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追放された悪役令嬢、赤字辺境領を押し付けられたので帳簿から立て直します  作者: 水城ルナ


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第6話 公開は、混乱から始まった

 倉庫の前に、人が集まっていた。


 まだ朝だというのに、数は昨日の集会より多い。

 好奇心、不安、疑念――理由はそれぞれだが、全員が同じ方向を見ている。


「……本当に、開けるんですね」


 マルクスが小声で言った。


「ええ」


 私は鍵を受け取り、扉の前に立つ。


 倉庫番の男は、落ち着かない様子で何度も周囲を見回していた。

 彼にとって、この公開は“自分が晒される”行為でもある。


「心配しないで」


 私は、彼だけに聞こえる声で言った。


「今日は、誰も罰しない」


 彼は驚いたように私を見たが、何も言わずに頷いた。


 鍵が回る音が、妙に大きく響いた。


 扉が開く。


「……少ないな」


 誰かが、ぽつりと呟いた。


 次の瞬間、ざわめきが広がる。


「帳簿じゃもっとあるはずだろ?」

「やっぱり隠してたじゃないか!」


 私は一歩前に出た。


「隠していません」


 声を張らずに言う。


「帳簿が、嘘をついていました」


 再び、ざわめき。


「じゃあ、今までの分はどこに行った!」


「誰が盗んだ!」


 怒号が飛び交う中、兵士たちが緊張した様子で手を剣にかける。


「剣を抜かないで」


 私は即座に言った。


 兵士たちは戸惑いながらも、従った。


「今日は、事実を見る日です」


 私は倉庫の中を指した。


「誰かを裁く日ではありません」


 だが――理屈は、すぐには通らない。


「ふざけるな!」

「責任を取れ!」


 前に出てきた男が、倉庫番を指差した。


「こいつだろ!」


 倉庫番の顔が、真っ青になる。


 その瞬間だった。


「――書類が、ありません!」


 マルクスの声が、倉庫の奥から響いた。


「出庫記録の一部が……消えています!」


 空気が、一気に凍りついた。


 私は、ゆっくりと振り返った。


「……いつ、気づいた?」


「今朝です。確認した時には、もう……」


 やられた。


 あまりにも、分かりやすい。


 これは偶然じゃない。

 公開を潰すための、妨害だ。


「ほら見ろ!」

「証拠がないじゃないか!」


 怒号が再燃する。


 私は、内心で深く息を吸った。


 焦るな。

 ここで感情を出せば、終わる。


「記録が消えているのは事実です」


 私は、はっきりと認めた。


 それが、さらに火に油を注ぐ。


「だったら――」


「ですが」


 私は、言葉を重ねた。


「実物は消えていません」


 倉庫の袋を、もう一度示す。


「数字は消せても、物は消えない」


 人々が、黙った。


「出庫記録がなくても、入庫記録は残っています」


 私は、別の帳簿を掲げた。


「完全ではありません。でも、ゼロではない」


 完璧な説明ではない。

 それは、自分でも分かっている。


 だが――


「今日は、第一日目です」


 私は言った。


「失敗も、混乱も、全部含めて公開します」


 沈黙が落ちる。


 誰かが、舌打ちした。

 誰かが、肩をすくめた。


 信頼は、まだない。


 だが――完全な拒絶でもなかった。


 人々は、倉庫を見た。

 袋を数えた。

 数字と現実の“差”を、自分の目で確認した。


 やがて、一人、また一人と、その場を離れていく。


 最後まで残ったのは、数人だけだった。


「……本当に、誤魔化さないつもりらしいな」


 誰かの、低い声。


 マルクスが、私の隣で小さく震えていた。


「……すみません。守れませんでした」


「いいえ」


 私は首を振った。


「これでいいの」


 妨害が入った。

 敵が動いた。


 それはつまり――

 **こちらのやり方が、効き始めた証拠**だ。


 倉庫の前には、踏み荒らされた地面と、消えない足跡が残っていた。


 公開は、混乱から始まった。


 けれど――

 ここから先は、もう後戻りできない。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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