第34話 中立という幻想
中立は、安全ではなかった。
「……最近、妙な噂が出ています」
エルナが、低い声で言った。
「どんな?」
「どちらにも肩入れしない、信用できない人間だって」
私は、頷いた。
「予想通りね」
中立は、どちらの味方でもない。
だから――どちらからも疑われる。
王都の保守派は言う。
「勝手に調整し、秩序を乱す存在だ」
地方の急進派は言う。
「改革を途中で止める、腰の引けた人間だ」
どちらも、同時に成立する。
「……板挟みですね」
ミーナが、不安そうに言った。
「ええ」
私は、否定しない。
「だから、中立は幻想なの」
午後、ハインリヒが訪ねてきた。
以前より、顔が険しい。
「忠告だ」
前置きなく、そう言った。
「君は、もう目立ちすぎている」
「中立でも?」
「中立だから、だ」
彼は、椅子に座らずに続ける。
「誰の陣営にも属さない人間は、使いにくい」
「だから?」
「排除されやすい」
その言葉は、重かった。
「君を担ぎ上げている連中は」
彼は、鼻で笑う。
「守る気など、ない」
私は、静かに頷いた。
「知っています」
「なら、なぜ続ける」
私は、少し考えてから答えた。
「中立をやめる理由が、まだ無いから」
ハインリヒは、目を細めた。
「……甘いな」
「ええ」
私は、否定しない。
「でも、急げば壊れます」
彼は、深く息を吐いた。
「そのやり方は、最後に一番恨まれる」
「承知しています」
それでも、今は必要だ。
夜、マルクスが帳簿を閉じながら言った。
「敵を作らないのは、もう無理です」
「ええ」
私は、即答した。
「なら、選ぶしかありません」
「何を?」
「誰に嫌われるかを」
ミーナが、はっと息を呑む。
中立は、立場ではない。
ただの、過渡期だ。
全員から少しずつ嫌われるか。
一部から強く嫌われるか。
どちらかしか、残らない。
私は、窓の外を見る。
この領地は、まだ静かだ。
だが、外は騒がしい。
中立という幻想は、
そろそろ終わりに近づいている。
問題は――
**どの瞬間に、踏み出すか**だ。
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