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追放された悪役令嬢、赤字辺境領を押し付けられたので帳簿から立て直します  作者: 水城ルナ


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第20話 正しさを信じすぎる人

 彼女は、緊張した顔で立っていた。


「地方行政監査補佐、ミーナ・ヴェークナーです」


 名乗りの声は、少しだけ高い。

 背筋は伸びているが、肩に力が入りすぎている。


「王都より、研修を兼ねて派遣されました」


 私は、短く頷いた。


「エリシア・フォン・レインヴァルトです」


 形式的な挨拶が終わると、ミーナはすぐに本題に入った。


「レインヴァルト領の改革について、詳しく学ばせてください」


 その目は、真っ直ぐすぎるほど真っ直ぐだった。


「……何を期待していますか」


 私は、先にそれを聞いた。


 ミーナは、一瞬だけ言葉に詰まり、それから答えた。


「財政破綻を防いだ、画期的な制度を」


 私は、否定も肯定もしなかった。


「まずは、帳簿を見てください」


 マルクスが、静かに帳簿を差し出す。


 ミーナは、食い入るようにページを追った。


「……公開、役割分担、支払い順位……」


 指が、速く動く。


「合理的です。とても」


 それは、初めて聞く評価だった。


 だが――


「この制度を、他の領地でも導入すべきです」


 彼女は、即座にそう言った。


 私は、首を横に振った。


「そう簡単ではありません」


「なぜですか?」


 即答を求める視線。


「前提が違うからです」


「ですが、原理は同じです」


 彼女は、少し熱を帯びて続ける。


「情報公開、責任の明確化、公平な運用――」


「ミーナ」


 私は、彼女の名を呼んだ。


 彼女は、はっとして口を閉じる。


「この領地は、まだ苦しい」


 帳簿を、指で叩く。


「成功していません」


「……でも、潰れていない」


「ええ」


 私は、頷く。


「それだけです」


 午後、城下町を案内する。


 ミーナは、熱心に話を聞き、何度も頷いた。


「領民の理解も進んでいますね」


「いいえ」


 私は、訂正する。


「“納得していないが、耐えている”だけです」


 市場で、農民と言葉を交わす。


「改革は、どうですか?」


 ミーナが、少し前のめりに尋ねる。


 農民は、少し考えてから答えた。


「……楽じゃない」


「でも?」


「嘘は減った」


 それだけだった。


 ミーナは、何かを書き留める。


「前向きな変化ですね」


 私は、何も言わなかった。


 夕方、執務室に戻る。


「この制度は、希望です」


 ミーナは、興奮を抑えきれない様子で言った。


「正しく運用すれば、必ず――」


「正しく、とは?」


 彼女は、言葉に詰まった。


「……公平で、透明で」


「それを、誰が決めますか」


 沈黙。


「制度は、人を助けます」


 私は、続けた。


「同時に、人を追い込みもします」


 ミーナは、戸惑ったように私を見る。


「あなたは、正しさを信じています」


 それ自体は、悪くない。


「でも――」


 私は、帳簿を閉じた。


「正しさは、急ぐと人を切ります」


 その夜、ミーナは日誌を書いていた。


 真剣な顔で。

 熱心な手つきで。


 彼女はまだ、知らない。


 この領地のやり方が、

 **“正解”ではなく、“踏みとどまった結果”だということを。**


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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