第11話 神の残滓
「なっ───!?え、割れ、なん、で…?」
「…元々、少し割れてるように見えた。もしかしたら、それがさっきのでより広がったんじゃ…」
結晶の割れ目からは、絶え間なく内側の魔力が溢れ出ていた。
残りのエネルギーを全て閉じ込めて、難が過ぎるのを待つ───ゼルから聞いたことが、サガの脳裏をよぎる。
ならばそのエネルギーが溢れ出ている今の状態をそのままにしておいたら…末路は火を見るよりも明らかだ。
「そうだ、魔力!魔力を込めてあげれば…」
無理な話だ。悔しさからサガは奥歯を強く噛み締める。
「無い…さっき使った分を補ってなお余りあるだけの魔力なんて…大気中の魔力をかき集めて…ダメだ遅すぎる!」
焦るサガを急かすように、魔力は淡々と、無情に溢れ続ける。
何か打開策を思い付かねばと言う思いに反し、焦りと緊張で頭は回らない。
胸が苦しい。心音が喧しい。顔から血の気が引いていく。
「…無い、こともない、かもしれない。それだけの魔力」
「えっ!?」
クラックの言葉を受け、サガは驚いてバッと顔を上げる。
「虎の子なんだけど、やるよ、これ」
そう言ってクラックが、背負っていたバックのポケットの一つから取り出したのは、サガが手に持つ結晶に負けず劣らずの輝きを放つ、二つの鉱石だった。
半面には、何か魔方陣のような絵柄が彫られている。
「それは?」
「特殊な環境下で、大量の魔力を蓄えた石だ。表面に魔法の術式が刻んであって、所有者の意思一つでそれが発動するって代物だ。これには転移魔法の術式が…っといけない、悪い癖だ」
「良いのか?出会ってすぐの俺に、そんな貴重そうな物を…」
「君が居なければ僕らはとっくに死んでいた。それに、逃げるのに明らかに邪魔なんだから、僕らなんか置いていけば良かったのに、君はそうしなかった。十分、信頼に値する。セリさんも、構わないかな?」
「はい。私も、とっても感謝してます。拒否する理由なんか無いです」
「だそうだ。そう言えば名前を聞いてなかったな。僕らの名前は、流れで知ったっぽいけど、改めて。クラック・ベンタだ」
「私は、セリ・チルハです」
サガは深い感謝と感激で顔が歪みかけたが、押し込めて笑顔を浮かべる。
「俺はサガ。サガ・ナールだ」
クラックから二つの鉱石を受け取り、目線を落として、両手に持つ結晶と鉱石に目線を合わせる。
「どうだサガ、足りそうか?それに、魔力はどうやって渡すんだ?」
「ありがとう。魔力はこれだけあれば、多分。受け渡しも、俺がやれる」
サガの持つ二つ目の天性。
目覚めてから一度も使ってみていないため不安だが、祈る気持ちで発動する。
「こっちの魔力を、俺が吸収して、こっちに流す」
サガが右手に持つ鉱石から魔力が吸われていき、それに伴い、輝かしかった鉱石はただの石になっていく。
吸収された魔力はサガを通じて、左手に持つ結晶へ即座に流される。
溢れ出る魔力も、先程は頭が回らなかったが、可能な限り吸収して込め直している。
(頼む、足りてくれ…復活できてくれ…!)
鉱石から吸収した分の魔力が尽きた。
サガは自身のなけなしの魔力も流し込み始める。
微々たるものだが、エーテルも吸収して足しにする。
それも限界に近づいた頃、ピタッと、結晶から魔力が溢れなくなった。
直後、結晶は眩い光を放ち、思わずサガは手を離す。
しかし結晶は落下せず、光は並みの人の丈を大きく上回る程に大きくなった。
光は次第に人の形を成し、黒いズボン、白いローブ、褐色の肌と色がついていく。
光が収まり始め、ようやく現れた人物の姿を直視できるようになる。
安堵、喜び、達成感、その他様々な思いにサガは襲われ、まず涙が、追って笑みが零れる。
震えた声で、目の前に立つ者の名を声に出す。
「お帰り、ローグさん」
「おう、ただいま」
懐かしい、力強い声が返ってくる。
ローグはまず辺りを見回して、後ろのクラックとセリを見つけると、声をかけた。
「お二人さん、色々聞きたいだろうが、ちょっと席を外してくれねぇか?後で可能な限りは説明するからよ」
唖然とここまでの光景を眺めていた二人は、その表情のままお互い顔を見合わせ、一応合意して、軽く頷いてから少し離れたところへ移動した。
「よし。さてまずは…良く頑張ったなサガ。お前の声、聞こえたぜ」
「いえ、ローグさんが、助けてくれてなかったら、俺も、二人も、とっくに…」
嗚咽混じりに、途切れ途切れに話すサガに、さらに言葉をかける。
「この場所まで、あの二人も連れて来れたのはお前の力だろ?もっと誇れ」
「…はい…」
ローグの大きい掌が、サガの肩に優しく置かれた。
「さ、悪いがこの話はここまで。大事な話に入ろう。今、何が起きているかについてだ」
ローグのその言葉に、サガの顔は一転強ばる。
「正直言うとな、俺もそう詳しくはわかってない。だが一つ、確かに言えるのは───あの神の世界、原点が襲撃を受けた。相手も、やり口もわからんが、俺らは皆、何かにより一瞬で力を削がれて、原点の外へ吹っ飛ばされた。咄嗟に例の手段を取ったが、いかんせん急だったし、力も削がれたもんでな、上手くできずに、不完全なまま…」
「あ、ヒビはそういうことで…とすると、あの破壊現象もやはり溢れた力によるもの…」
「何、そんなことになってたのか!?確かにこの辺の地形…なるほど、こりゃマズいな」
ローグの表情が曇り、逆にサガはわからないと言った顔になる。
「つまりだな、他の神が居るとこも、皆こんな風になってるってことだ。」
「あ、そっか、他の皆さんも多分、不完全な結晶化になってるから…」
「そのままじゃいずれ消える。しかもその間、もしかしたらその後も、周囲の世界に影響を及ぼす。不完全な状態の、消えかけの神…そうさな、言うなれば、神の残滓によってな」




