持ち出さなかった名前
研修端末の件を受けて、日下部は社内の持ち物管理表を見直した。端末番号、利用する部署、返却予定日が一目で分かるようになったが、利用者の氏名を必要以上に公開する欄も増えてしまっていた。確認する人が多いことと、全員が同じ情報を知る必要があることは違う。
田倉は管理上必要な情報と、個人情報として扱うべき情報を分けた。技術担当は端末の状態を確認できればよい場合が多い。誰が借りたかを調べるのは、責任者だけで足りる。銀利は新しい表を見て「便利さだけを基準にしないで」と言い、公開範囲を絞った。
良助は「番号だけだと、同じ机に二台あっても分かりますか」と聞いた。久世は機器ごとに識別できる札を取り付け、登録番号の読み違いを防ぐことにした。ただし札に人の名前は書かない。現物で区別することと、利用者の情報を見せることは別だった。
午後、広瀬は新しい表を使って返却手続きを試した。誰に聞けばよいか明確になり、棚から借り出す時間も短くなった。昨日の紛失騒ぎを責める話は出なかったが、本人は自分の記録漏れが他人へ迷惑を掛ける可能性を忘れていなかった。 同じ日に、田倉は来客用の入館名簿も確認した。目的を終えた後の保管や閲覧範囲が曖昧なら、端末の管理表と似た問題を抱えることになる。受付の運用まで一度に変えず、必要な確認だけ来週の予定へ入れた。
日下部は一日の終わりに改訂履歴を書き、次の研修日を記した。事故を避ける仕組みを増やすたび、仕事が重くなることもある。必要な記録だけを選び、誰でも守れる形にする。その調整は派手ではないが、小さな組織が長く働くための大事な作業だった。




