第15話 再会はミートパイと共に
朝食を済ませた後、ローグも連れて日雇いの仕事に向かったサガ。
いつもどおり夕方ごろに仕事を終えると、二人は夕食に酒場へ向かった。
酒場は今日も盛況で、早くもカウンター席は埋まっていたので、空いていた四人席のテーブルに座った。
「ここ、夜の間限定で店主の奥さんのミートパイが食べられるんですよ。ローグさんも是非」
「へぇ、そりゃ魅力的だな。ところで酒は───」
「我慢してください」
最後まで言う前に止められ、露骨にしょんぼりした顔になる。
注文を取りに来た店主の妻に、ミートパイ四切れ、腸詰め肉二本、豆のスープ二つを頼み、届くのを待つ。
待っている最中、店の扉が開いたので、なんとなくそちらに目をやる。
すると入ってきたのは、見覚えのある探検家と巫女───クラックとセリだった。
他よりも目立つ姿なので、店内の注目を集め、セリは若干落ち着かない様子でいる。
二人は店内を見渡し、サガとローグの姿を発見すると、手を振りながら近寄っていく。
「どうも、サガさん、ローグさん」
「昨日ぶり、です」
「クラックさん、セリさん!昨日の今日で来てくれるなんて」
サガは立ち上がって二人を歓迎しつつ、空いている二席に着席を勧めた。
「僕らが取ってる宿屋と役場は、こことは逆の方だからさ。運良く早めに諸々が終わって、自由時間になったから来れたんだ」
「諸々って、俺が───」
「ローグさん、声落として」
デフォルトが大きめのローグの声は、騒がしいこの酒場の中でもかなり響くので、サガが声量を落とすようローグに注意する。
「おっと、そうだな…で、俺が引き起こしてた現象の報告とかを?」
「はい。すごく詳細に尋ねられたんですけど、クラックさんが上手いこと嘘でやり過ごしてくれて…」
そこで、サガとローグの注文の品を店主の妻が運んできた。
ミートパイの香ばしい香りが一同の鼻腔をくすぐると、クラックとセリのお腹から、グゥ~と音がなり、二人は少し恥ずかしげに目を逸らした。
「そう言えば夕食、まだなんだ。ここで食べようかな」
セリもこくりと頷いたので、サガが追加の注文を入れる。
「すいません、同じものを、この二人にも」
「あとエールを一杯!」
「あ、ちょっと!」
ローグの注文を取り消そうとするが、その前に店主の妻は去ってしまった。
「…ローグさん」
「隙を見せた方が悪いのさ」
ジトー、っとした目で見つめるサガに、ローグがドヤ顔で返す。
その様子をクラックは仄かに微笑んで、セリは苦笑するように眺めていた。
やがて二人の分の料理と、ローグの酒も届き、一同は食事を始める。
『いただきます』
クラックを除く三人は、そう言ってから食べ始める。
「二人の出身の世界にも、食前、食後の言葉の文化があるのか」
豆のスープを食べながらそう聞いてくるクラックに、サガは訝しげな顔になる。
「ここでは、そう言うのは東方…セリさんの出身の地域で主に信仰されている宗教の文化なんだ」
「この巫女と言う役職とか、神社とか、あの時使った御札とかも、全部伝統のものなんです」
「そうなのか。でも、俺がああしてるのは別に、そう言う文化の中で育ったとかじゃなくて、育てて貰った人からそうするよう教わってきたから、そうしてるんだ。俺たちは命を頂いて生きているから、毎食それに感謝をするべきなんだ、って」
二年と少し前までの、原点とはまた別の世界での日々を思い返しつつ、サガはそう返した。
「俺は、ある時その文化に出会って、その精神に感銘を受けたから、ってところかね」
エールを呷りつつ、ローグはそう言う。
「そうだったのか。僕は北の出身だし、そもそも無宗教だからね…と、雑談も良いけど、伝えたいことがあったんだった」
「あ、そうでした」
「伝えたいこと?」
サガはミートパイに伸ばしていた手を止め、二人の方を見る。
「役場の中で、ある部屋の前を通りすぎたときに、うっすら聞こえてきたんです。ここから北西にある湖の辺りで、変なことが起きている、みたいな内容のことが」
「それは…」
「もしかするかもな」
「二日後には僕らも解放されてる筈だから、また訪ねるよ。そしたら、一緒にそこへ行ってみよう」
「うん。ありがとう、二人とも」
「お礼なんてとても…私なんて、これからお世話になる身ですから…いえ、精一杯、お世話にならないようには頑張ります!」
「そんなに張り切らなくても良いんだよ!ちょっと友達とキャンプでもするくらいの心持ちで良いんだ」
「それは…流石に良くないのでは」
四人の慎ましやかな、一つは豪快な笑い声が、夜の酒場の一角で響いた。
それから二日後の昼、サガのローグは宿を出て、町の反対側まで来ていた。
今度はクラックとセリの居る宿まで、二人の方が来ているのだ。
教えて貰った宿の場所まで向かうと、入り口の前で二人が出迎えてくれていた。
「お二人とも、ご足労を」
セリが駆け寄ってきて、ペコリと頭を下げる。
「一昨日ぶりだね。無事諸々の手続きも終わって、僕ら二人も自由の身…じゃないんだよね、これが」
「え?」
ゆったりとその後を歩いてきたクラックは、やれやれと言った顔でそう言った。
「また別の依頼を出されてしまってね。曰く…」
勿体付けるように、一呼吸置いてから、続きを話す。
「北西の湖の、いつの間にか別の場所へ飛ばされる異変…これを調査へよ、とね」
「別の場所に…!」
「飛ばされるとは…!」
サガとローグの顔が、驚きと期待で染め上がる。
「はい。私も多分、お探しの方かと思います」
「っしゃあ!ツイてるぜ俺ら!そしたら行くっきゃねえな、その湖とやら!」
「各々準備を整えて、明日の早朝、出発しよう!」
「おう!」
「ああ!」
「はい!」
三人の返事が、重なって響いた。




