第38話 名前を返す
声明は、短く書いた。
飾らない。
濁さない。
言い訳しない。
『今後、レインヴァルト方式という名称の使用を認めない』
それが、最初の一文だった。
ミーナが、紙を持つ手を止める。
「……本当に、出すんですね」
「ええ」
私は、頷く。
「もう、私の手を離れている名前だからこそ」
続けて書く。
『当領は、条件を満たさない案件への助言・介入を行わない』
『成功例としての引用を拒否する』
『調整は、責任者が明確な場合にのみ行う』
冷たい文章だ。
だが、正確だ。
午後、城下の掲示板に貼り出された。
反応は、すぐに来た。
支持する声。
戸惑う声。
そして、怒り。
「見捨てるのか!」
「逃げた!」
噂は、早い。
王都からも使者が来た。
「これは、波紋を呼びます」
「承知しています」
「なぜ、今この形で」
私は、真っ直ぐ答えた。
「名前だけが使われるのを、終わらせるためです」
使者は、ため息をつく。
「あなたは、敵を作る」
「ええ」
「守る者も減る」
「承知しています」
それでも、出す。
夜、ハインリヒから短い書簡が届く。
『ようやく腹を括ったか』
それだけだ。
マルクスが、静かに言った。
「……後戻りは、できません」
「ええ」
私は、帳簿を閉じる。
「でも、軽くなりました」
初めてだった。
名前を守るのではなく、
名前を手放す。
その方が、自由だ。
ミーナが、小さく笑う。
「怖いですね」
「ええ」
私は、同じように笑った。
「でも、静かです」
中立は終わり、
便利な神輿も降りた。
残ったのは、領地と、人と、仕組み。
それでいい。
名前を返した。
次は――
自分たちで立つ番だ。
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