融資担当の手帳
銀行員の堀田は、トラッバセキュリティの面談記録を整理していた。若い会社ではなく、専門技術を持ちながら赤字が続く会社。普通なら売上の増加計画を中心に聞くところだが、銀利樹一の話には断る案件の理由が多かった。堀田はその点を不思議に思い、取引先ごとの原価表をもう一度見直した。
数字の並びには一貫性があった。安い価格で仕事を増やせば、監視する人数と記録の費用も増える。受注が増えるほど損失が膨らむ契約を避けている。田倉が持参した月次資料にも、費用を減らすだけでなく、社員の労働時間を正確に管理する方針が書いてあった。堀田は「人が働き続けられるかも事業計画の一部か」と手帳に書いた。
しかし融資判断に情緒は持ち込めない。堀田は担保や返済原資、資金使途を確認し、追加資料が必要な項目を洗い出した。既存契約の入金予定と、未確定の商談を分けている点は評価できる。だが次の数か月で本当に資金が回るかは、まだ見通せなかった。
午後、堀田は田倉へ電話を掛けた。求めるのは顧客名の詳細ではなく、契約別の入金予定と解約リスクの説明だった。守秘義務のある情報は適切に伏せた資料でよいと伝える。田倉はほっとした声で了承した。資料を出す側にも守るべき顧客情報がある。 堀田は上司への報告に、増収の期待だけでなく契約の継続条件も書き添えた。小さな企業の取引には一件ごとの重みがある。反面、過去の赤字だけで現在の改善を見落としたくない。
銀行の窓からは、昼の商店街が見えた。小さな店の看板がいくつも並んでいる。堀田は会社を助けるためだけに融資するわけではない。それでも、良い判断を積み上げる企業が数字の上でも持ちこたえられるか、丁寧に確かめたいと思った。




