった。


 怨霊が両手を伸ばしてセリを襲う───それよりも早く、ピシャリと、彼女の懐から取り出された御札が、怨霊の顔に貼り付けられた。


「─────!?─────!」


 淡く光る御札は怨霊の顔をジュウゥと焼き、怨霊は金切り声を上げ苦しむ。


 次いで向かってきたもう一体にも御札を貼り付け、動きを封じる。


 お祓い棒を苦しむ怨霊に翳す。


「謹解此呪(きんげしじゅ)、急急如律令!迷えし幽世の魂よ、此処は汝の在るべき地に非ず。清廉なる光の御元に速やかに帰るべし。退散せよ!」


 怨霊が光に包まれ、掠れた声を上げながら消滅していく。


 振り返り、まだ御札に苦しんでいるもう一体にも、近づいてお祓い棒を翳す。


「急急如律令。迷えし幽世の魂よ、此処は汝の在るべき地に非ず。清廉なる光の御元に速やかに帰るべし。退散せよ!」


 こちらも同じように、僅かな断末魔と共に消滅する。


「はあ、はあ、はっ…はぁ」


 すっかり呆けていたクラックが、膝をついて息を切らすセリに慌てて近寄る。


「セリさん!大丈夫かい!?今のは、祓ったのか…?」


「…逃げなきゃ、って、思って」


「…」


 クラックは静かに続く言葉を待つ。


「逃げなきゃ、取り憑かれて、逃げなきゃ、呪い殺されちゃうから、逃げなきゃ…逃げなきゃ、逃げなきゃ、って…私、そんな自分は…もう、嫌…!」


 また、二人の後ろに怨霊が現れる。


 次いで一体、さらにもう一体。


セリはゆっくりと、しかし力強く立ち上がる。その手はお祓い棒を強く握りしめている。


「クラックさんも、サガさんも、ローグさんも、こんな私を凄いって言ってくれた。でもやっぱり私は、守られて、逃げ腰で…変わりたい。変わる、変わるんだ!頑張れ私!きっとできる!」

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