第13話 憧憬と克己
「それじゃあ、僕らは兵士さんたちに騒動の原因を消したと伝えてくるよ」
クラックとセリが立ち上がったが、サガは何やら悩んだ様子で手を額に当てて俯いていた。
「サガさん?どうしたんですか?」
「…解散ムードになって思い出したんだけど、俺、兵士の目を盗んで、忍び込んだんだよな…どうやって戻ろうかな…」
「それは…問題ですね、色々と…」
一同の間に沈黙が流れた。
「なあサガ、空は飛ばねぇのか?」
「それが、権の───力は失くした影響か飛べなくなっていて」
「そうか…じゃあ俺も飛べないんだろうな。だがそれは多分、力と共に時間で少しずつ回復するはずだ。しかし、そうなると確かにどうしたもんかな…今の魔力量じゃ、飛行や転移の魔法をわざわざ使うのは痛手すぎる」
「…サガさんの俊敏さなら、少し目を逸らせれば抜けられるだろう?僕が近くの兵士さんたちを上手いこと集めてみるよ」
しれっと出てきた、空を飛ぶ、という言葉はもう流して、クラックはそう提案した。
「ローグさん、動けそうですか?」
「おうよ、魔力は枯れ気味だが、体はそれなりに動くぜ」
そう言ってローグは、座った状態から上体を後ろに倒し、足を上に思い切り延ばし、その勢いで飛び起きて見せた。
「良さそうかな。じゃあ下山しよう」
そうして一行は下山を始めた。
ローグの残滓による破壊現象も治まり、上りよりも気は楽だったが、退散した黒装束たちの追撃を警戒し、気は引き締めていた。
「ところで、二人はどうしてこの山に?依頼、とか言ってたよな」
「ああ、この町の役場から、この山を中心に起きている破壊現象について調べてほしい、と依頼があってね。僕、見ての通り探検家なんだけど、自分で言うのもなんだけど、界隈じゃ若手の割に腕が立つって、それなりに名は知れててね。でも、ベテランに比べれば当然劣るし、信頼と実績も足りない。でも彼らに頼むとなると費用がかさむし、そもそもベテランは金で雇われることを嫌う人が多いんだ。で、雇われ仕事も引き受けてて、ベテランより安めで済んで、でも腕もそれなりにある僕に回ってきたわけ」
「探検家ねぇ、男なら一度は憧れるよなぁ。未知との遭遇、財宝発掘、これぞ浪漫ってヤツよな」
「そうそう、わかってくれるかいローグさん!僕は父が探検家でね、幼い頃から憧れて育ってきたんだ。母さんは反対してたけどね」
「危険な職業だし、心配するのも当然だよな。セリさんは?どういう経緯でこの山に?」
「あ、私は、えっと、依頼が来たのは、クラックさんみたいに私個人ではなく、私が勤めてる神社で、災いの元を静めるために、巫女を一人送ってほしいって。でもそこは、十年ほど前まではとっても優秀な巫女さんがいらっしゃって、依頼なんかはその方が殆ど受けていたんですけど、お年になられて隠居してしまって。それで、私自身そうだし、こう言っては悪いんですけど、一人を除いて、他の社の巫女の方たちに比べると、腕はあんまりな人だけが残ってしまって。それで、その優秀なお一人が別件で出払っているところへのこの依頼で、誰が受けるか、押し付け合いになってしまって。それで私、気が弱いばっかりに押し付けられてしまって…」
「そう言うことだったのか」
「じゃあこの旅で強くなって、そんなことはこれで最後にしようぜ!」
「…はい!私、頑張ります!」
「心意気や良し!」
「おっと、静かに。話し声がする」
和やかな空気から一転して、全員警戒して姿勢を低くして、静かに進み始めた。
話し声のする方に向かっていくと、クラックが持っていたようなランプの光が見えた。
「良かった、兵士さんだ。それじゃあ、予定通りに。二人は気付かれない程度に離れてついてきてくれ。チャンスは作るから、機を見て山から脱出を。おっとそうだ、また会うには、どこに行けば良い?」
「大通りの、屋台が出てる辺りを抜けた先の酒場か、その二つ隣にある宿屋に居る」
「分かった。それじゃあ、諸々の手続きに時間が掛かるかもだけど、また会おう」
「お二人とも、お元気で」
「二人も、今日は本当にありがとう」
「俺がここに居るのも二人のお陰だ。ありがとな」
クラックとセリは笑顔で頷いてから、兵士の方へ歩いていった。
その姿を発見した兵士が、二人に駆け寄る。しばらく何か話すと、兵士に促されて下山を始めた。
サガとローグは、その後方を、見失わない程度の距離を取ってついていく。
やがて山と外を隔てる柵が見えてくると、クラックとセリは出入り口から、兵士と共に出ていった。
するとクラックは、同行した兵士と門番に何か言うと、大きく息を吸って、声を張り上げてこう言った。
「近くの兵士さん!至急集まってください!災いの原因は取り除けましたが、何か良くないものが残っている可能性があります!確かめに行きたいので、何人かご同行願います!」
クラックの声を聞き付けた周囲の巡回兵が、彼のところへ集まってきた。
クラックが地図を開き、それに兵士たちの注目が向いたことを確かめると、出入り口から少し離れた柵の側に居たサガとローグは動き出す。
まずサガが、次にローグが柵を飛び越えて、音をたてずに着地し、サッと路地裏に駆け込んだ。
その様子を横目で見ていたセリが、こっそりとクラックをつついて知らせると、二人は兵士たちを引き連れて、何もない山中へ入っていった。




