銀行の窓口
田倉澄子は銀行へ出向く朝、紺色の封筒を鞄の底へ入れた。中には直近の試算表と受注状況、運用見直しの記録がある。短期の資金枠について相談する予定だった。赤字が続く会社の資料を渡すことは気が重い。しかし支払いの予定が見えているうちに動くのが経理の仕事だと、銀利に言われていた。
銀行の担当者は数字を追いながら、契約更新の条件を詳しく尋ねた。新しい売上が増えても、請求から入金まで時間が掛かれば資金は先に出ていく。田倉は確定した契約と交渉中の案件を分けて説明した。見込みを実績のように見せれば、その場は楽でも後で困る。
銀利は営業の見通しだけでなく、夜間運用の見直しと労務費の確認も話した。担当者は「短期的には費用が上がるかもしれませんね」と返した。「はい。でも必要な費用を隠した利益は信用できません」。銀利の返答を聞き、田倉は少し背筋が伸びた。自社の弱点を理解したうえで説明する社長の姿は、彼女にとって頼もしかった。
面談後、銀行は追加資料を依頼した。承認の見込みはまだ分からない。田倉が事務所へ戻ると、良助が書類棚から古い契約の控えを探していた。彼は封筒の厚みを見て「たくさんありますね」と言う。「会社のことを説明するには、これでも足りないの」。田倉は笑いながら机へ座った。
午後には通常の請求処理が待っていた。借入の相談をした日も、振込の期限は変わらない。田倉は銀行から求められた資料の一覧を別紙へ書き、明日の仕事と今日終える仕事を分けた。資金の心配は続いているが、見せられる資料が増えたことだけは確かだった。




