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追放された悪役令嬢、赤字辺境領を押し付けられたので帳簿から立て直します  作者: 水城ルナ


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第21話 正解が、独り歩きする

 噂は、いつも説明より早い。


「レインヴァルト式」


 その言葉を、最初に聞いたのはエルナからだった。


「商人の間で、そう呼ばれてる」


「……何を指して?」


「情報公開と、厳密な徴税」


 私は、眉をひそめた。


「随分と、都合よく切り取られているわね」


 エルナは、苦笑した。


「成功談って、そういうものよ」


 数日後、ミーナが慌ただしく執務室に入ってきた。


「エリシア様、隣のカールシュタット村で――」


 声が、少し上ずっている。


「制度改革が始まりました」


 嫌な予感がした。


「誰の判断で?」


「村長と、領主代理です」


 私は、すぐに席を立った。


 現地は、混乱していた。


 掲示板には、新しい規則が張り出されている。


『税の即時納付』

『猶予申請は書面のみ』

『未納は罰則対象』


 人だかりの中心で、村人たちが言い争っていた。


「急すぎる!」

「今まで通りじゃ、駄目だって言われた!」


 ミーナが、小さく息を吸う。


「……正しい内容です」


 私は、彼女を見た。


「誰にとって?」


 彼女は、言葉を失った。


 村長が、こちらに気づいて近づいてくる。


「レインヴァルト領のやり方を、参考にしました」


 胸を張っている。


「これで、無駄はなくなる」


「準備期間は?」


「必要ありません」


 その言葉で、全てが分かった。


 正しさだけを、移植した。

 支える仕組みは、置いてきた。


「……反発は?」


「一時的なものです」


 私は、深く息を吸った。


「あなたは、数字を信じていますか」


「もちろん」


「では、人は?」


 村長は、答えなかった。


 その日の夕方、最初の問題が起きた。


 税を払えない農民が、倉庫への納入を拒否した。


「先に、生活がある!」


 それは、正論だった。


 だが、規則は動かない。


 夜、ミーナは落ち込んだ様子で言った。


「……良いことをしたはずなのに」


「ええ」


 私は、否定しない。


「でも、やり方を間違えた」


「同じ制度なのに……」


「同じではありません」


 私は、はっきり言った。


「ここでは、何ヶ月もかけて合意を積みました」


 板を指で叩く。


「その時間を、切り捨てた」


 ミーナの手が、震える。


「……私が、勧めました」


「知っています」


 責める必要はない。


 彼女は、正しさを信じただけだ。


 だが――


「正解は、文面では再現できない」


 私は、帳簿を閉じた。


「文脈と、人と、時間が必要です」


 翌日、カールシュタット村から抗議が届いた。


 改革は、止まった。


 だが、残ったものがある。


 不信。

 分断。

 そして――


「レインヴァルト式は、冷たい」


 そんな噂が、流れ始めた。


 ミーナは、唇を噛みしめた。


「……どうすれば」


 私は、少し考えてから答えた。


「まず、失敗を認めること」


 そして。


「次に、謝ること」


 正解は、独り歩きする。

 止めるには、覚悟がいる。


 この改革は、

 **もう、私一人のものではなかった。**


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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