第24話 理解しない同盟者
ハインリヒ・フォン・ローゼンが再び姿を見せたのは、予告もなく、昼過ぎだった。
「時間は取れるか」
以前と同じ、だが微妙に違う口調。
「ええ」
私は、書類を閉じた。
応接室に通すと、彼は今回は椅子に深く腰掛けなかった。
背もたれに寄りかからず、前のめりになる。
「……あちこちで、真似が始まっている」
「聞いています」
「失敗もな」
それは、確認だった。
「ええ」
私は、否定しない。
彼は、少しだけ鼻で笑った。
「君は、止めなかったな」
「止められません」
「止めようともしなかった」
「それも、事実です」
沈黙。
彼は、机の上に一枚の紙を置いた。
帳簿の写しだ。
「我が領地の数字だ」
私は、目を通す。
黒字ではない。
だが、以前より赤が浅い。
「……正直にしたな」
「仕方あるまい」
彼は、肩をすくめた。
「嘘を続ける余裕がなくなった」
それは、敗北宣言ではない。
現実認識だ。
「君のやり方は、嫌いだ」
唐突に、そう言った。
「光らない。英雄も生まれない」
「そうでしょうね」
「だが――」
彼は、こちらを真っ直ぐ見た。
「無視できなくなった」
それが、最大限の評価だった。
「連携の話だ」
私は、少しだけ身構えた。
「食糧の融通。税の調整」
「条件次第です」
即答だった。
彼は、口角をわずかに上げた。
「その顔だ」
「どういう意味ですか」
「情では動かない顔だ」
私は、否定しなかった。
「条件を書け」
彼は、紙を差し出す。
「共同倉庫。記録公開。期限付き」
私は、箇条書きにする。
「責任の所在を、明確に」
「……面倒だな」
「ええ」
私は、ペンを置く。
「でも、壊れません」
彼は、しばらく黙っていた。
やがて、深く息を吐く。
「君を、理解する気はない」
それは、拒絶ではない。
「だが、利用はする」
「構いません」
私は、頷いた。
「お互い様です」
立ち上がる際、彼は一言だけ残した。
「同盟ではない」
「ええ」
「理解もしない」
「承知しています」
扉が閉まる。
マルクスが、小さく言った。
「……味方、ですか」
「いいえ」
私は、帳簿を開いた。
「**逃げられない隣人**よ」
それで、十分だ。
完全な理解など、必要ない。
同じ方向を、少しだけ向ければいい。
連携は、助け合いではない。
足を引っ張らないための、最低限の約束だ。
そして――
それが、一番難しい。
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