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第14話 夜の小話

 それから少しして、サガとローグは路地裏を進み、宿周辺まで来ていたが、あと少しのところで壁にぶつかっていた。


 サガは部屋の窓から抜け出してきたのだが、その窓というのが、どうしたことか、開けたらすぐ壁なのだ。


 空いてるスペースは、人一人が横を向いてギリギリ通れるかと言う程度で、サガも出るのに苦労した。


 窓は開けたままにしているからそこはいい。しかし、巨体のローグはとてもそんな道は通れないのだ。


 道を通れたとしても、窓自体も小さめなので、どのみち部屋には入れないだろう。


「どうしましょうか…なまじこんなところから出てきちゃったばかりに、入り口からは戻れないし。夜の番を雇ってるんですよ、ここ」


「…サガ。一つ、試してみたいことがあるんだが」


「え?試したいこと、ですか?」


 サガが怪訝な顔でローグに聞き返す。


「もう一回あの形態になれるかをな。それができたら俺も通れるだろ?」


「えぇ?出来るんですか?魔力とか…」


「外側を固める魔力は肉体を再構築して作るからな。魔力の心配は要らないし、今回は妨害も無い。多分出来るさ。あ、でもなる早で運んでくれな」


「え、ちょっと───」


 言うが早いか、ローグの体が光の粒子へと変わり、拳大に収束していく。


 光が収まると、あの紫色の結晶───防御形態のローグが現れる。


 即断即決のローグに翻弄されて、やれやれと頭を掻きつつ、結晶を手にとって、狭い隙間に体を押し入れて進んでいく。


「何がどうしたらこんな風になるんだ…そもそもこの面に窓って俺の取った部屋にしかないし」


 少し愚痴をこぼしつつ、抜け出してきた窓の前まで戻ってくる。


 窓枠に右足をかけ、上半身から部屋に入れていくが、うっかり足を滑らしてしまった。


 サガの股を窓枠が襲う。せりあがるような鈍い痛みに声が漏れそうになるが、それはなんとか堪えた。


 しかしその姿勢で固まったまま、部屋の方に体が倒れていき、受け身も取れずドサッと床に落ちた。


 その弾みで手から結晶が離れ、少し転がって止まると、光を放ちながら人型に戻った。


「何やってんだよサガ、だらしねぇ」


「逃げ回って足が疲れてたんです…あとちょっと安静にさせて下さい」


 呆れた顔でそう言うローグに、床でうずくまって、股を押さえながら、絞り出すような声でサガが応える。


「まあ…その痛みの辛さは分かるぜ」


 ローグがサガに憐憫の眼差しを向けた。


「そんで、今こうしてあの形態になってみたわけだが、長時間は無理だなこりゃ。そもそも体を構成する魔力自体ギリギリなワケだしな」


「そうですか…するとやはり、他の方々も、かなり危険な状態…しかも復活に際して、毎度あんな大量の魔力が必要となると…」


「いや、そうでもないぞ。神の残滓たちは、外殻がヒビ割れて、力が溢れてこそいるが、元々の魔力量が半端じゃない。お前も良く分かってるはずだ」


 神々のとてつもないなんてものじゃない魔力量は、サガも生活の節々や模擬戦で感じ、戦いていた。


「俺の場合、あの妙な連中を追い払うのに力の殆どを使ったばっかりに、復活するのに、お前にあそこまで苦労させちまった。しかし、本来なら最低限、ヒビを軽く埋めてやる程度の魔力で復活可能なはずだ」


「それなら良かった。それに皆さんの復活が進んでいけば、もしまた残滓が消滅寸前になることがあっても、全員から魔力をかき集めればどうにかなるかもですし」


 痛みが治まってきたので立ち上がり、ベッドに腰掛けながらサガが言う。


「そうだな。だが何よりルアスだな。アイツがいなきゃ俺たちゃ詰みだからな。この世界のどっかに居ることを願うばかりだ。さて、疲れたろ。寝ようぜ」


「ベッド、一つしかありませんけど…」


「お前が使え。そもそも神は睡眠も要らないんだから」


「でも…」


「良いんだよ、今日一番頑張ったのも、一番疲れてるのもお前だ。こういう時の人からの厚意は大人しく受け取っとけ」


「…わかりました。じゃあ、お休みなさい」


「おう、お休み」


 ローグに見守られつつ、ベッドに寝転がり、布団を被り、目を閉じる。


 全身から疲労が抜けていくと同時に、沈んでいくような感覚になってくる。


 意識も同時に沈んでいき、すぐにサガは睡魔に負けた。




 翌朝、久々にスッキリとした気分でサガは目覚めると、響き渡るいびきの音を辿り、床で雑魚寝をしているローグを発見する。


「神は寝なくて良かったんじゃ…」


 大きくあくびをしながら伸びをすると、サガは起き上がり、ベッドを降りて、ローグの体を揺する。


「ローグさん、起きてください、朝ですよ」


「ん、んん~…」


 眠そうな、抜けた感じの声を出しつつ、ローグが目を開く。


「おっと、欲望に負けてちょっと寝ちまった…」


「まあ、ローグさんもお疲れだったでしょうし。取り敢えず朝ごはんにしましょう。ここを出ますよ」


「んじゃまたアレだな」


 ベッドを整え、サガがそう言うなり、ローグは結晶に変化した。


 サガは懐に結晶を入れて、部屋を出る。


 カウンターのところで立ち止まると、受付に話しかける。


「すいません、二人部屋って空いてますか?」


「二人部屋ですね。空いてますよ」


「予約したいんですが」


「では帳簿にお名前と、代金をお先に頂きます」


「はい」


 帳簿にサガとローグの名を書き、部屋の代金を支払って、部屋の鍵を受け取る。


 外に出ると、朝から町は活気づいていた。


 屋台の通りの向こう、町の色々な知らせが載ってる掲示板の辺りに人が集まっているのが見える。


 早くも破壊現象が解決したことが知らされているのだろうか。


 サガは一旦路地裏に入ると、懐から結晶を取り出し、ローグが人型に戻る。


「向こうの屋台で適当に何か買いましょう。あと、町の掲示板に人だかりが。ついでに見に行きましょう」


「おう」


 サガとローグは二人並んで、まずはパンを売ってる屋台に向けて歩き出した。

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