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カミニイタルモノガタリ  作者: Saga
神の残滓編 前編
18/28

第18話 錯綜と開拓

 一方、サガとローグもまた、残滓により時空を超越していた。


「…湖の反対側辺りに飛んだようですけど、おかしいですよね」


「ああ、こんなだだっ広い花畑じゃなかった筈だ。あっちの森の木も見るからに若い。過去に飛んだらしいな」


 二人の足元には、蕾混じりの紫色の小さな花が広く生えていた。


「…あの、場所ならともかく、時間まで跳躍するのなら、残滓の回収なんて可能なんですか?」


 しゃがんで花をいじりながらそう言うサガの声は、先ほどまでより暗い。


「ハッキリ言って運頼みだな。残滓が落ちたのより先の時代に飛ばされるのを期待して、尚且つそこで見つけるっきゃない」


「ですよね───っ!?」


 腰を上げようとしたサガが、突如何かに引っ張られたかのように、物理法則を無視して飛ぶ。


「掴め!」


 咄嗟に差し出されたローグの手を掴むも、なんとローグごと引っ張られていく。


「マジかァァァ!?」




 激動のサガとローグとは逆に静かながら、同じく危機的状況であるクラックとセリは、一旦焦りが落ち着くのを待ちつつ、どうするべきかを考えていた。


「でもまあ…取れる選択肢は二つだね。待つか、動くか」


「お二人が、その、お探しの方を見つけられれば、私たちも戻れるんですよね…?」


「多分ね。時空に干渉できるとかなんとか言ってたし…信じられないけど、嘘とは思えない」


 セリの無言の同意が、そのままただの冷たい静寂へと繋がる。


 静寂は暫く続いたが、それに耐えかねたセリが声を出す。


「あ、あの…待つべき...なんでしょうか」


「…合理的に考えればね。身の安全が第一だし、冷たいことを言うけれど、ローグさんが言ってたように、僕らは巻き込まれた側だ」


 セリが膝に顔をうずくめ、先程よりも重い静寂がやってくる。


「…でも、合理性じゃ押さえられないものがある」


 セリがばっと顔を上げる。


「捨てられない矜持がある。無駄にはしたくない覚悟がある。人として、耐え難い情動がある。それらと合理性との折り合いを上手くつけていくのが、賢(・)い(・)生(・)き(・)方(・)ってヤツなんだろうけど、僕にはそれが必ずしも正(・)し(・)い(・)生(・)き(・)方(・)だとは思えない。セリさんも、このままにはしたくないだろう。あの決意を」


「それは、もちろんそうです…!けど…本当に、良いんですか?」


 セリはゆっくりと立ち上がり、遠慮がちにクラックを見つめる。


 それに対しクラックは、優しい、しかし頼もしい目力のある笑顔を浮かべる。


「もちろん。正直僕も、さっきから探検したくてうずうずしてたんだ」


 冗談めかした声色に、緊張していたセリの表情も、嬉しそうに、泣きそうに崩れる。


「クラックさん…ありがとうございます…!」


「どういたしまして。さて、それじゃ、足元に気を付けて。探検開始だ!…と、その前に」


 クラックはベルトの右のポーチを開き、ペンのような棒を一本取り出す。


 器用に片手でキャップを開くと、やはりペンのような、しかし筆のような、綿棒の先端のような部分が現れる。


「そちらは?なんだか先端が、不思議な質感と色をしてますけど…?」


「マルチステッキと同じく、僕特製の試作品『マーカー』だ。中の塗料と、油と、細かく砕いた鉱石の混合物が、この先端に染みだしてきて、こう、壁になぞると…」


 柔いペン先が岩壁で潰れ、薄い蛍光ブルーのインクが染みだし、湿った壁にも難なく付いた。


「一瞬光を消すよ。気を付けて」


 そう言ってマルチステッキの光が消されると、周囲が再び暗闇に包まれる。


 しかし、前方の一部、先程マーカーでなぞられた部分が、淡く光っている。


「すごい…どうなってるんですか、あれ?」


「本来は、ほんの少しの光にも反応してよく光る塗料って代物なんだけど、魔力に反応して淡く光る鉱石を混ぜてあってね。こういうエーテルが濃い場所なら、自前でもああして光るんだ。来た道を見失わないように、これで目印をつけていこう」


 マルチステッキを再点灯し、二人は洞窟の奥へと足を踏み出す。




 全身があちこちに引っ張られているような、揉みくちゃにされているような感覚を一瞬味わうと、またも風景が一変し、サガとローグは勢いそのまま岩壁───否、地面に激突した。


「ローグさ…どい、て…」


「イッテェ…ん!?悪い!無事かサガ!?」


「なんとか…お次は森の中、ですか」


「なあサガ…感じるか。近いぞ。スッゲェ近い」


「近いって何が…あ!確かに!俺でもわかります!」


 ローグに言われ感覚を鋭くしてみると、気配や魔力に鈍いサガでもわかる程に、空間のルアスの気配が濃くなっていた。


 「ラッキーだぞ!探せ探せ!なんかキラキラしてるヤツ探せ!」


 意気揚々とローグは歩き出すが、サガは地面にへたり込んだままで居る。


「どうしたサガ、腰でもやったか?ほれ」


 ローグが手を差し出すが、サガはそれを取ろうともせず、ローグの顔…の後ろを見つめている。


「…あの、後ろ」


「あ?後ろ?」


 怪訝な顔で振り返ると、濃い青色で、艶めかしい光沢を放つ…トサカがあった。


 少し目線を落とすと、鶏とスピノサウルスを足して二で割ったようなヤツと目があった。


「コクルゥアアァァ!!!」


「なんだコイツー!!!」


 それの咆哮を合図に死の追いかけっ子が始まる。


 それはサンバのように妙にケバい羽をバタバタさせ、狂ったように頭を揺らしながら、逃げる二人を追いかけ回す。


「何ですかあのサンバコカトリス!!!」


「知らん!生きて帰れたら図鑑で探せ!」


 異様な走り姿と鳴き声に追い立てられるように、とにかく必死に逃げ惑う。


 森を抜け、湖が眼前に見えるが、まだしつこく追ってくる。


「おい!湖に飛び込むぞ!水中までは来んだろう!」


「っ~仕方ない!」


 湖のギリギリで強く踏み込んで跳躍、自由落下のまま水中へダイブし、さらに深い方へ泳いでいく。


 サガが一瞬後ろを見ると、あいつが未練がましく湖畔に立っているのが見えたので、もう少し泳ぐ。


 刹那、視界の端に、何か輝くものが見え、水中ながら目を凝らしてみる。


 周囲の水とは一線を画す、吸い込まれそうな深い青色の、手の平大の結晶。


 驚き、つい息を吐いてしまい、まずいと思った頃には、水を飲んでパニック状態に陥っていた。


 息苦しさに踠き、焦りも上乗せされ、上下感覚を失う。ローグが慌てて向かってくるのが見えた気がしたが、全身が唐突に浮遊感に包まれ、視界が急速にぼやけていった。

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