第35話 守られない功労者
切り捨ては、静かに行われた。
「……責任の所在について、確認が来ています」
マルクスの声は、抑えられていた。
「どの件?」
「北部小領の調整失敗です」
私は、書簡を受け取る。
内容は、丁寧だ。
だが、行間は冷たい。
『助言を受けた結果、混乱が拡大した』
『責任の所在を明確にしたい』
「……助言?」
私は、紙を置いた。
「あの案件は、条件を満たしていなかった」
「ええ」
マルクスも、即座に頷く。
「正式な介入はしていません」
それでも、名前は出ている。
“レインヴァルト領の見解を参考にした結果”
便利な言葉だ。
「……守る気が、ありませんね」
マルクスの声に、わずかな怒りが混じる。
「ええ」
私は、静かに答えた。
「功績は使う。責任は押し付ける」
それが、この立場の正体だ。
昼過ぎ、王都の文官が来た。
以前、成功報告をまとめた男だ。
「今回は、少々問題がありまして」
前置きが、長い。
「北部小領の混乱について――」
「正式な条件を満たしていない案件です」
私は、遮った。
「関与していません」
「ですが、助言は――」
「一般論です」
私は、淡々と返す。
「記録は、残っていますか」
文官は、視線を逸らした。
「……口頭です」
その瞬間、何かが切れた。
怒鳴りたい衝動を、押し殺す。
「では、責任は存在しません」
声は、冷たかった。
文官は、困ったように笑う。
「そう言われましても……」
「そう言われるために、記録を残しています」
私は、机の引き出しから写しを出した。
「ここに、非介入の記録があります」
文官は、黙った。
帰り際、彼は小さく言った。
「……あなたは、守られませんよ」
忠告か、脅しか。
扉が閉まる。
ミーナが、震える声で言った。
「……ひどいです」
「ええ」
私は、否定しない。
「でも、予想通り」
その夜、帳簿を開いたまま、しばらく動けなかった。
怒りが、胸の奥に沈んでいる。
派手に燃えない。
ただ、冷たく重い。
善意で動いた覚えはない。
だが、誠実ではあった。
それでも――守られない。
マルクスが、静かに言った。
「……もう、限界です」
私は、顔を上げる。
「何が?」
「この立場です」
私は、ゆっくりと息を吐いた。
「ええ」
初めて、はっきりと思った。
中立では、守られない。
功労者でも、守られない。
なら――
次は、守られる立場を選ぶ。
それは、復讐ではない。
ざまぁでもない。
**生き残るための、配置換えだ。**
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