第13話 改革は、静かに狙われる
変化は、表立っては起きなかった。
帳簿は回り、倉庫は開き、申請は処理される。
見た目だけなら、領地は落ち着いている。
だからこそ――異変は、遅れてやって来る。
「……報告が、三件」
マルクスが、記録を手にして言った。
「徴税係が一人、来ていません」
「倉庫番が、交代を申し出ています」
「村の会合で、“制度は危険だ”という話が出回っています」
どれも、小さい。
だが、方向が揃っている。
「偶然ではないわね」
「……はい」
マルクスの声は、落ち着いている。
以前のような焦りはない。
役割を分けた効果だ。
昼、ヨハンが来た。
「村で、変な話が広がってる」
「どんな?」
「“今は優しいが、そのうち締め上げる”」
典型的な不安の煽り方だ。
「誰が?」
「分からん。だが……」
ヨハンは、言葉を選んだ。
「前の管理官の名前が、よく出てくる」
私は、静かに頷いた。
夕方、エルナも顔を出す。
「商人側にも来てるわ」
「圧?」
「忠告、って顔でね」
彼女は苦笑した。
「“今は乗るな”“巻き込まれるな”」
点が、線になり始めている。
その夜、帳簿を見直す。
数字自体に、異常はない。
だが――
「……遅い」
マルクスが言った。
「入金が、微妙に」
意図的な遅延。
合法で、だが悪意のある。
私は、深く息を吸った。
「来るわね」
翌朝、城門前に人が集まった。
「説明しろ!」
「この制度はおかしい!」
暴動ではない。
だが、整った抗議だ。
私は、壇上に立った。
「話は聞きます」
怒号が飛ぶ。
「税が厳しくなった!」
「融通が減った!」
事実と、感情が混ざる。
「数字で話しましょう」
私は、板を掲げた。
「税率は変えていません」
だが――
「“運用”が変わっただろう!」
その言葉は、鋭い。
「ええ」
私は認めた。
「嘘を減らしました」
ざわめき。
「前の方が、楽だった!」
その声に、私は静かに答える。
「それは、未来の負担を先送りしていただけです」
空気が、重くなる。
「この改革は、楽にしません」
私は、はっきり言った。
「潰れにくくするだけです」
誰かが叫ぶ。
「じゃあ、今苦しい奴はどうする!」
私は、ヨハンを見る。
エルナを見る。
そして――
「支える」
そう答えた。
「制度で。記録で。公開で」
拍手は起きない。
だが、引き下がりもしない。
その夜、マルクスが言った。
「……本気で、潰しに来ています」
「ええ」
私は、帳簿を閉じた。
「だから、ここが正念場」
改革は、嫌われる。
特に――
**効き始めた改革ほど。**
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