第18話 生き残った領地
処分保留の通知が届いたのは、静かな朝だった。
王都の封蝋が押された書簡は、薄く、重くもない。
だが――内容は、この一ヶ月のすべてを肯定していた。
「……当面、現行体制を維持する、ですか」
マルクスが、何度か読み返しながら言う。
「ええ」
私は、短く頷いた。
支援もない。
称賛もない。
だが、切り捨てられもしなかった。
それで十分だ。
昼、城下町を歩く。
市場は以前より賑やかではない。
だが、閉じてもいない。
店主が、こちらに気づいて軽く頭を下げた。
以前のような敵意も、期待もない。
ただの――日常だ。
「……静かですね」
マルクスが言った。
「ええ」
私は、空を見上げる。
「でも、これがいい」
ヨハンが、畑の方から歩いてきた。
「村の会合、終わった」
「どうでした?」
「……出ていく話は、なくなった」
それは、最大の成果だった。
エルナは、夕方に顔を出した。
「王都、すぐには動かないわ」
「そう」
「でも、見てる」
私は、否定しなかった。
「商人は?」
「慎重。けど……」
彼女は、肩をすくめる。
「この領地、死なないって分かった」
それだけで、十分だ。
夜、執務室で帳簿を閉じる。
赤は、まだ残っている。
だが、増えてはいない。
「……黒字じゃないですね」
マルクスが、苦笑した。
「ええ」
私は、正直に答える。
「でも、生きている」
それが、全てだ。
帳簿を棚に戻す。
この一ヶ月で、奇跡は起きなかった。
英雄にもなっていない。
だが――
誰も、去らなかった。
誰も、潰れなかった。
それは、数字よりも確かな結果だ。
「……続けますか」
マルクスが、静かに聞いた。
「ええ」
私は、迷わず答えた。
「ここからが、本番よ」
改革は終わっていない。
むしろ、始まったばかりだ。
勝たなくてもいい。
褒められなくてもいい。
この領地が、今日を生き、明日を迎えられるなら。
それで――十分だ。
追放された悪役令嬢は、
赤字の辺境領で、今日も帳簿を開く。
静かに。
確実に。
――生き残るために。
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