第12話 結成
「神の…残滓」
サガは頭に馴染ませるように復唱した。
「それで、だ。サガよ」
ローグがより一層真剣な雰囲気となったのを感じて、サガも居住まいを正し、続く言葉を待った。
「お前はこれから、幾度も時空を越え、幾つもの世界で神の残滓を回収しなければならない。命の危機に陥ることも、辛い選択をしなければならない時もあるだろう。問おう、闇の神の弟子サガ・ナールよ。お前に覚悟はあるか」
ローグは神に相応しい威圧感を出しながら、低く厳しい声でサガに問いかけた。
もちろんです、そう応えたかったが、声が詰まってしまった。
静かに威圧し続けるローグから、つい目も逸らしてしまいそうだった。
しかし、それだけは絶対にしないように、サガは気張り続け、言い出せるまでに気持ちが落ち着くのを待った。
「…良し」
「…え?」
突如、ローグはそういって威圧を解いた。
「一瞬でも目を逸らさなかったな。それで上出来だ。下手に軽く返事を返されるよりもな。お前の強さはその真面目さと、ここ一番での忍耐力だ。傲ることがなければ、十分これからの旅路にもついていけるだろうさ」
「…はい!」
真っ直ぐにローグの目を見て、サガは答えた。
「良い返事だ!さて、そんじゃそろそろ良いかな。サガ、あの二人、呼んでやれ」
「わかりました…けど、多分色々聞かれますよ?どうするんです?」
「そこはまあ…ほら…上手いこと…な?」
「はぁ…」
上手いことぼかすか、或いは正直に説明するか、などと考えつつ、蚊帳の外になっていた二人に歩み寄っていく。
「えっと、一通り話し終わったから、取り敢えず二人ともこっちに」
「あ、ああ…その、色々聞きたいんだが、聞いて良いのか?」
「あそこのお方、なんかすごい気配がするような…」
結局、誤魔化したり騙したりはせずに、自分たちがどういう状況なのか話すことにした。
細かい部分や、神の世界がどうの、ローグは破壊の神でどうの、と言うのはややこしくなりそうなので省いた。
「えっと、つまり、二人は異世界の人で…」
「故郷が襲われて、サガさん以外は、さっきまでのローグさんみたくなって世界中に散っちゃって…」
「これから時空を越えて旅に出る…」
理解はしたけど飲み込めてない、と言った様子で、またも二人は唖然として固まってしまった。
「まあ…そうなるよな…」
神関連の情報は言わないで正解だったな、と、サガはどこか、原点を訪れたばかりの頃の自分と重ねつつ、しみじみ思っていた。
「すると、二人はもう別の時空に旅立つのか?」
「ん?あぁ…あ!」
クラックの何の気なしに問いかけで、サガは大問題に気付いた。
「ちょっとローグさん!時空を越えるって言っても、方法無いじゃないですか!?」
慌てるサガに対して、ローグは不敵なにやけ顔を浮かべていた。
「フッフッフ、サガよ。俺も当然そんなことには気付いているさ。あそこから吹き飛ばされる直前のこと、覚えてるか?」
「え?えぇと確か、いつも通り師匠の家に皆さん集まって…俺はローグさんとルアスさんに挟まれて寝落ちちゃって」
「そう!そこがポイントだ!」
「え?どこがです?」
サガを指差して言うローグに、サガは繋がりがわからずに聞き返した。
「吹き飛ばされる直前、俺はギリギリ、なにか来る!って察知してな。咄嗟に側にいたお前とルアスを庇ったわけよ。んでお前はここに居る」
「あ、そうか!それならもしかしたら!」
「そうだ!ルアスも多分この世界に落ちてる!しかもルアスは空間のか───」
「空間の干渉能力を持ってる!」
勢いで神と口にしかけたローグに、サガは咄嗟に言葉を被せて誤魔化した。
「つまり、お二人はまだ暫くこの世界に?」
「そう、なるな」
「そう、ですか…」
「セリさん?」
セリの様子がおかしくなったのに気付き、クラックが声をかけるが、セリは何だかソワソワした様子のままで居る。
「…あ、あの!お願いがあるんです!」
「お、おお、どうしたセリちゃん」
急に声量を上げたセリに、ローグまで少し驚かされていた。
セリ自身、思ったより大きい声が出ちゃった、と驚いているようだった。
「その…ご迷惑なのは重々承知なんですけど、私を連れていってくれませんか!」
『えぇ!?』
まさかのお願いに、一同が驚愕した。
「それは、その、どうして?」
「えっと、私、見ての通り巫女なんですけど、腕前は見習い同然で、それに臆病で、意気地無しだし、体力もなくて…ここの調査も、半ば押し付けられたようなもので…」
「つまり強くなりてぇ、ってことか?」
「そう…です。クラックさんも、多分サガさんもローグさんも、いっぱい冒険して、強くなってきたんだと思います。私はそういうのしたことないし、でも一人じゃとても…でも私、ずっとこんなままじゃ嫌。ちょっとでも度胸をつけたいから。だから、とっても身勝手なお願いだとは思うんですけど、私を同行させてほしいんです。別の世界まで、なんて言いません。この後行かれる、ルアスさん?のところまでで良いんです。どうか、お願いします」
セリはひとしきり話すと、勢い良く頭を下げて頼み込んだ。
「ローグさん…」
「サガ、お前はどうしたい。それに従おう」
「え?俺、ですか?」
決定権はローグにあるとサガは思っていたが、当のローグは、サガに経験を積ませたいのだろう、決定権を譲った。
「俺は…良いと思います。危ないときは俺がちゃんと守ればいい。それにセリさんの気持ちは痛いほどわかる。俺も、ずっと自分の弱さを痛感してるから。だからセリさん、もう少しの間、よろしく」
穏やかな笑みを浮かべ、サガはセリに手を差し出した。
顔を上げたセリは、まず感動、次に喜びの表情を浮かべ、サガと握手を交わした。
「ありがとうございます!こちらこそ、よろしくお願いします!」
その様子を、ローグは満足げに眺めていた。
すると今度は、クラックが急に立ち上がった。
「便乗するようで悪いんだけど…僕も連れていってくれないか?見ての通り、冒険家をしててね。こんな話、飛び付かずには居られないんだ。頼む」
「魔力の恩もあるし、もちろん。それに、人数が多い方が賑やかで安心するし。良いですよね、ローグさん?」
「さっき言った通りだ。お前が連れてくってんなら俺は何も言わねえ」
「良かった。じゃあクラックさんも、よろしく」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
サガは、クラックとも固く握手を交わした。




